その日も別に、いつもと同じ。
船は順調に航海を。
みんなは普通に起きてきて。朝ご飯食べて、その後もいつもと同じ、思い思いに過ごしていて。
ただ一つ、違っていたのは。
「誕生日おめでとう、」
そう、今日は私の誕生日。
<告白>
「ねぇ、サンジ。今、ちょっといい?」
チャッ、とラウンジの扉を開けて、中を覗いて、声をかけてみる。
「どうぞ。入っておいで、」
長椅子に座って煙草を吸っていたサンジは、その煙草を灰皿に押し付け、立ち上がって
こう言って招き入れてくれた。
その優しい声音に、いつも心が温かくなるのを、私はじんわりと実感する。
「今、紅茶煎れるな。の好きなダージリン・セカンドフラッシュ」
え、あったっけ? 昨日煎れてくれた紅茶はアッサムのアイスミルクティー、一昨日は
アールグレイだったのに…
“悪いな。今ちょっとダージリン切らしてるから… 次の港でちゃんと買っておくから、他ので我慢してくれるかい?”
私は紅茶好きだし、サンジが煎れてくれるのは本当に美味しいから… 茶葉なんかも、別にどれでもよかったのだ
けれど。
ダージリンが特に好きなのを知っている彼は、そう言ってキスもくれた。
「切らしてたのは本当さ。でも、この前の港で買っておいたんだ。この俺が、の好きな茶葉、忘れるはずがない
だろう? でもどうせなら今日、開けて飲ませたかったんだ」
そう言って、サンジはにっ、と微笑った。私の好きな笑顔で。
「それが誕生日プレゼントだなんてセコいことはもちろん、言わねェから。いくら最高級のダージリン100gだからって、
それと俺のに対する愛が同等だなんて思っちゃいけねェよ。ちゃんと別に用意してあるからな。
その前に今夜はの誕生パーティーだからな、より一層腕によりをかけて、愛情たっぷりの
スペシャルコースディナーだ。
ニューも一つ一つ、考えに考え抜いたんだぜ。何たってさぁ」
ここで言葉を切って、紅茶を準備する手を休めて振り向いて、サンジが“俺の料理で、一番好きなのどれだ?”って
聞いてくるから
「全部。サンジが作るのは何だって美味しいでしょ。それも単品だけじゃなくて組み合わせで、食事としてもっと美味しく
なるんだから。もともと美味しい料理を食べるのが趣味の私が、どれかひとつだけ、なんて決められないわよ」
そう答えたらサンジはくすっ、と笑って。
「ほらな。そりゃもちろん、俺にとってはすげェ嬉しい答えだけれど、メインのメニューが決まらなくてさ。
でもようやく、決まった。実は昨日から仕込み、入ってるんだぜ。気づいてた?」
「え、ウソ、ホントに? 全然気づかなかった。何作ってくれるの?」
それを聞いて、すごくわくわくする気持ちになって。聞いてみたけれど、
「ダメだ、今夜のお楽しみ。仕込みの鍋、クソゴムから守るの、苦労したんだぜ?」
でもそれは、昨夜火から下ろした後、冷ましてから鎖でがんじがらめに封印して“船長殿、ならびに他の皆様へ。
この鍋に手出したら、俺はと共に即刻、この船から下りる”と書いて署名した紙貼って鍵付冷蔵庫に
入れてたら、さすがに無事だったけど。
そう言って、サンジが笑った。
「お待たせしました。お姫様」
話が終わってサンジが振り返る頃には、いい香りのダージリンティーが目の前に供された。
「ね… サンジ」
自分の分も煎れて私の隣に座ろうとした彼に。
立ち上がった私は、そっと抱きついた。そして。
「好きよ。愛してる。貴方を… 私は。愛してる」
一語一句、噛み締めるように私は。そう、サンジに、告げた。
「……んだよ、。急に、どうした?」
彼は優しく、そう言って抱き返してくれた。
「……サンジ。懐中時計、持ってたよね。時間、見てくれる?」
彼の腕の中で、顔を上げて私は、そう言った。
「時間?」
彼は不思議がりながらも、スーツの内ポケットから懐中時計を取り出して、今の時刻を読んでくれた。
「その一分前。
私が、何よりも大好きで、大切で、大事で、守りたくて… いつまでも一緒にいたくて、一緒に幸せ
になりたくて。でももしかしたら不幸になってしまうかもしれないけれど、でも一緒なら耐えられるって思う。
何かあったときも、なくても、支えになってあげたい… 疲れたりしたときは癒してあげられるようになりたい。
まだまだ一杯あるけど、そんな想いを全て詰め込んで、凝縮した言葉を、貴方に伝えた時刻」
「その時刻に、私はこの世に生まれたの…」
さっき、サンジが紅茶を煎れてくれている間。もし、タイミングがよかったら実行しよう、と密かに思いながら
ラウンジに来た私は、テーブルの下でこっそり、自分の時計でタイミングを計っていた。
そうしたら丁度、そのタイミングが彼が、紅茶を煎れて持ってきてくれた時だったのには驚いたけれど。
でも驚いている暇なんてない。
早速私は、自分の生まれた時刻に、自分の大切な想いを、大切な人に、告げた。
「何で…」
サンジはそう言うと、彼の腕の中で顔を上げて見上げていた私を、その腕に閉じ込めるようにしっかり抱きしめた。
「何で、そんな大事な事を黙ってるかなぁ。俺のお姫様は」
おかげでそんな、俺にとって最も大切なはずのその瞬間、俺のはこの胸にいた、なのに俺は
最愛の女(ひと)からの告白を間抜けなカオして夢見心地で聞いてるだけで、抱きしめてもやれなかった
だろう。
「でも… その瞬間、俺はこの世で最も幸せな男になれたんだけどな」
そうサンジは言って… キスをくれた。
接吻(くちづけ)は、どんどん深くなっていく。角度を変えて、味わうように唇を重ねてくるサンジを私も
味わった。
やがてサンジの舌先が、私を訪ねてくる。私はそっと唇を開いて、彼を招き入れた。
私の中に入ってきたサンジは、早速私を探し当てると今、その腕でしてくれているように、私を抱きしめる。
私も夢中で、彼に応えた。
その接吻は互いに息が上がるまで、名残惜しいけれど仕方なく、離れるまで続いた。
「。椅子、座ろうか」
そう。サンジの接吻は本当に巧みで… 立ったまま受けようものならすぐ、腰にきてしまい、立っていられなくなる。
そうなると彼の腕により、身体を預けてしまうから… 腕にかかった重みで、それを察するんだろう。
サンジに支えられながらどうにか、椅子に座る。彼も、隣に座って私の肩に手を回して、抱き寄せてくれた。
「……不幸には、ならねェよ」
不意に、サンジが言った。
「。貴女と、俺が一緒にいて。不幸になんか、なるはずがねェんだ。少なくとも、俺は。そして貴女にも、
そう思ってもらえるよう、日々努力してる。もし俺が不幸になるとしたら… それは、貴女を失った時だ」
そう言ってサンジは、ティーカップを私の肩を抱いているのと反対の手に取ると、ゆっくりと私の口元にカップを
持ってきて、そっと中身を一口、飲ませてくれた。少し、冷めてしまっていたけれども、さわやかな香りが
口腔内を抜けていく。
「そうさ、貴女はもう、とっくに俺の支えになってくれている。毎日、どんなに疲れても貴女が“お疲れ様”と一言、
言ってくれるだけで疲れも吹っ飛ぶ。それよりも、俺は? 俺は…… 貴女の支えになれている?
貴女を、癒してあげられている?」
そう言って、サンジは。私を抱き寄せる腕を強くすると。
「さっき、貴女が言ってくれた言葉、そのままで申し訳ねェんだが。
それ以外、俺もこの想いを告げられる言葉が、見つからねェ」
「好きだ。愛してる。。俺は、貴女を… 愛してる」
「貴女が今日、この時刻に。この世に生まれてきてくれたことに、感謝する」
サンジから告げられたその一言一言に。ゆっくりと告げられたその言葉の重みに、それを
受け取った私は…
想いが、溢れ出るのを止められなかった。
「サンジ……」
たった一言、それしか言えなくて。
「んだよ…泣くことねェだろ。」
これくらいで泣かれたら… 俺はあと何回、貴女を泣かせることになるんだ――?
「だって…」
いいのよ、これは。こんな風に泣かせられるなら、かまわないから。何度でも泣くよ、私。
サンジはハンカチを差し出してくれて、私はそれを受け取って… 後は、私が泣き止むまで、
彼は私の肩を抱いてくれていた。
「紅茶、冷めちまったな。煎れなおすよ」
それと俺もそろそろ、仕込み始めなきゃな。今夜のための、スペシャルコースディナーの。
泣き止んだ私を、そっと離すと、サンジは椅子から立ち上がった。離れてしまったのは少し寂しかったけれど…
キッチンに立つその背中を、私は新たな想いで、見遣った。
<fin.>
お疲れ様でした。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。
3作目は「誕生日SS、サンジ夢」
もう、自分がサンジと誕生日過ごすんだったら、でやりたい放題やらせていただいて、お腹一杯
です。満足満足。
あとは、コレが独りよがりになっていないか、皆様にも読んでいただいて大丈夫かどうか。
それが心配でしたね、当時。
もし気に入っていただけたら、そして様のお誕生日にこのSSのことを思い出していただけたら。
また、その日に読みに、いらしてくださいね。