……昨日のアレは。
夢じゃない…… のよね。
だって私の部屋から、サンジグッズが一掃されてるんだもの。



   come here.[2]



もし昨日・昨夜の出来事が、にとって夢ではなかったのなら。
この自室とリビングを隔てる引き戸の向こうに…… 本来はマンガの中のキャラクターであるはずの、ONEPIECEのサンジ
がいる。


昨夜、東京都下のこのマンションに住む一介のOL・は、一つの出逢いを経験した。
ありえないはずの出逢いを。
昨夜、仕事から帰ってきたときに玄関前に座ったまま寄りかかって気を失っていた男。
彼は何と、マンガの中のキャラクター・ONEPIECEのサンジだった。

一夜明けた今だって、信じられない。
大体なぜ、マンガの中のキャラクターの彼がこの現実世界に?
そうよね、ありえない。いくら私が、本気でサンジを………  としても。
昨夜のは、その想いが見せた夢よ、幻よ……

ガラッ。

「あ」
「おはよう、さ…」
「ゴ、ゴメンナサイっ」

ピシャ。

自分の部屋のサンジグッズや、本棚のONEPIECE関連書籍やビデオがなくなっている(昨夜見た夢(と思い込んでいるもの)
によると昨夜から同居することになったサンジに、こちらの世界では彼はマンガの中のいちキャラクターであることを悟らせない
ようにするために、ダンボールに詰め押入れに隠した)のは気のせい気のせい、と気に留めない風にしていたがやっぱり。

さん!?”

引き戸の向こうから聞こえるのは、慌てたようなサンジの声。
やっぱり、夢でも幻でもなんでもなく。
サンジはそこにいる。
しかも何でか、上半身裸で。

「び、びっくりしたぁー……」

ずるずると、引き戸を滑るようにがしゃがみこむ。
でも、本当に。本当だったのだ。昨夜の出来事は全て。

……でも、ちょっともったいなかったかしら。だってサンジ、アニメでも原作マンガでも、エースやゾロと違ってそう滅多に身体、
見せてくれたり、見えるような服着てくれないから…… なんて、そんなこと本気で思ったらヤバいかなあ……
ていうか、やっぱりホントだったのね…… 昨夜のことは。
とか考えていたら。

さん。すみません、もういいですよ。出てきてください”

ぐるぐる巡る、昨夜の出来事や自分の想いなどを整理しつつそのままの体勢でしゃがんでいたら、コンコン、と背後の引き戸を
叩く音。
それと共に呼びかけてくれるサンジの声。
それにそっと、立ち上がっては、おそるおそる引き戸を開けた。

「おはよう、さん。さっきはすみません」

そう言ってサンジがにこっと笑う。

「おはよう、サンジさん。……どうしたの?」
「イヤ何か、全身包帯グルグルの割りにゃどっこも痛くねェなって思って試しに腕の包帯とってみたんだけど。どっこもケガとか
 してねェんだ。で、反対の腕やら脚やら… あと腹のもとってみて見てみたんだがケガどころか傷一つ見当たらねェ」

そう言いながら、包帯をくるくる巻き取るサンジ。

「おかしいって思ってよ。俺は確かに雷野郎の雷に打たれて全身火傷負ってたはずなんだぜ?」

それには頷く。忘れもしない、サンジはエネルに二回、雷で打たれてる。昨日の以外にもう一回、エネルがメリー号に
来た時。
その包帯はその後、メリー号に来たコニスが、ウソップも一緒に二人のケガの手当てをしたときに巻いた包帯だ。
ちゃんとジャンプでもコミックスでも、は読んだ。

「何でだろうって首傾げてたら、さんがそこの戸から出てきたってわけ。すまなかった、そういやここはレディの家なのに
 裸でいたりして」
「そうだったの… いえ、私こそごめんなさい、いきなり開けて。でも確かにサンジさん、空島の戦いに巻き込まれてすごくケガ
 してたはずなのに…」

言いながら、がサンジの隣に来て、半袖から覗く彼の腕にそっと触れる。

「本当に、火傷の跡すら見当たらない…… 痛い所とかも、もう平気なの?」
「ん、あァ… 特には。大丈夫ですよ」
「本当に? よかった」

そう言って、顔を上げたはにこっと微笑む。

「……さん」

呼びかけに気付くと、サンジが、いつのまにか自分の腕に添えられていたの手を握っている。

「もしかして、この俺の心配を? 今朝は朝っぱらから見苦しいモンお見せしてしまったというのに、何て優しいレディなんだ、
 貴女という人はvvv」
「サ、サンジさんっ」

手を握ったまま迫ってきてそう言うサンジに、途端にの鼓動は跳ね上がり、顔が熱くなる。
そう、今までは原作マンガやアニメの向こうで。同じ登場人物の女性キャラクターにこんな感じで迫るサンジを、誌面・画面の外
から眺める身だったけれど、今はそれが自分の身に起きている。
これがONEPIECEの世界で例えばナミに起きていることだったら、今頃サンジは殴られて沈んでいるか最初からスルーでかわさ
れているかのどちらかだろうが……

「あの、サンジさん、私。まだパジャマのままだし、着替えたいんですけど!」

そう言っては、ばっと立ち上がる。

「あァ、さんv パジャマ姿の貴女も素敵だv  でも確かにそのままってわけいかねェし。朝ご飯、作って待ってるねェvvv」
「着替えたら手伝います」

はそう言って自室にひっこむと引き戸を閉める。

あー…… 顔真っ赤だなあ。心臓もバクバクいってる。
鏡に映った自分の顔を見ながら、は呟く。
わかるけど、わかってるんだけれど。ONEPIECEを読む限り見る限り、サンジのあの態度は相手が女なら一度はやること
だって。
そりゃあ、サンジに気がない女性キャラのみなさんは、巧くあしらうトコなのだろうけれど。ナミだったら殴るか無視なんだ
ろうけど。
私ににそれができるわけないじゃない、とは思う。
そう、そんな風に女性キャラに接する所も含めて、全て。
サンジの全てを愛していると言い切る。もう単なるマンガのキャラクターどころではない、本当にサンジが恋愛対象の

しかも今までだってそんなに恋愛経験があるわけでもなく、色恋沙汰に長けてるわけでもないので、なおのこと、あんな
時にはどうしたらいいのか……。
んー、何か真っ赤になって思わず振りほどくみたいな感じで逃げてきちゃったけど…… 変に思われなかったかなぁ…
パジャマから服に着替えながら、は思う。
まあ今まで、コミックスで読んできたりアニメで見てきた彼であれば、まあ大丈夫だろうとは思うけれど……

「あ」

そういえば、アニメや原作マンガなんかでああやって迫ってくるときは、目がカシスピンクのハート型になったり煙草の煙が
ハート型だったりするけれど、目は普通だったなあ、今。顔もありうる程度にしか崩れてなかったし。
煙草は吸ってなかったからわからなかったけれど、やっぱりハートの煙じゃないのかも。
やっぱり現実に出てきてしまうと、現実に起こりうる程度にしか崩れないものなのかしら。
……などと。
サンジに迫られて真っ赤になって慌てふためきながらも、そんなところは何だか冷静に見ていたりする、だった。



着替えてリビングに戻ってみれば、サンジは朝食作りの真っ最中。
何か手伝うこと… をが聞いてみたら。
こっちは大丈夫、だと。それよりもレディの朝の身支度は着替えるだけじゃ終わらないだろう、と。
こっちは平気だから、着替える以外の身支度もしてきなよ、というサンジの言葉に甘えて、メイクもすませた。
そうして戻ってみると後は配膳のみ、というところまで終わっていたのでそれだけを手伝い、昨夜と同じく向かい合って
朝食を。

「いただきます」

二人で向かい合って食べる朝食。
いつも一人の朝は、昨夜のおかずの残りやそれに手を加えたものを半分昼の弁当のおかずに、半分朝食のおかずに。
そのおかずと気分によって、ご飯一膳かトースト一枚、それが朝食だった。
でも今日は。
昨夜の残り物なんかじゃない。ちゃんと作ってもらった食事。
一人の朝だとどうしても、昨夜の残り物とか外食してしまった日には果物切っただけとかトースト一枚になってしまいがち
だけど……

「美味しい!」

一流ホテルの朝食バイキングなどでも滅多にお目にかかれないんじゃないかと思われるような、ふわふわのオムレツとか。
カリカリに焼かれたベーコンとか。レタスを敷いた上にときゅうりとにんじんの千切りをあわせたサラダとか。
ドレッシングも、が買って冷蔵庫に入れていたものとは違う味、ってことはお手製の。もちろん今使われてる方のが美味しい。
そしてその横に添えられているくし切りのトマトでさえ。
彼が、サンジが作ったものだと思うと、それだから尚更なのか。

「ホントはパンもトーストしたかったんだけど。トースターとかオーブンとかって、あるのかい? それらしきモノは見つけたけど、
 使い方がわかんなくってな……」

美味しい美味しいとが食べていると、サンジがそう言った。

「あ… ありますよ。一応。あ、そっか、もしかしてサンジさんのいた世界のとこっちの世界のじゃ違うのかもね……」
「あ、やっぱりそうなのかい?」
「ええ。こっちの世界のは、電気で動くから。コンセント差して、ボタン一つ。温度と時間、設定さえしてやればあとは全部、
 機械がやってくれるんです」
「え、電気で? そっか、陸地だもんな。海の上だとそれも結構貴重だからな… そういや陸のレストランだと電気で動くの
 使ってるトコもあるって聞いたことあるけど、俺は火の上に乗っけて使うヤツばかりだったから…」
「あ、私もそれ使ったことありますよ。学校の調理実習のオーブン、それだったわ。あれ結構火加減難しいのよね、ちょっと
 目放して他の作業してると、すぐ温度上がりすぎちゃって―――」
「ああ。慣れるまでは結構大変かもな。俺は自分の、使い慣れてるのだと失敗はないけど、新しいのだと加減がよくわからねェ
 うちは焦がすこともあるし」
「えっ、サンジさんでも料理で失敗することがあるの?」
「そりゃあ…… まあ、な。東の海一番の自信も腕もそりゃあ俺にはあるし、完璧だと思うけど、料理の道に終わりはねェから。
 毎日が新しいレシピと試行錯誤の挑戦ですよ」

そう言ってにっこり笑うサンジの笑顔は、それはもうが好きな料理人サンジの表情そのもので。
まさかサンジと、差し向かいで彼の料理を食べつつ、料理の話が出来る日が来るなんて思わなかったから。

「? さん?」

ほけー… っと。
ふと気付いたサンジがに呼びかけるまで。それまで、は思わず、サンジに見惚れていた。

「え、あ、ううん、何でもっ」

そう答えて慌ててフォークを動かし、続きを食べ始める

「あ、そういえばさん、昼はどうしてるの?」
「お昼… は、作れたときにはお弁当持ってくけど…… そうじゃなかったら適当に買ってくとか」
「んじゃ今日は…」
「ん、大丈夫。会社のすぐ近くにコンビニあるから買うわ」
「コンビ二?」
「あ、えーとこっちの世界でのお店の種類。正式にはコンビニエンスストア。食べ物とか飲み物とか日用雑貨とか雑誌とか… 
 そういうちょっとしたものを取り揃えてて、気軽に買えるお店ね」
「へェ、便利な店があるんだな」
「そ。だから“便利な店”っていう、まんまの意味なの」
「そっか。んじゃ今日の分はそうしてもらうにしても… 明日からは俺がさんに、愛情たっぷりの美味しいお弁当、作るねv」
「……はい」

……うわ。嬉しい。
原作マンガで見るたびに。例えば、最近のでいえば、アッパーヤード探索チーム・ゾロも食べてた海賊弁当。
サンジの手作り弁当。見るたびにいいなぁ、と。
“あー、一回でいいからサンジがお弁当作ってくれたらなぁ〜”と零しながら通勤用の、会社での昼食の弁当を作ってた自分。
“これがサンジが作ってくれたお弁当だったらなあ”と昼休みに弁当の蓋をあけて苦笑いしてた自分。
別に料理は嫌いじゃない、むしろ好きなんだけれど……、たまには夢見たいじゃない。
常日頃、そんなことをは思っていた。
それが、明日…… 作ってもらえんるんだ……


「……さん、さん」

そんなことを思っていると、サンジが呼んできた。

「ところでさん、会社は? まだ大丈夫なのかい?」
「え……」

言われてみれば。

「えっ……あーーーー!」

サンジに言われて時計を見て。そしては初めて気付いた。
……いつもならば、電車を待っている時間。しかもそれは、自宅最寄り駅ではなく、途中の乗換駅で電車を待っている時間。
あ、今頃電車が来たかもしれない。月曜であれば、一回ジャンプを閉じ、ちらっと時計を見つつ、電車に乗り込むところだ。

「あーあ……」

今からウチを出てももう、遅刻決定。
……仕方がない、こうなったら。
は傍らにおいてあった、通勤用の鞄から携帯電話を取り出した。短縮02。短縮01は実家の番号、今押した02は…

「……もしもし、スミマセン。ですけれど。実は今朝、起きたときから頭痛くて熱っぽくて…… はい。それで今日、お休み
 したいんですが…… はい、すみません。よろしくお願いします」

電話の向こうに出た上司にそう告げ、休暇の許可を貰うとは電話を切った。短縮02は勤め先の電話番号だ。
ピッ、と通話終了の操作音と共に電話を切ると、サンジがこっちを見ていた。

「ああこれ? これは携帯電話って言って…… こっちの世界でも、遠くにいる人と電波通じて話すことができるの。サンジさん
 たちの世界では、子電伝虫……みたいなもの? あ、あと普通の電伝虫に当たるのがその機械、かな。FAX機能もついてるわ」

が見たこともない、小さな機械をパカッと開き、それに向かって喋りかけているのが不思議だったのか、じいっとこちらを
見ていたサンジ。彼に、そう説明したは電話機を指さした。

「へェ〜、そうなんだ……って、さん!? 具合悪いのかい!?」

納得した表情の後、すぐにはっと表情を変え、サンジが心配そうに聞いてくる。

「ううん。会社休むための口実」

はそう言うと、にっこりと微笑んだ。

「今から出勤しても、どうせ遅刻だもの。だから、ね。それよりサンジさん、ショッピング行きません?」
「ショッピング?」
「ええ。このままこの世界でしばらく暮すことになるなら。着替えとか、必要になるでしょう? これからこの世界、夏なんで余計に。
 でもここには私の服しかないし…… だから買いに行きましょう」



                                                   <come here.2/fin.→next go to 3



さて、この後はサンジと東京の街の商業施設にショッピングです。どこにしようかな……。
そのショッピングの話まで、サンジと同居して二日目の出来事なので2にまとめようかと思いましたが。
そうすると2も1並に長くなりそうだったので、ココで切りました。
そしてまたもご都合主義。皆様、1のコメント覚えておられますでしょうか? 
はい、そうです。このcome here.のサンジさんは、精神体のみが現実世界に飛ばされてます。
肉体は、あのとおり。ジャンプ誌上・コミックス中・アニメ放映中にあったとおり、意識なくしたまま、
転がってますね。そして現実世界に来てしまった精神体のみが、実体化。
なので、肉体が負ってたケガや火傷はないんですよー! 着てた服や包帯は、ちゃんとサンジが
今自分はコレを着て、包帯巻かれてて、コレを持っている、と自覚していたもののみ現実世界でも
実体化。あれ、だったらケガしてるって火傷してるって自覚してるならそれも実体化しないの?
……その点が、ご都合主義なんです(笑)。
では。まだまだ続きますので、これからもよろしく! お願いします。