+--光 side--+
窓辺から差し込んだ眩い朝日。
半分開いた眼に映るのは、シーツの海。
「…サンジ?……」
意識せずとも口から零れ出た名前。
それは勿論、いつもいつでも、求めてやまない、愛しい彼の名前。
起き抜けの、まだはっきりと定まらない意識の中でも無意識に求める彼の、名前。
同時に、彼を求めてシーツの海をさ迷う腕。
昨夜はこんなものではなく、もっと激しく、もっと濃密に彼を求めた。
そして彼も――――。
”たまには、サンジ君と二人っきりになりたいでしょ。
2日間、街に宿を取るからその間、サンジ君とゆっくり過ごしてね!”
なあんて、返ってゆっくりなんて過ごせないかしらん? ってナミににんまり、
微笑まれたけれど。
全くその通り、正解よ。
だって、私とサンジ、二人きりなのよ? 二人きりの、甘い甘い夜。
部屋に入って、ドアを閉めたその瞬間から始まる、甘い至福のパラダイス。
キスのスコール、めくるめく官能の嵐。
それらに身を任せても、しっかりと受け止めて、導いてくれる貴方。
互いに求め合い、与え合い、何度も昇り詰めた一夜。
最後はそのまま、彼の腕の中で……
これ以上にないくらい、サンジを感じながら、私の意識は遠のいていったっけ……
―――……?
伸ばしてさ迷う私の腕は、空を切る。
あれ、サンジ…… もう起きちゃったのかしら。
そう思って起きてみれば、素肌の胸からシーツが滑り落ちて。
ひゃっ、思わずシーツを引っぱり上げて隠した。
“……やっとお目覚めかい? 朝っぱらから、悩ましいお姫さま。おはよう”
たぶん、そんなようなコト。そんなようなコトを言って、抱きしめてくれる。
……はずの、腕がなかった。
「…サンジ?」
しん、とした部屋に響く、自分の声。
―――いない、のね……
そういえば、昨夜はそこかしこに散らばっていた服も、サンジのは
見当たらない。
……私のは、あるけれど。
っ、それに気付いた途端、しゅん、と自分の気持ちが沈むのが分かりすぎる
ほど分かった。
そう、もう結構いい時間なのにカーテンが引かれたままの、薄暗いこの部屋と
同じように……
「……ダメダメっ、朝っぱらからこんな気分」
わざと、口に出して言葉で言う。というか、言って聞かせる。
きっとサンジのことだもの、ホントは朝から出かけたい用事でもあったけど、
私がいつまでも眠り込んでいたから…
そっと起こさずに、出て行っただけ。きっとそれだけよ。
……でも、やっぱりちょっと、寂しい、かな……
それに、一体どこに行っちゃったんだろう……
……いけない、いけない。気分転換、気分転換。
幸い、最後に脱いだ(ううん、脱がされた?)バスローブがベッドのすぐ側に
あったから、それをはおって、ベッドを出ることにした。
とにかく私も起きちゃおう。
まずは薄暗いこの部屋を……
「わ……」
シャッ、とカーテンを開ければ、眩しいくらいの光。窓を開ければ心地よい風。
先程までの薄暗く沈んでいた気持ちも、照らされたみたいに吹き飛ばされた
みたいに。
……そうね、いつまでも暗くなってる場合じゃないわ。
サンジがどこかへ行った、って言っても。
書置きも何もないってことは、少なくともこの島を、この港町を出たわけじゃ
ないはず。
どこか行くとか、どこに行きたいとか、何も聞いてないし、あてはないけど。
でも、特に聞いていないからこそ、サンジが向かいそうな処といえば……。
そうね、私も興味あるし、起きたら行ってみたいって思ってたもの。
きっと、今サンジがいるだろう処。
もしそこで、偶然にでも出逢えたら、最高じゃない?
……ううん、出逢うの。私たちは。サンジと、私は。
日の光と、爽やかな風。それに当てられた私の気持ち、照らし出された
サンジへの想い。
暗い部屋・暗い気持ちに押し隠されてたそれが、キラキラと輝いて私を導く。
部屋で暗く沈んでいるのではなく、どうすればいいか。
それには、ともかく支度支度。バスルーム、こっちだっけ。
そして気付いた、顔を洗おうとして、バスルームの鏡に写った首、その斜め横。
「―――あ・・・」
チラリ、と見えた赤い跡。
昨夜のサンジと私を物語るそれ。
「……んもう、サンジったら」
此処は夏島、風は気持ちよかったけれど、やはり気温は高め。
だから今日はお気に入りの髪飾りで、髪をまとめて結い上げようと思ってたのに……
下ろしておくしか、ないじゃないの。
今は顔を洗うのに髪を後ろでまとめているから見えるけれど、下ろせば隠れる、
そんな位置にあるキスマーク。
「暑いのになぁ…… っとに」
そんな台詞とは裏腹に、鏡の中の私は嬉しげに微笑んでいた。
―――早く逢いたいね、サンジ……
「ん〜、いいー天気」
さて、と。
サンジが特に断りもなしに、どこかに行った、なら。
きっと市場の方よね。
この島には昨日着いたばかりで、まだろくに見に行ってもいないもの。
どんな食材があるのか、何が美味しそうなのか…… 今朝、一人で起きてから
気になって仕方なかったのね。
私も興味あるもの。
到着した島で、その島の食材を使ってサンジが、どんな美味しい料理を作って
くれるのか、食べさせてくれるのか……
そんなことを考えながら、雲ひとつない青空の下を歩いていく。
途中、誰かの家の庭先で、風に揺れながらも真っ直ぐに太陽を見上げる向日葵を
見つけた。
そういうのも楽しみながら進んでいくと。
早速見えてきたのは果物屋。
「わ、キレイ」
その店頭で見かけた、見たことがない果実。
何かしら、洋梨と林檎を足して2で割ったらこんな感じ?
それより何より、不思議なのはこの色。オレンジ? 赤? 桃色?
見る角度によって、色が変わるのね……
「この果物、すごくキレイな色してますね」
お店のご主人らしき人が、今の人の接客を終えるのを待って、話しかけてみた。
この果物のコトを聞いてみようと思って。
「ああ、ジェムの実だ。この島ではごく当たり前の果物だぜ」
「ジェムの実……」
「お嬢ちゃん見かけねェ顔だな、旅の人かい?」
それに私がはい、と答えながら頷くと。
「そっかそっか、それならな。この島に来たんなら、このジェムの実を食わなきゃ、
話になんねぇな。どうだい、味見するかい? うまいぜぇ、これは」
ご主人はそう言うと売り場から一つ、ジェムの実をとって渡してくれた。
そのままかぶりつくといい、と言うご主人の言うとおり、不思議な色をしたこの実を一口、
齧ってみる。
「……美味しいっ! 美味しいですね、この実」
途端に、自分がぱあっと、笑顔になるのがわかった。
“に料理の感想を聞くのに、言葉はいらねェな”
いつだったか、サンジにそんな風に言われたことがある。
私は、美味しいものを口にすると、途端に表情が明るく、笑顔になるらしい。
自分が作った料理を私に食べさせて、その表情が見られると今日の出来もまずまずだ
と思う、という。
そして。
“そのカオが俺を更に虜にしてるの、わかってるのかい?”
そう言われて、え、ってフォーク動かす手を止めて見上げたら、すぐそこにニッ、と
微笑んだサンジがいて。
そんなこと、私の方が貴方に夢中になってるのに、って言葉に出す間もなく
近づいてきた貴方の唇。
ソースついてる? ウソ、貴方の前ではそんな無作法な食べ方しないわよ。
って、やっぱり声に出す間もなく貴方の唇が……
「そういやぁー…」
っ、不意に聞こえたご主人の声で。
今、戴いているジェムの実にも似た、甘くトロリと柔らかな、いつかの想い出に
飛んでいた私の意識が戻ってきた。
「さっきも旅行者だっていう兄ちゃんが、ジェムの実を味見して美味ェ、って
買ってったな」
「え?」
「見た事ねェ顔だったし、この市場で珍しくネクタイなんざ締めてたしな。
金髪もこの島じゃ珍しいし」
……って、まさか。まさか、それって……
「あの、その人ってひょっとして前髪が左目隠れるくらい長くて…… それで眉が」
「ああ、あんな形のマユゲ、初めて見た。渦まいてんだもんな」
「―――あ……」
やっぱり…… 来たのね。そう…… 貴方も、この実を食べて。美味しいって
思ったのね。
サンジ―――
「―――…………」
……あれ。
と同時に、今――― 今、の……
「嬢ちゃん、あの兄ちゃんの知り合いかい?」
今、一瞬感じたそれは、視線。しかも、これは―――
「…ええ。そうです。でも今、ちょっとはぐれてしまって… 捜してるんです」
サンジ―――
私の… 私のとても大切な人。
「あの…… その人、どっちに行きました? ここでお買い物した後」
「ああ。そのまま、この道を市場の中心の方にまっすぐ、だな」
私は、ご主人にお礼を言って、店を離れようとした。
っと、その前に。
味見で食べてしまったジェムの実の料金を払おうとしたら。
あらっ、財布の中、細かいのがないわ。
仕方ないのでお札で払ってお釣りをもらうことにしたのだけれど……
「あら、ご主人。お釣り、多くないですか?」
「あァ、いいっていいって。嬢ちゃんがあの兄ちゃんの連れだってんなら端数は
サービスだ。それくらい兄ちゃんがジェムの実、買ってってくれたからな」
兄ちゃん、早く見つかるといいな、と言うご主人にお礼を言い、私も店を後にした。
サンジはこのまま、まっすぐ市場の中心に向かったという。
でもきっと、今みたいな珍しい食材や新鮮な、美味しそうな食材を見つけたら、
その店に立ち寄っているはず。
で、そうやってあちこちの店に寄って…… でも今はきっと。
ざっと見た感じではどこにいるのかわからないけど、きっと近くにいる。
そして私を見ている。
さっきから感じているこの視線…… きっとそうね。
それから、私は。
「あァ、あの兄ちゃんかい? それならウチで買ってった後あっちへ
行ったよ」
「うん、僕見かけた。なんかすごい荷物持って向こう行ったよ」
会う人会う人、サンジのことを聞いたら、皆親切に教えてくれた。
そしてそれを皮切りに、お店の人ならサンジも買っていったらしい、
オススメの商品を見せてくれて、そうするとその店の常連さんなのかしら、
買い物客の方も一緒にその輪に加わり、話が弾む。
この街の人は皆親切で活気に溢れ、それに当てられてこっちも元気が
でてくるみたい。
それに、こうやってサンジが通った後を辿っていくのが、また。
ねぇ、サンジ。何を思ってこの店に立ち寄ったの?
お目当てのものはあった?
それで貴方は、どんな料理を作って皆に、私に食べさせてくれるのかしら。
ねぇ、サンジ。気がついてる?
私、あの果物屋からずっと。
この街の人たちに聞いて、貴方が立ち寄った店をずっと、辿ってるのよ。
貴方が私と離れた間、どうやって過ごしていたのか。
それを少しでも知ることができれば、私は貴方に、少しは近づくことが
できるかしら。
ねぇ、サンジ。私って欲張りなの、きっと。
昨夜、あんなに愛してくれたのに。私はあんなに貴方を求めて、貴方も応えて
くれて…
ううん、それ以上に愛してくれたのに。
そしてそれは、昨夜みたいに激しいものでなくても、例えば今。
その優しい視線で、私を見守ってくれているように。
いつもいつでも、私に向けられている。それだけで、充分なはずなのに。
……私と離れていた間の貴方のことも、知りたいと思っている。
求めても、求めてもやまない貴方。愛しても、愛してもたりない貴方。サンジ…
ねぇ、サンジ。あれから私のこと見てるんでしょう?
そろそろ声かけてくれてもいいんじゃない?
……そのために、私はここにいるのに。
その瞬間を夢見て、ホテルの部屋から出てきたのに。
……貴方のその視線を、独り占めにしているのも、悪くはないけれど。
……じゃあちょっと、作戦変更してみようかな?
えぇ、貴方ならきっと、気付いてくれるはず―――
「サ〜ンジ」
必死な顔をして走る貴方に、手を伸ばした。
来ることがわかっていたけれど、私も結構必死。
逃がしたくない背中を、声をかけるよりも先に急いで抱き締めた。
「びっくりした?」
なんて、ちょっと余裕めいた声を出してみたけれど。
途中から、貴方が辿ったコースから外れて、紅茶屋を目指してみた。
そうしたら、貴方の視線を感じなくなって。
どうしよう、失敗したかな、でも… って、ちょっと焦ってたから。
……でも。でも貴方は、来てくれた。
ようやく、貴方に… サンジに、辿り着けた。
「…いつ気付いたんだい?」
「不思議な色をした実を見てた時よ」
ぴったり、寄り添った背中を通して、聞こえるというより響いてくる、サンジの声。
しっかり、回した腕がきっと覚えている、サンジの身体。
はっきり、実感できる温かな、サンジの体温と鼓動。
「サンジの視線だったら1Km先でも気付くわ。
私が何年、貴方を愛してると思ってる?」
はっきりと実感できるサンジに、夢見心地になりながら私は答えた。
「光だから。サンジの視線は、私を照らす光だから。
いつだって貴方を求めて、向日葵みたいにサンジを探すの」
そう答えながら私の脳裏に浮かんでいたのは、ホテルから街に来る途中に
見つけた向日葵だった。
風に揺れながらも真っ直ぐに太陽を見上げていたあの向日葵。
そうしながら、あの向日葵は何よりも、太陽の光を望んでいる。
もしくは、ホテルの部屋でカーテンと窓を開けた瞬間。
それにも似ているかもしれない。
私の中の、寂しかったり暗かったりする気持ちを取り払って、明るく前向きな
気持ちへと。
私を照らし出して導いてくれるのは、いつだって貴方なの。サンジ。
「ああ、俺もおんなじだ、よく解る… そろそろ可愛い顔を見てもいいかな?」
そう問われて。
それはもちろん、私もサンジの素敵な顔を見たい。
けれど、その前に。
「…ね、愛してる?」
抱き締めた腕はそのままに、ヒョイと横から顔を出したら。
ようやく… ようやく、今日初めてのサンジの顔が見れた。
今朝、目が覚めて貴方がいないのがわかった時に比べたら、全く正反対にまで
昂ぶった私の口から、こんな言葉が滑り出た。
あぁ… そうね。その瞳が、私を捕らえて離さないの。
私を見守ってくれる、優しい瞳。
と思ったら。
荷物を置いたサンジが、自分の身体に回っていた私の手を優しく解いて。
そう、優しいのは視線だけじゃない。
一つ一つ、私に対する扱いだって…… だって……
っつ……
指先から全身に伝わる、甘い痺れ。
知らず知らずのうちに、身体が浮かされる感覚に、かあっと全身の血が巡る。
「此処で愛してると叫んで、自慢してェ位に」
「奇遇だわ、私もよ」
私の指先を甘噛みしたサンジがそう言ったのに、私もすぐにそう答えた。
すると次の瞬間、サンジがそれをすぐに行動に移してきた。
叫んで自慢する代わりに、人目も憚らない程の情熱的なキスを。
そう、それはまるで昨晩に戻ったかのような錯覚すら、起こす程のもので……
「紅茶専門店に行きますか?」
優しく髪を梳いてくれるサンジに、私はこくん、と頷くだけだった。
ねぇ、サンジ。私達が迎える朝にふさわしい紅茶は、どんなのかしらね。
愛してる。
私を照らして導いてくれる、太陽のような貴方を。
とても、愛している。
<fin.>
※このお話は“バニラの花の砂糖漬け”様よりいただいたサンジ夢“光”
のヒロインsideです。
++光 サンジsideは こちらです ++
余りにも素敵だったこのお話、サンジの一人称で書かれておりました。
それならば… とヒロイン側を妄想する葉月サン。
そしてついに書いてしまいましたvvv
先日シャオ様に捧げ、いち早く読んで戴き“バニ漬け”にも掲載された
のでこちらでも公開です。
や、もう楽しかったです。ホントに。
ただ夢小説におけるヒロインって閲覧者様一人一人で……
せっかく“光”のヒロインになりきって読んでいたところに、
葉月がコレを押し付ける事になりはしないかと、それが心配
なんですが……
シャオ様の“光”のヒロインイメージ、ブチ壊したらすみません。
しかもお名前せっかく入力いただいたのに、タイトルと話中は
1回しか変換されなくてごめんなさい。
でも書いていた私自身は楽しかったし、“光”戴いてこんな風に
解釈してたのよー、なんて……
プチ・コラボ気分。ヒロインバージョン、書くのをお許しくださった
シャオ様に感謝&ありがとー!