あ、なーんだ。苺の、ないんだぁ。残念…
そう呟いた私の声は、ホントにホントに小さかったはずなのに。
貴方には、ちゃんと届くんだね…
Sweet
Strawberry
「ただいま、っと…」
ゴーイングメリー号から伸びている縄梯子をよじ登り、甲板に下りたはそう呟いた。
私が一番乗りかな…
「おかえり、ちゃん」
下り立った甲板できょろきょろしていると、背後から、しかも降ってくるように声がかかった。
……心地よく響く、低めの声。にとって、いつでも、いつまでも聞いていたい、声。
振り返って見上げると、ラウンジから出てきた手すりのところに。
「サンジさん」
その声の主を見つけたは、笑顔になると彼のところまで走っていった。
「みんなは?」
「まだ誰も戻ってこねェ。俺は今日の用事は済んだから、戻ってきたんだけどな。
ちゃんが二番目」
ゴーイングメリー号がこの港に着いたのは昨日の夕方のことだった。
着岸した後、当日はもう夕方だったので“冒険、冒険!”といつものように騒ぎ立てるルフィ
を、“夕飯食べに行くわよ”とのナミの一言で飛び出していくのを防いだ。
その後昨夜はみんなで近くの食堂に夕飯を食べに行った後、帰ってきていつものように
船で寝た。
そして今日。朝食を皆で食べた後は、ログが溜まる5日後まで自由行動。
当然皆、それぞれ船を降りて好きに過ごしていた。
「そうなんだ…」
てことは今、サンジさんと二人きり…
意識した途端、どきっ、と胸が高鳴った。ああ、いつまでも慣れないな、私。
でも、仕方ないかな。
だって、未だに夢みたいだって思うんだもの……
「…ちゃん、ちゃん」
「えっ、あ、はいっ」
やだ、名前呼ばれてたのに気づかないでぼーっとしてた…
「な、何?」
慌てて、目の前のサンジを見上げる。その様子に、サンジがくすり、と微笑った。
「な、何…」
かわいいなァ。ちゃん。
目の前の仕草が、すごくそう見えたサンジは、思わず笑みを零したが。
今のの口調は、言葉は同じでも、先程のものは違う。おそらくは、今の笑みを誤解された
のだろう。
「ん、今日もちゃんはホントにかわいいなァ、て思って」
笑みのまま、サンジはそう言った。
「…ところでちゃん、お腹すいてないかい?」
―――もういい加減、慣れてもいい頃だと思うのにな。
先程のサンジのセリフに真っ赤になったを見て。サンジは思う。
―――出逢った時から、毎日毎日…何回言ってると思ってるんだ?
最も俺も、何回そう思えば気が済むんだか。
……この、目の前のプリンセスを…かわいいって思うのを、な。
「うん。少し…」
朝食後、部屋に戻って少し経ったら、ナミにショッピングに誘われた。
それで二人で連れ立って出かけ、その途中で昼食も食べたけれど。
それっきりだったので、おやつにはちょうどいい時間の今、小腹も空いている、
といったところだ。
まだ店を回る、と言っていたナミも、休憩でお茶してるかもしれない、今頃。
「そっか」
そう言うと、サンジはにかっ、と笑った。
「じゃあ、これ持って」
そう言ってに手渡したのは、小さな籐のバスケット。
「それでちょっとついて来て。こっちに」
スッ、との横をすり抜けて一、二歩進んだところで振り返ってそう言うと、先に歩いていった。
何だろう… どこ行くのかしら?
お腹空いた、という話になったんだからキッチンじゃないの?
そう思いながらもその後をが追う。
「…さ。どうぞお姫様」
「わぁ……」
サンジの後をついて行った、その先は後甲板。そこから、ナミのみかん畑へ上がる階段が
ある。
それを二段程上がったところに、鉢植えが三つ、並んでいた。
緑の葉の陰から伸びた先の、真っ赤な実。
艶やかな瑞々しさを湛え、日の光を眩しく反射する苺の実が、三つの鉢にたわわに実って
いた。
「すごい…どうしたの、これ」
が感嘆の声を上げながら、階段に近づく。
「昨夜、食堂で飯食った後さ。デザートでちゃん、アップルタルト選んだろ?」
そう言われて、確かにその通りだったと、は頷く。
「けどホントは苺のデザート、食べたかったんだよな?」
そう。デザートを何にするか、メニューを見たとき、苺を使ったものがなくてちょっとがっかり
してしまった。
“あ、なーんだ、苺の、ないんだぁ。残念…”
なんて呟いて、だったら何でもいいかな、と。書いてあるメニューで、一番好きな
アップルタルトにしたのだった。
「それと、ホラ、前に。まだ一人だった頃に寄ったって言ってた、どこだかの春島で…
苺、直に摘みながら食べたのが美味かったって話、してくれたろ? だから今日街中で
見かけた花屋でさ、ソレ見つけて思わず買っちまった」
「三鉢も?」
「そ。三鉢も。美味そうだったから、つい、な。それにこれだけあれば、苺畑とはいかないまでも
わが愛しの姫君もきっと、ご満足いただけると思ってね」
「え、じゃあこれ…」
サンジが頷いて言った。
「そう。全部、ちゃんのだよ」
はい。あーんして。
一粒、苺を摘み取ったサンジがそう言っての口元に苺を持っていく。
は…ドキドキと戸惑いつつも、そっと口を開けた。
「どう? 美味しい?」
そう聞かれ、こくん、と頷く。
「よかった」
そう言ってサンジはにっこり笑う。
「さ、食べて」
ああ…。
私今、世界中の誰よりも幸せだよ。
昨夜の苺のことは、ホントに呟いただけなのに。そう、“呟いた”んだから、それはすごく小さな
声だったはず。
それでも、貴方はちゃんと、聞き取ってくれるんだね…。
そして私が何気に。話した雑談のことも、ちゃんと覚えていてくれる。
その一つ一つを汲んで、大事にしてくれる。
その時その時に応じて、一番欲しい言葉をくれて、してほしいことをしてくれる。
たとえそれが、私自身気づいていないことでも。貴方が言ってくれた途端、してくれた途端、
そうなるの。
こんな素敵な人が…
同じ船に乗ってて。
一緒に航海している仲間で。
私の恋人、だなんて。
信じられないくらい。未だに、夢みたいだって思うんだもの…
「ちゃん」
はい、と返事しようとした。
しかしそれは、できなくて。
「っ…」
「……気が済むまで食べたら、その籠一杯に苺摘んで。そしたらそれで苺のデザート、
作るから」
タルトでも、ケーキでも、ムースでも、ゼリーでも… 紅茶に入れて苺ティーでも美味いな。
「手伝ってくれるかい?」
サンジのその言葉に、は嬉しそうに頷いた。
「じゃ、先にキッチンで準備してるから。はやくおいで」
不意打ちのキスとその言葉を残して。
一足先にキッチンへと向うサンジの背中を見つめながら、は、幸せな気持ちで摘み
取った苺を口に運んだ。
これを書いた当時のスマスマ、SMAP×SMAP。
ビストロスマップでゲストのあややに、木村が苺のデザートを出す場面があって、それが、
鉢植えの苺からあややに食べたい分だけ摘み取らせて、それを使うってやつだったんです。
「サンジ〜!あたしも、あたしもああやって苺食べたい!」って大騒ぎして、これができました。
2作目です。ちょっとはマシになってきた? 否、まだか。