―――………すごい。
改めて。改めては、今の状況をそう思った。
―――夢みたい。ううん、夢じゃあ、ない。
come here.[3]
「へェ、こっちの世界ではこれで移動するんだ」
電車の席に座って、車内を物珍しそうにきょろきょろと見回しながらサンジが言う。
一通り見ると、今度は気になるのは背後の窓の外らしくて。ちらちらと振り向いては、外、眼下を見ている。
「ええ、そうよ。実はね、これも電気で動いてるの」
「え、マジで!?」
ぱっ、と驚いたような声を出して自分の方を振り向く、そんなサンジの様子を、隣で微笑ましい顔をしながらが見る。
どこからどう見ても、もうすでに子供には見えない歳の男性が、電車の窓の外を興味津々、といった様子で首を後ろに
向けていたり、また隣の女性と話している内容が聞こえれば。
傍から見ると何ともおかしな光景だろうが、仕方ない。
それにこれがサンジではなくルフィだったら、絶対、座席に膝をついて窓の外を眺めながら大騒ぎするだろうから、それ
に比べればこのくらいは、と思えるだった。
それにこんなサンジは、何だか可愛いな、と思えてしまう。
―――それに。それに… これって、まるでデートじゃない? 勢いでショッピングに連れ出しちゃったけど……
自然と、隣のサンジにの顔がふっ、と緩んだ。
電車に乗る前も、携帯電話とかマンションのエレベーターとか。信号機や車、タクシー、バス、トラック等。そして券売機に
自動改札機。
初めて見る・歩く町並みやそれら、こちらの世界の機械等に驚きを隠せず、興味津々なサンジに、信号の渡り方や
自動改札機の通り方などを説明しつつ、また、珍しそうに見ていたり聞いたりしてくるサンジに答えたり。
“そうね、この世界では機械が発達して、電気と石油を主なエネルギー源として動いてる、ってことね”
そう言いながら電柱と電線を指さして、これで各所・必要なところに電気を送ってるの、もちろん今住んでる私のマンション
にもよ、とが言うと感心したような顔をしたサンジ。
―――ああ、やっぱり。
やっぱり彼は、この世界の人間じゃないんだな、と。本当にONEPIECEの世界からこっちに来てしまった、サンジなんだな、と。
そう思ってしまった。
もしサンジの歳までこの世界で暮していれば、普通に当たり前に接する、使いこなせるはずの日常の道具。
それらにいちいち、驚いたり珍しがったりするのだ、彼は。
「へェ…… 俺も、今までグランドラインでいろんな島巡ってきたけど、やっぱココが一番変わってるなァ」
「そう? ……そうかもね。いろいろなことが、根本的に違うもの… ね」
自分がいる、自分にとっては当たり前の世界のはずなのだけれども、それを確かめるようかのように、外を見遣りながら
が言った。
「やっぱり全然違う世界に来ちまったんだな俺は。 ちゃんと戻れんのか、皆のトコに……」
「サンジさん……」
正面向いて呟いたサンジの心境を思うと、これってまるでデートかも、なんて浮かれてる場合じゃないことに気付いた。
そうだ… 彼は、ONEPIECEの世界からいきなりこの現実世界に飛ばされて…… そりゃ元の世界に帰れるのか、心配だろう。
ましてや今、皆はエネルなんかと戦ってて…… 自分が戻れるかもさる事ながら、皆のことも心配なのだろう、彼は。
特に……
―――彼がこちらの世界に来る直前、命がけで助けたオレンジ色の髪の女が、の脳裏に浮かんだ。
多分、サンジは一番、彼女のことが気がかりなのに違いない―――
「あァでも、悪ィことばっかでもねェな。この世界に飛ばされたのも」
「え?」
いつのまにか俯いていた顔を上げると、こっちを見ているサンジと目が合った。
サンジはニコニコと笑っている。
「さんに出逢えたから。こればっかりは、こっちの世界に来なきゃ有り得ねェことだったからな」
と目が合った途端、サンジはそう言ってくれた。
「サンジさん……」
先程と同じく、がサンジの名前を呟く。しかし、先程と違って彼の顔を見つめたまま、口調も大分違ったものだった。
「……そう言ってもらえると…… 嬉しいです」
心なしか、赤みがさしたような顔でがそう言うと、サンジも頷いてくれた。
電車を降りて、向かった先は最近流行りであちこちに出来始めている複合商業施設のショッピングエリア。
「ここよ」
「! へーえ……」
に連れられて屋内のショッピングエリアに入ったサンジが、辺りを見回しながら言った。
「いろんな店があるんだなァ……」
「ええ。じゃあさっそく行きましょうか」
はサンジに笑いかけると、歩き出した。
「……これ、これなんかどうかしら?」
こういうショッピングエリアを見て回るのが好きなは、よく休日にも友人達と出かけていた。
好んで見て回るのは、ステーショナリーやキッチンツール、バス雑貨やアクセサリーの店。それに珍しい輸入食品の店。
そして……
“あ、、あんたってばどこ行ったのかと思ったらこんなとこいて”
次の店に向かおうとしていたとき、急にぱっ、と先に歩き出したに友人が追いついた。そしてが手とりつつ、
見始めた商品に視線を移すと、にやり、と微笑って言った。
“……ふ〜ん、なるほど。また思ってたんでしょ。この服・この色、サンジに似合うんじゃないかって”
「あァ、さんが選んでくださるなら何でもv それにこの色、俺も好きだしな」
いつぞやにこのショッピングエリアに来たとき、目に付いたこの服。友人に半ばからかわれつつ、見ていたメンズのシャツを、
サンジに見せる。
こういうショッピングエリアではメンズを扱う店は数少ないが、見つけると必ず寄ってしまい、これなんかサンジに似合うかも、
なんて思いつつ眺めるにつき合ってくれた友人にこっそり、感謝した。
「何でも、だなんて……でもよかった、この色嫌いってわけじゃなかったんですね。サイズとか、大丈夫かしら……」
シャツを広げて、サンジの肩にあてた。
「……なんとか大丈夫そうね。袖… は半袖だからあんまり気にしなくていいとして、丈も……」
広げたシャツをサンジの身体にあわせてみて、肩幅や丈を見ていただったが、不意に
「あっ…… ご、ごめんなさいっ」
急に顔をぱっと赤らめて、が離れた。
そう、サンジは黙って、がするのに任せていたが。
サイズを見るのに、広げたシャツをサンジの身体にあてて。肩幅、袖丈、着丈等をチェックするのに、はサンジの身体に
あちこち、触れてしまっていた。そのことに気付いたらしい。
「いやいやそんな、謝ることなど。さァさん、存分にどうぞv」
おどけた調子でサンジがそう言ってにかっと笑う。
「まァ…… このシャツは俺にピッタリみたいだけど。サイズだけじゃなく色やデザインも、全て。気に入ったよ」
サンジがの手からそのシャツを受け取って、言った。
「そうですか、よかったァ。あ、あとこれなんか、どうでしょ?」
それ以外にも見つけておいた服をサンジに見せたり。
「あ、サンジさんも。気に入ったのあったら、言ってくださいね」
なんてサンジに選ばせたり。
そんなこんなで、シャツ・ズボンをいくつか選んでお買い上げ……だが。
「あの、さん。ところで、お会計……」
「あ、いいですよ。気にしないで。任せてください」
にっこり、が微笑んで、会計を済ませてしまった。
「すみません」
「いいえ。連れてきたの私ですし、気にしないでください。それにサンジさんの世界と、通貨も違いますし」
“電車”とやらに乗るときに“切符”なるものを買ったとき。そのときにこの世界の通貨についてもから聞いたが、
確かに自分が持っていたベリーとは違う、円、とかいう単位で、コインも紙幣も見たことがないものだったことを
サンジは思い出していた。
「それはそうなんだが…… ありがとうさん、今夜は美味いモン・さんが好きなモン一杯作るから」
がレジから下げてきた袋をさりげなく彼女の手からとって、サンジが言った。
「ホントですか? 楽しみだわ」
ぱあっと笑顔になったに、サンジもつられるように笑う。
その後、あともう一軒。メンズを扱っている店を思い出して、そっちにもとが誘う。
「こういうのも… どうかしら」
そこの店、扱っているのはメンズというか…… メンズ・レディース共に扱う、カジュアルショップ。
「ジーンズか」
「それとこんな感じのシャツ」
色合いは白の、コットンシャツ。
「あるいは、こういうの?」
シンプルなVネックのTシャツ。あれ、そういえばこのテの、ピンク色って確か……
「へェ、いいな。こっちの店でも選んでいいかい?」
いつか(なんて言わなくてもわかるけど)、サンジが着ていた気がする。が、当の本人そんな事問題にしていないので、
よしとしよう。
さて、その店で。
サンジが選んだジーンズ、そして白のコットンシャツ。
サンジはそれらを、一点ずつ選んだはずなのに、会計時、が精算しているのは二点ずつで……?しかも片方は、
何だか一回り小さい気が。
「一組は私の分なの。サンジさんが選んでるの見てたら、自分でもほしくなっちゃって」
サンジが選んだのと同じ風合いのジーンズ、そして同じテので、サイズが違うコットンシャツ。
「お揃いになっちゃったけど…… 嫌ですか?」
聞いてみたら、最初はサンジは、驚いたような顔をしたけれど。
「まさか、とんでもない。そっか、お揃いか。いいねェ、いつか一緒に着てみたいなァ、さんと」
次第に綻んだ顔は笑顔になって、そう言ってくれた。
「はい」
真向かいに座ったサンジに、が灰皿を差し出す。
「ごめんなさいね。この世界、愛煙家も多いけど世間的には禁煙の波が広まってて…… それにウチでも、私が吸わない
から…… 今までずっと吸えなかったでしょう」
「いや。さんが謝ることじゃないですよ。まァ確かに喫煙は身体にゃよくないってわかっちゃいるんだが……」
苦笑しながら、サンジがその灰皿を自分の方に引き寄せた。
ちょっと遅くなったランチタイム、入ったレストランにて。
“お煙草お吸いになられますか?” と聞いてきたウェイトレスに “はい” と答えたのはだった。
それで二人は今、喫煙席の一角に向かい合って座っている。
早速、サンジは煙草を一本、取り出すと火をつけた。
久しぶりの煙草、もしかしたらこの世界にきて初めてじゃないだろうか。
煙がの方に流れないよう、気をつけつつ煙を吐く。
“ご注文はお決まりですか?” とやってきたウェイトレスに料理を注文して、ようやく落ち着いた。
ショッピング施設、下のショッピングエリアから上がってきた、上の階のレストラン街。
いい機会だからエスカレーターで移動して(“へェ、こっちの世界じゃ階段も動くのか!” なんてやっぱりサンジは驚いてた
けれど)この前食べにきて、美味しかったと思った店に入った。
今は、そこの店の一角にサンジと二人、落ち着いている。
―――………すごい。
改めて。改めては、今の状況をそう思った。
―――夢みたい。ううん、夢じゃあ、ない。
平日の昼間。
本来なら昼休みも終わってる今、会社はすでに午後の業務に入り、仕事をしている時間。
別に会社の仕事に不満があるわけじゃないけれど。入社して数年、もう毎日の業務にはすっかり慣れた。
半ばルーティンワークと化した仕事をもくもくとこなしているこの時間。
今日は、お気に入りの商業施設のショッピングエリアにて。
今までは自分のONEPIECE好き・サンジ好きを知っている友人と、“コレ、コレなんかサンジに似合うかも”なんて言いながら
見ていたシャツや、ズボンなどを。
まさか、本人に直接、買ってあげる日が来ようとは。
“似合うかも” とはしゃいでいたシャツは、本当にサンジに似合っていた。サンジに着てもらって、初めてシャツとして着てくれる
人間を引立たせることができるような。そんな感じじゃない? とさえ思えるくらい……
それは思い込みすぎかもしれないが、今日のの心情では、仕方ないかもしれない。
平日の昼間、会社を休んで。彼の服を買ってあげる、という名目で男を一人、連れてショッピング。
その後、こうして向かい合ってランチを。
これは、やはりどこをどう見ても、デートという事ではなかろうか。
しかも、その相手が、ずっと、密かに恋し、想いを募らせていた相手。でも、絶対叶わないってわかっていた相手。
起こり得ない事は重々承知、傍から見れば異様な、滑稽な恋心。
そりゃそうよ、何処に漫画の世界のキャラクターに本気で恋する女がいる? それもいいトシした、会社勤めも
している女が。
でも、はそうだった。傍から見れば異様なのは、滑稽なのは重々承知、自分でも自分をそう思っていた。
それでも、募る想いは止められなかった。
―――ONEPIECEのサンジが好き。愛してる。
その想いだけは。そしてどうしてこうなったのかはわからないが……
今、そのサンジが。目の前に、いる。
昨夜、突如の前に現れて、そして一晩経って。
一緒に朝食を食べ、街を歩き、電車に乗り、ショッピングをして。
今、レストランの一角で向かい合って座って、遅いランチがくるのを待ちつつ、美味しそうに煙草をふかしている。
「何? さん。どうしたんだい、疲れたかい?」
が見つめてきたまま、じっとしてるのに…… しかしキツイ視線ではなく、どこか夢見るようなふわふわした感じの
視線なのに、サンジが気がついて声をかける。
「あ、ううん、そうじゃない…… んだけど」
目の前にサンジがいて。こんなふうに、気遣ってくれて。
煙草の煙だって、自分が吐くのも煙草から立ち上るのも、の方に流れないよう気を遣ってくれている。
「そう? ならいいんだけどさ。ちょっとぼうっとしてるように見えたから。ひょっとして腹減った?」
「えっ、あ、まあ… そんなとこです」
ぼうっとしてるのは、今の状況を夢みたいだと思ってるから。
いやでも、夢じゃない。現実。本当に、サンジさんはここにいるんだ―――
昨夜の奇跡を、今日の奇跡を。今更ながら、噛み締めるだった。
サンジが冷蔵庫の食材で夕飯を作ってくれている間。
「うわあ…… 結構買ったなあ」
ボーナス出たばかりでよかった。今回、特に大きい買い物の予定もなかったし。
ランチの後も、いろいろ見て回った。
こちらで暮していくのに、必要なのは何も服だけじゃないから。
それでも、日用雑貨などはむしろ、出かけた先のショッピング施設より地元のデパートの方があるし、そっちで買った。
けれど―――
“はい。これも必要ですよね?”
“おそれいります”
コト、とリビングのローテーブルの上に置いたのは、灰色の円形の灰皿。
確かこの辺の雑貨屋で見たはず…… とはショッピングエリアで最後に、サンジを灰皿が売っているところに
連れて行った。
そこで、サンジが使うのだから、と彼に使いたいものを選んでもらった結果―――
この形がシンプルでわりと使いやすいから、と今、ユーコがテーブルに置いた灰皿を選んだ。
あとは、昨夜からサンジに、寝床として使ってもらってるソファベッドの下の収納。引き出し式のそこには、冬物のコートや
セーター、普段は使わない旅行鞄などが入っていたが、そこを整理して空けて、サンジの服を入れた。
「では、これから」
サンジに教えたの好物が並ぶ食卓を二人で囲んで。
「改めて、よろしくお願いします」
サンジと、二人で頭を下げて、改めてご挨拶。
2003年7月15日。
、会社をズル休み。
サンジがこちらの世界で暮していくにあたって着替え他生活必需品を、彼と共にショッピング。
これが二日目の事。
<come here.3/fin.→next go to 4>
お買い物、行って帰ってきました。デートです、デート。コッチの世界で、会社ザボって、サンジとデート。
ええ、本当に出来るのなら会社休みますよ葉月さんは。仕事よりプライベート優先したいです(できないときもありますが)。
日記にもときどき、会社サボったらしい記述が残ってますが(汗)、何か?
アクアシティやデックス東京、東京ドームシティetc.、etc.…… 商業施設は大好きです。よく行きます。
それでよくつき合わせて、服や小物なども、「これ、サンジに合いそうじゃん」とかやってます。ねえ、朱理さん。
いつもいつもつきあってくれてありがとう。その…… あまり役立ってないかもしれない(爆
せっかく“今までいろいろ、一緒に行ったのが役立つかも”と言われたのに、ねぇ……(苦笑