+-- 光
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窓辺から射し込んだ眩い朝陽。
半分顰めた眼で、見慣れねェ調度品を眺めた。
「…ッ!?・・・」
反射的に動かしそうになった腕を何とか留め、安堵の息を吐いた。
そりゃあ勿論。腕枕で眠る、愛しいお姫さまを護る為に。
疲れさせちまったか・・
濃密な昨夜を語るシーツの皺。
露わになった肩の優しいライン、首筋に絡む長い髪。
薔薇の花びらを思わせる唇から、規則正しい寝息が漏れてる。
思わず緩んじまった口元と、キスしてェ欲望を抑えた。
”たまには、とゆっくり過ごしなさいよ。
2日間、街に宿を取って、仕事から解放してあげるわね!”
ビッとニ本指を立てたナミさんのご提案で、俺は特別休暇を頂いた。
ゆっくりと言われても、俺達は同じ宿。
ナミさんの仰る解放の意味は、コックの仕事からと言うより、
アホ船長のツマミ喰いや、食材争奪戦から・・・の意味だろう。
ボンヤリ思い出していると、甘い吐息が聞こえた。
愛しい人が、意味を成さない寝言を呟く。
ちょっとやそっとじゃ、お目覚めになりそうもねェな。
休暇中でも、やっぱり愛する恋人には腕を揮いてェし、
・・が眠っている間に、市場を覗いて来るか。
やかましいのは楽しいけどよ、
静かに向かい合う、大人のディナーもいいんじゃね?
麗しい眠り姫に見惚れたまま、
ジワジワと腕を引き寄せ、そっとベッドを抜け出した。
シャツやネクタイは何処だ・・?
バスルームに向かう道程で、昨夜の遊戯の欠片を見つける。
床とドアの隙間に挟まってたネクタイを拾い、
シュルと首に回して、我ながら幸せそうなツラを映す鏡を覗いた。
その・・二人っきりってのは・・まぁ、何つーか。
色々我慢しなくて良かったり、我慢させなくて良かったり・・・
早ェ話が、淫らなパラダイスを満喫出来る2日間ダ。
少しでも気を抜けば、ウプ、と下品な笑みが上がる。
…ッ、ゲホ、ゲホッ・・・
鏡の中の俺は、ネクタイを締め過ぎて咳き込んだ。
此の夏島は、気候に恵まれている。
「上着は着て来るんじゃなかったな」
気温は高めだが、気持ちいい風の所為で不快には感じねェ。
燦々と降り注ぐ太陽は、大地を栄養豊富な食材を、育んでいるんだろう。
脱いだ上着を手に掛け、雲一つねェ青空を見上げた。
「らっしゃい!どれも新鮮だよ!!」
とっくの昔に動き出した街は、行き交う人間も並みじゃなく多い。
流れの速い川に、足を突っ込んだみてェだ。
客を煽る呼び込み、張り切って値切るマダム、鼻腔を刺激する山の如き食材。
昨日到着したばかりで、買出しにも行ってねェ事に加え、
一件目のフルーツ屋で初めての食材を見つけちまう。
いやがおうにもテンションが急上昇し、夢中になってゆくのが解る。
「おい、オヤジ! こりゃ何だ?」
「そいつを知らねェなら、兄ちゃんは旅の人かい?」
眺める角度によって色が変わるソレを握った。
林檎と洋梨を足して2で割ったみてェなフルーツ。
俺の手の上で、桃色にも赤にもオレンヂにも見える。
「ジェムの実だ、ンまいぜぇ!」
先ず味見だとベリーを渡す。
腕捲くりしたシャツの脇で、ジェムの実をキュと磨く。
…シャクッ。
つくづく変わった実だ。
爽やかな音に反して、口に広がる果肉はトロリと柔らけェ。
「・・・確かに美味ェな」
舌に乗る、ほど良い甘さが格別。
今夜のデザートは、此のジェムの実に決まりだ。
ナミすわんとロビンちゃん、あとオマケ共にも買ってくか。
何より、実の色が・・の唇を想い起させやがる。
そうなると、俺も健康な男子だ。
唇を想い出せば、次から次に・・色んな・・・・・が
久々に・・二人っきりだった昨晩が・・・走馬灯のように・・・
「…ゃん・・、オイ!兄ちゃん!!」
大声で我にかえると同時に、心からオヤジに感謝した。
・・・ヤバかった。
公衆の面前で、生理的現象は流石にマズイだろ。
ジェムの実も数個手に入れたし、次の店に行くとするか。
テンションが上がってるとは言え、随分回ったな。
結局、いつもと変わらねェ位の荷物になってんぜ・・。
「姫が起きる前に、戻る予定じゃなかったか?
結構、長居してる気が・・するんだが」
時計屋の前を通って、クソ驚いた。
3時間も回ってたなんて、知らなかった。
俺とした事が、目覚めた眠り姫に、心細い思いさせちまったんじゃ・・。
が怒ってるとは考えられねェ。
書置きもしてねェし、きっと・・・心配してる筈だ。
「こうしちゃ居られねェ」
独り言に同意してくれる相手なんざ、当然居ねェ。
肩がぶつかる人間がこんだけ居ても、独りなんだと改めて思った。
普段の生活が、如何に愛に包まれてるかを知る。
喧騒の中に居ると、余計にの温度が恋しい。
散々、一つに溶け合って。
どっちの身体か解らなくなるまで、与え合ったのによ。
指も身体も髪の束も意識も、
柔らかなジェムの実みたく、二人で溶け合ったのにな。
まだ俺は・・・貪欲な俺は、貴女が足りねェらしい。
上手く呼吸が出来なくなっちまう。
突然夜中に、呼吸を意識したガキみてェに。
俺の身体は生きる為に、を求めてる。
逢いてェ、今すぐ逢いてェよ・・・
軽い眩暈を感じ、宿屋へと踵を返す。
買い込んだ荷物が視界を妨げ、上手く前が見えねェ。
ただでさえ人だかりで、歩き難いっつーのに。
数歩進んではチラ、数歩進んではチラ、と間抜けなステップ・・・。
苛々しながら歩いてると、最初のフルーツ屋が見に留まる。
「宿屋まで10分少々、だな」
呟いた途端、心臓に亀裂が入ったかと思った。
さっきまで此の腕で寝息を立てていた、愛しいお姫さまが。
ジェムの実を手に、笑っているなんて。
思いもしなかった展開と、偶然に拝んだクソッ綺麗な笑顔に動揺し。
・・ほんの出来心と言うべきか?
何にしろ、俺は露店が並ぶ通路に隠れちまった・・・。
ん? 俺ァ、何で隠れたんだ?
恋人なんだから、堂々と「待った〜?ハニーv」とかよ。
あー・・、待ち合わせはしてねェ、コイツは却下だ。
じゃなきゃ「貴女に盗まれた、俺のハートを返してくれる?」
・・だから違うだろ、口説き文句探してどうすんだ。
取り敢えず、背中を壁に圧し付け、フルーツ屋を窺う。
自ら圧し付けなくても、大量の荷物が壁に圧し付けてくれてるが。
路地を抜ける風が髪を揺らしやがッ・・!
もうちょ、・・もうちょっと、見えねェかな。
壁伝いにズリズリ移動する俺は、さぞかし異様なんだろうな。
失笑ならまだしも、畏怖の視線を感じる。
そんな腹の足しにもならねェモン、気にしてられっか。
試行錯誤の末、俺は特等壁? を発見した。
「ッカー、良い場所に良いシチュエーションだぜ!」
丁度、ジェムの味見をしているトコらしい。
様々な色彩を放つジェムに、の唇が触れる。
プルンと揺れそうな艶やかな唇は、ジェムの数倍甘ェんだ。
あの甘さを知ってる自分が、酷く幸福に思えた。
「ん〜v 犯罪だな、あの可愛さはよ」
・・・おい、フルーツ屋のオヤジ。
ちょっとばかり、と距離が近ェんじゃねェか?
俺との距離は8メートル、
オヤジとの距離は60センチ。
バッ、バカにしてんのか、クソ野郎!!!
自然と身体が前のめりになった瞬間、
は優しく微笑んで、フルーツ屋を後にした。
此処でまかれちまったらと、慌てて追尾を開始する。
・・・って俺、ストーカー?
まぁいい、愛に変わりはねェから。
道行く奴等が、やたら大回りして俺を避けてても。
其れからが幾つかの店を回る間、
付かず離れず追跡・・・いや、見護った。
俺の恋人は色んな店先に立ち寄り、誰とでも直ぐに打ち解けた。
店主や買い物客、悪戯小僧にも、分け隔てなく接する。
何処に行っても、の周りには笑い声が絶えねェ。
優しさと笑顔は、大きな魅力の一つだろう。
解っちゃいる、解っちゃいるが・・。
視線の先には、俺が居なくても楽しそうな姿が在って。
柄にもなく、切なくなっちまった。
もしかしたらよ・・・
目覚めた時にも平気だったんじゃね?
俺ナシでも、の毎日は変わりねェの?
俺に向けられてた笑顔は、特別じゃなかったのかい?
とか、思った事もねェ不安が押し寄せて。
両手の荷物が、1トンにも2トンにも感じる。
こんなにも心を奪われてんのによ。
想いが空回って、貴女から眼を逸らした。
カサリ、とジェムの紙袋が音を立て、
偶然鉢合わせたが、脳裏を過る。
愛しい愛しい、最愛の君。
呆れる程に、愛してると囁い合ってくれる my sweet
はー…、何考えてんだ、俺は。
定期的な心音も此の手も、求めてんのは貴女ただ独り。
胸にある真実だけでいいだろーが。
日常で微笑んでくれる幸せを、独り占めしてるくせに。
あんまり貴女が綺麗に笑うから・・・みっともねェ嫉妬が顔を出した。
お、閃いたぜ。
忍び寄っていきなりキスして、を驚かすってのはどうだ。
大通りの人だかりの中で、あの甘い唇を。
人目も気にせず抱き締めて、愛してると大声で叫ぼう。
頬を染める貴女を抱き上げ、くだらねェ不安も嫉妬も笑い飛ばして。
堪んねェだろ、俺の恋人はサイコーなんだぜ、と見せびらかし・・・
・・・って、居ねェし!!
乾いた笑いを洩らし、ガックリ項垂れて・・・る場合じゃねェ!
何処に消えちまったんだ、。
足元も見えねェ街で・・まァ、思い切り避けられてる俺には見えるが。
道に迷ったり、クソ野郎共に絡まれでもしたら・・ッ!
一瞬でもから眼を離した事を、心底後悔した。
「チクショ、何処に・・・あ・・」
或る店が頭に浮かび、はっとする。
遠巻きに見やがってる輪へ飛び込み、店までの近道を吐かせた。
荷物を限界突破でギュウギュウに纏め、紅茶専門店を目指す。
紅茶好きなは、必ず立ち寄るに決まってる。
待ち伏せ・・違う、先回りしてお出迎え、レディファストだ。
何でこんなに必死なのか、頭の端で考えながら走った。
貴女に逢いてェ、貴女の声が聞きてェ。
其れから、愛してると伝えてェ。
だから俺は、笑える程・・・必死なんだ。
恋心はいつだって、嵐よりも吹き荒れるモンなのさ。
・・・つーか、何だ、此の人の多さはよ!!
紅茶屋は、あの角を曲がって二軒目。
今度は隠れるなんてしねェ、いきなりキスだ、濃厚なヤツ!
勢いに任せバッと角を曲がる・・・つもりが。
人込みから不意打ちで伸びてきた手に、引き寄せられ。
驚く暇も与えられず、
背中が・・慣れた体温で埋め尽くされてゆく。
「サ〜ンジ」
・・・ああ、まるで貝みてェだ。
俺達は世界で一つだけしか合わねェ、貝みてェだ。
抱き締められなかったとしても、手を握られただけで解った。
誰よりも愛してる、貴女だからよ。
「びっくりした?」
斜め下から聞こえる、の声。
俺の胴に回ってる、の細い腕。
肩甲骨あたりに感じる、の吐息。
荷物を両手にぶら下げたまま、静かに眼を瞑って
ふつふつと湧いてくる幸福を噛み締めた。
「・・いつ気付いたんだい?」
「不思議な色をした実を見てた時よ」
・・・完璧に、最初からバレてんじゃねェか。
羞恥心にまみれつつ、
眺めたと、自分の嫉妬を思い返す。
ねぇ、自惚れていいかな?
綺麗な笑顔を振り撒いたのは、俺が見てたからだと。
気付かない振りは、俺の視線を独占したかったからだと。
急に姿を消した理由は、俺に探して欲しかったからだと。
「サンジの視線だったら、1km先でも気付くわ。
私が何年、貴方を愛してると思ってる?」
の声は、心地イイ。
ゆっくりと眼を開けて、青空を仰ぐ。
着いた時に見た青空と、まるで違う色に見えんのは、
貴女の温度を存在を・・・感じているからだろう。
「光だから。サンジの視線は、私を照らす光だから。
いつだって貴方を求めて、向日葵みたいにサンジを探すの」
声を掛けそびれた理由に思い当たった。
俺にとっても、は光なんだと。
放たれる眩しい光に、思わず隠れちまったが。
木々が花が大地が光を求めるように、永遠に貴女を求め続ける。
「あぁ、俺もおんなじだ、よく解る・・」
俺を抱き締め、指を組んでるの手を見つめた。
毎日、幸せに導いてくれる手を。
「そろそろ、可愛い顔を見てもいいかな」
「・・ね、愛してる?」
ヒョイと背中から綺麗な瞳が覗く。
其の瞳を見つめながら、足元に今夜の食材を降ろした。
の指をほどき、そっと口元に寄せる。
唇で挟んで感触を楽しみ、軽く噛む。
あぁ、其れ・・・其の顔が、すげェ好きなんだ。
「此処で愛してると叫んで、自慢してェ位に」
「奇遇だわ、私もよ」
振り返ってを抱き締め、人目も憚らずキスをした。
やっぱり唇は甘くて、くすぐったい感覚に身体が痺れた。
名残惜しいが、予定は詰まってるしな。
「紅茶専門店に行きますか?」
乱れたの髪を撫でて、紅くなってる耳元で囁いた。
けだるい朝に合う茶葉を、一緒に選ぼう。
朝を迎えるのは、昨夜の続きに身を委ねてから・・だけど。
愛してる。
雲間から伸びる光の束を集めたような、眩しい貴女を。
とても、愛してる。
++光 ヒロインsideはこちらです ++
↑
不肖・葉月夕子。この余りにも素晴しいお話に妄想が過ぎたらしいです。
書下ろしを。
シャオ「ホストサンジと呼ばれたサンジは何処へ・・
今回もアホの子になっちまったよ!!><」
サンジ「てめェ、折角のデートを、変態仕様にしやがって・・ッ!」
シャオ「ああ、違うよ、変質者仕様だ」
サンジ「知るか!あぁぁ〜、ちゃぁぁん!
俺のマントルのように熱い愛を信じてくれ〜!」
シャオ「えーと、今回は夕ちゃんから20万リク。お題は”視線”でした。
何気ない日常の中でふと気がつく貴方の視線
サンジは私が思ってたよりもずっとずっと、イイオトコだった!
街でバッタリ偶然の出逢いは外せない〜v” って感じで。
イイ男どころか変質者て・・・・背景のベッドでお赦しを・・(咳」
夕子「イヤイヤイヤイヤ、イイ男ですよ。充分イイ男ですって!
ええ、熱い愛は伝わってきましたvvv 伝わってきましたとも。
“自惚れていいのかい?”というサンジに、“うん、うん!”と
一つ一つ頷きながら読みました。
本当、期待以上のものをありがとう、シャオにゃ!
そしてぱんだちゃん。まずこのサンジに心拍数上がったよ!
一気に燃え上がり… 萌え上がり。落ち着いてから、ノベル
読み始めました。この表情が、何とも言えません。うっとりv
見惚れます。本当にありがとう。
ということで、“バニラの花の砂糖漬け”様20万打踏んでの
キリリクにいただきました“光”、ありがとうございました!
ああもう、本当に踏めてよかったよう…(感涙)」
この小説&挿絵をくださった“バニラの花の砂糖漬け”様へは
リンク集か下のバナーからぜひどうぞ!
もう余計な説明はいらない… こんなに素敵なサンジさんが、
貴女を待ちわびています。