「っ」

              朝。
              家を出るときには周りに同じ制服を着た生徒を見かけなくても、もう道のつきあたりに校門が
              見える此処まで来れば、同じ学校の生徒でごった返している、通学路。
              他の生徒たち同様、も校門目指して歩いていると、突然後からポン、と肩を叩かれた。

              「おはよ、ナミ」

              振り向くとそこには、クラスメイトのナミが立っていた。
              去年、まだこの高校に入学したばかりの春、同じ中学から進学した友人・知人がいなかった
              に最初に話しかけてきてくれて以来の仲の良い友人。

              「おっはよ。……ねぇ、持ってきた?」

              朝のあいさつは明るく元気に。…しかしその後、少し声を潜めるようにしてナミが聞いてきた。

              「えっ…… な、何をっ」

              何のことを、ナミが言っているのかはにはすぐわかった。しかしわかったからこそ……
              答えた声は、上擦っていて挙動不審。

              「何って……、決まってるじゃない!」

              かわりにナミは、元気一杯に答える。

              「サンジ君にあげるプレゼントよ、誕生日プレゼント」




              <レンアイ成就〜出逢ったからには[1]>




              「ちょっ、ナミ、何よ大きな声で……」
              「大きくないわよ、普通よ普通。いつも喋ってるのと変わらないじゃない」

              かああ、と真っ赤になりながらは言う。
              けれど確かにナミが言ったとおりだったのだろう、そんなことを話していても二人に注目している
              生徒は誰もいない。
              いないどころか、周りの生徒は皆、友人や先輩・後輩などと挨拶を交わしたり、話をしたりしつつも
              急ぎ足なのは―――

              「ホラッ、二人とも。今頃のんびり歩いてると、遅刻しちまうぜ?」

              周りに比べて心なしかゆっくり目のペースで歩いている二人のうち、ナミの側からひょい、と顔を
              覗かせた人物がそう言った。

              「あ、サンジ君」
              「おはようございます、サンジ先輩」
              「おはよう、ちゃん、ナミさん」

              まだ少し赤い顔ながら、それでもぱあっと笑顔になって、は挨拶をする。

              「うーん、噂をすれば影、か……」
              「え、何、噂? ナミさんちゃん、朝っぱらから俺のコト話してたの?」
              「ん、まあそんなトコねー。ねっ、? サンジ君今日誕生日じゃない、おめでとー、ってね」
              「そ… そうなのっ、おめでとうございますっ、サンジ先輩っ!」

              ナミの話にあわせるかのようなところもあったけれど。真っ赤な顔をして、それでも立ち止まって頭を
              下げてまで言うに、

              「ありがとう、ちゃん。すごく嬉しいよv よっかたなァ、今日は朝からちゃんに会えてv」

              そう言ってサンジはにっこり微笑む。

              「っと、悪ィ、ちゃん、ナミさん。俺今日日直なんだ、だから先行くな? じゃ、昼にいつものトコで」

              サンジは二人にそう声をかけると、腕時計を確認して先に行ってしまった。
              “二人とも遅刻しないようにな”と付け加えて去っていくその後姿を、はずっと、見送っていた。

              「……で、。見惚れてるのもいいけどね。私らもそろそろ急がないと」
              「え… あ!」 

              腕時計を見れば確かにそんな時間。

              「それと、その鞄の中身。今はもう仕方ないけど、後でちゃんとサンジ君に渡しなさいよ」
              「う……」

              それには、ちょっと言葉を濁した。それに今は、それどころじゃない、遅刻しちゃう、と。
              はナミを急かして、校門に急いだ。







              高校に入学して、部活は料理部に決めた。
              ナミも一緒に入ることになった料理部、最初の日。他の入部希望の一年生とともに、活動の場
              である調理実習室に集まったのは、自分たちをはじめ、女の子ばかり。
              当然といえば当然かもしれない、高校の料理部といえば料理が趣味の女子生徒しかいない、
              そう思ってたら―――

              “はじめまして、料理部にようこそ。部長のサンジです。えーと、まずはじめに……”

              さらりと綺麗な金髪、切れ長の眼差し、よく通る低い声。
              そしてをはじめ集まった生徒たちの制服は、ジャンパースカートに胸元にはリボンタイ、で
              ボレロを羽織る形なのに、壇上のその人はブレザーにシャツ、ベストにネクタイ。この学校の、
              男子の制服……
              そう、部長はこの料理部でただ一人の男子、サンジだった。



              部長と一部員。先輩と後輩。

              “どうだい、ちゃん。上手く焼けたかい?”
              “あ、はい、何とか…… 奥の方に並べたのは、ちょっと焼けすぎちゃったみたいですけど”
              “ん、あァ。これくらいなら平気だ、ちょっと香ばしいのもなかなか美味いしな。それに他のは
               いい色だ、きっと美味しく焼けてるはずさ”

              あれは…… 料理部で最初の頃、クッキーを焼いていたときのことだっただろうか。
              最初は男が料理? とか思ったけれど。
              なかなかどうして、さすが部長。実習で見せてもらった調理手順も、手際よく見事なものだった。
              “ちょっと味見してみるかい?”  そう言って差し出されて、彼が作ったものを味見してみたら
              すごく美味しかったし。
              メレンゲがなかなか泡立たずに苦労していたときも、“かしてごらん”って助けてくれたし。
              ちょっと焼きすぎて失敗したかな、と思ってもこっちが気にしなくてすむようにフォローしてくれたり。

              最初の頃、その頃はまだ、料理部の部活動中に少し話できるくらいで、後は目で追うだけ。
              でも、話しかけてくれたときは嬉しくて、嬉しくて。彼が去った後も、目で追っていた。
              そうしたら、彼が声をかけて手を貸したりするのは、自分だけじゃないことに気がついたけれど。
              当たり前だ、彼は部長で、先輩で…… 部員で、後輩なのは自分だけじゃないから。

              それでも、声をかけたり手を貸したりするときに、一緒に相手のコに向けられる微笑み……
              気がつくと少し胸の奥が疼いていたけれど、は、彼を。サンジを目で追うのを、やめられ
              なかった。



              しかし突然、そんなに転機が訪れた。

              “う・わー……”

              その日、は昼食に購買部のパンを買おうとしていた。
              しかし昼時の購買部の混みようはそれはそれは大変で。
              一年から三年までの生徒が一斉に、普段は閑散としている小さな購買部に押し寄せるのだから、
              混雑もひとしおだった。

              “は、入れない…… めっちゃ混んでる〜”

              確かに。まだ入学間もないのような一年生の女子生徒には、この混雑、割って入るのは少し勇気が
              必要だった。
              うーん… 仕方ないな。この混乱収まるまでちょっと待つか… でもその頃までパン残ってるかなあ。
              なかったらお昼抜き!? あーんもう、玄関先にお弁当忘れてくるなんて、あたしって何てバカ……

              “お嬢さん、お困りですか?”

              そんな時だった。
              後ろからそう声をかけられて、肩をぽん、と叩かれた。
              え、と思って振り返ったその先には。

              “サンジ先輩……”

              サンジはから事情を聞くと、確かにこの混雑に女のコ一人で割り込むのは大変だよなァ、と。
              でもそういうことならちょうどよかった、一緒に来てくれねェ? と購買部の前からを連れ出した。

              “……はい。よかったら食べてくれないかい?”

              途中一度、サンジのクラスの前でほんの少し待たされて。連れてこられた先は屋上だった。
              そこでサンジから渡されたのは、サンドイッチの包み。

              “え… いいんですか?”

              思わず見上げた先にはにっこり頷くサンジが。

              “あァ。今朝ちょっと作りすぎちゃってさ… とりあえず全部持ってきたんだけど、多くてね。
               自分の分食べた後は、クラスの誰かにやろうかとも思ってたんだけど”

              ここまでは単なる経緯だった、ここまでならも“そうなんですか”で返せる程度だった。

              “ちゃんが購買の前で困ってるの見かけてさ。クラスの誰か、なんかよりもちゃん。
               ちゃんに食べてもらいたい、そう思ったんだ”

              そう言われて。
              ドキッとした。
              部活の時間、調理の合間に密かに追っていたその笑顔。その笑顔を向けられて、そんなこと
              言われたら。
              それだけではなく、屋上の端・フェンスに寄りかかる形で並んで座っているのだ、すぐ隣にサンジが。
              急にそのことを意識してしまったは、かあ… と頬が紅潮してくるのがわかった。

              “はい”

              そんなに、サンジはカップを差し出す。

              “悪かったね、そういやサンドイッチなんか食べさせてるのに、飲み物出すの遅れちまって”

              それは魔法瓶になっている水筒から注がれたミルクティーだった。

              “いえそんな… ありがとうございます”

              はそれを受け取って、こくっ、と一口飲む。

              “て、ちゃん、ココ暑かったかい? 日影に移動する? それかその紅茶よりも何か冷たい飲み物
               がよかったら購買から買ってこようか? あ、もちろんソレ、俺のおごりだから”

              っと、そうしたら急にサンジが、今にも何か行動起こしそうに構えながらそう言ってきた。
              えっ?  と一瞬思っただったがすぐに、サンジにそうさせようとする程、今自分が真っ赤であるの
              だろうことに思い当たった。

              “いえっ、そんな…… 大丈夫です、お茶も… アッサムのミルクティー、好きですし。ましてや先輩が
               淹れてくれたんなら、喜んでっ”

              それにたとえ日影に移動したところで、この頬のほてりは日差しの暑さじゃない、別のコトが原因なんだ
              から引きやしないし…… なんて。思っていたら、

              “そっか。ならいいけど” サンジがそう言って、の隣に、座りなおす。

              “それがアッサムだってわかるくれェ余裕があるなら大丈夫だな。でも無理なようだったら、早めに
               保健室行くんだぜ?”
              “はい… ありがとうございます”

              ……ホントは余裕、あんまりないのですが。
              そう思いつつ、サンジの気遣いが嬉しかった。

              ……つい先程まで、もしかしたら今日、お昼食べそびれるかもしれない、と購買の前で途方にくれていた
              のに。
              今、屋上はサンジ先輩の隣でお昼にありついている。しかも話によると、このサンドイッチもミルクティーも
              彼が作った物で。
              その通り、きっと購買で買ったパンなどより今食べているコレは、ずっとずっと美味しいに違いない。
              ミルクティーだってそう。紅茶を飲むときには茶葉から、ティーポットを使って愉しみながら飲むだから
              使われた茶葉がアッサムだとわかったけれど。ただでさえミルクティーに最適なこの紅茶、サンジが
              淹れたものだと思うと味もひとしお、今までで一番美味しいミルクティーだと思った。
              紅茶詳しいんだねちゃん、と言われてからは、紅茶の話をしていたので、会話も途切れることなく
              続けられたし。
              ナミにはきっと遅くなるから先食べてて、って言っておいてホントよかった〜、とは思った。

              “……ごちそうさまでした。すっごく美味しかったです、本当に! そうだ、今度料理部でこのサンドイッチ、
               作りませんか?”

              って、調子に乗りすぎですね、すみません、でもそれくらい美味しかったですよ、とが告げたら。

              “お粗末さま。ってか、そんなに気に入ってもらえるたァ、嬉しいな。ところで、ちゃん”

              “ちゃんは、いつもは弁当なのかい?”  とサンジが聞いてきた。



              “………うん、そっか、教室でナミさんと二人なんだ。ならさ、今度から屋上来ねェ? 俺、今の時期
               よくココで食ってんだ。もしよかったら…… もちろん、ナミさんも一緒でかまわないからさ。よかったら、
               考えてくれねェかな”

              明日もココで待ってるから、と笑顔で言うサンジに送られて、は教室に戻った。




              “サンジ君、ねぇ……”

              、アンタ昼休みどうしてたの!? 購買行くって言ったきり帰ってこなくて、戻ってきたの5時間目
              始まる直前だったでしょ?
              と言って来たナミに、昼の屋上の話をして、そういうわけでちゃんと食べれてるから、心配かけて
              ごめん、とは謝った。
              そういうことなんだけど、明日からどうしようか? と弾む声でナミに話したとき。

              “……あれは、昔からクセみたいなもんだったかなあ”

              明日からどうするか、の話をする前に。ナミがうーん、と軽く唸りながら、こう切り出した。

              “女のコに、必要以上に優しかったりするの。で、あのルックスでしょう、そりゃあ言い寄ってくるコも
               少なくないワケよ。それで、いろいろあったわよ、アイツ”

              それからナミは、サンジのコトを少しばかりに話して聞かせた。
              何故ナミがそんなコトを知っているのかというと実は、ナミとサンジは、母親同士が学生時代
              からの親友で近所なため仲がよく、二人は学年こそ違えど幼馴染だからだった。
              呼び方が“サンジ君”“ナミさん”なのは、サンジが幼稚園に上がったとき、女の子は“さん”付け、
              男の子は“君”付けで呼ぶのを習って以来、ナミを“ナミさん”と呼ぶようになったから。
              ナミも“サンジ君”と呼ぶようになり、以来互いをずっとそう呼んでいるらしかった。

              “……で、どうなの。サンジ君ってそういうヤツだけど……”
              “た、確かに先輩はそういうトコあるかもしれないけど――― でもあたしは……っ”

              ナミが聞かせたサンジの話。
              それは少なくともにとって、心地よい話ではなかった。彼の女性遍歴…… と言ったらそれは
              大げさな表現かもしれないけれど、まあそういうことだったから。

              “それでもあたしやっぱり…… サンジ先輩のこと……”

              そう言って俯くに、ナミはやれやれ、と。

              “……わかったわ。そういうことなら、私を応援するわ”
              “ナミ”
              “さっきはいろいろ言ったけど…… でもサンジ君、あれでもいいトコ、一杯あるのよ。でも今まで、
               せっかくいいコが現れても、そのコにそれに気付いてもらう前に本人と周りの女の子たちが、ねェ、
               アレだったから。結局耐えられなくて、諦めちゃうのよサンジ君のこと。でもには気付いてほしいわ、
               サンジ君のいいトコロ”

              ナミはそう言って、にっこり笑った。

              “さっき、今日の屋上の話するのカオ見てたらわかるもの、のサンジ君に対する気持ちは。
               あんな風に嬉しそうに話されちゃ、やめとけなんて言えないわね”
              “……ありがとう、ナミ”
              “いいえ、どういたしまして。サンジ君のことで、何か辛い目や厭な目にあったら、私からガツンと言って
               やるから、安心して”
            

                                                              <[1]fin.→go to[]>
                                                                               



               …すみません、長くなっちゃったんで一旦ここで切ります(汗 続きは後半・[2]へどうぞ。