“《朝ご飯、全部食べられなくて。残しちゃって、ごめんなさい》ですって”
そんな事気にしなくていいのに。
君の身体の方が大事なんだよ。
ちゃん。
Apple
Scandal 〈2・続き〉
………。
今、何時だろ。
フッ、と意識が戻る感覚がして、は目を覚ました。
ということは今まで。眠っていたのだ。
まあ、ベッドの中で何もすることがなく、寝転がっていたのだから眠っていても無理は
ないだろうけど。
どうせ起きても、フラつくだけだし…
チョッパーに診てもらったら風邪だ、ということだったが。
昨夜から熱でくらくらきていて、寝付いてからは咳も出始め。朝食の席には何とか、
起き出していったものの、ろくに食べることも出来なくて…
……ううっ、サイテーだ、私…
彼が。作ってくれたご飯、食べ残すなんて。
“チョッパー。ちゃん、ちょっと具合悪ィみてェだ。食い終わったら、診てやってくれ”
おまけに… 心配まで、かけてしまった。 ……かもしれない。
……心配して、くれたかな?
だったら、たまに風邪引くのも、悪くないかも。
額、触ってもらっちゃった。
熱、あるかどうか確かめるためだったんだけど。あ、てことはやっぱり、心配してくれたんだよね。
そう思うと、は小さく笑った。
不謹慎だとは思ったけれど………嬉しくて。嬉しくて。
「サンジさん…」
思わず、声に出して呼んでしまった。
“何、ちゃん。呼んだ?”
あれ? 今の、サンジさんの声? そんなはずないよね… 幻聴?
コンコン。
“ちゃん? 入っていい?”
天井の女部屋のハッチを叩く音と再び聞こえたサンジの声。
どうやら幻聴じゃないらしい。
「は、はい、どーぞ」
が、慌てて答えた。
「お邪魔します」
ハッチが開いて、サンジが降りて来る。
「今外からさ、ノックしようとして屈んだら、ちゃんが俺の名前呼んだの聞こえてさ。
びっくりしたな〜」
そう言って笑っていたサンジの口には、いつもの煙草はなかった。病気で寝ているを
気遣って、のことだろう。
「何、ちゃん超能力でもあるの? それとも愛の力?」
「やだ、超能力なんて、そんなのないよ。別に悪魔の実の能力者なワケでもないし」
はそう言って笑う。…愛の力、に関しては、ノーコメント。
「…あ、ごめんなさい、あたし、寝たままで…」
急にはっ、としたようにはあわてて起き上がったが…
「あっ…」
「! ちゃん」
その途端、くらあ、と眩暈を感じて、また元のようにベッドに仰向けに倒れそうになる。
が、
「つらいなら寝たままでいいんだよ」
耳元で聞こえた声にはっとすると。
「どうする、起きる? 寝とく?」
「お…起きる」
そう答えると、サンジは仰向けに倒れそうになった腕の中のをそっと抱えあげ、
その腕と反対側の腕を伸ばして枕をクッション代わりに立てると、そこに彼女を寄りかからせた。
「ありがとう…」
楽な姿勢で起き上がれるようになったはサンジに礼を言った。
「いーえ、どういたしまして。もう起きても平気なんだ?」
「うん。チョッパーに貰った薬飲んで、一眠りしたらだいぶ楽になった。ただの風邪だって」
だから起きても大丈夫だとさっき、起きようとしたのだが勢いがつきすぎて、あのとおり。
そんな自分を見た、サンジのこの心遣いが嬉しい。
ていうか、抱きしめられちゃった……。
「そっか、よかった。もし万が一 ちゃんに何かあったらどうしようかと… って、
ちゃん? 顔真っ赤だ、やっぱり寝てたほうがいいんじゃないか?」
「あ、ううん。大丈夫、大丈夫だから。風邪のせいじゃないから、これはっ」
が慌ててそう言うと、ふ〜ん、と何やらサンジは意味深な表情をしたが、今のに
そのサンジの表情を見る余裕はない。
「ならいいけどさ。今夜は消化のいい、美味しいリゾット作るから。今は、これ食べれる?」
そう言ったサンジが差し出したのは、部屋に入ってきたときにの机に置いたトレー。
「あ、これ…」
すりおろしりんご、だ。
トレーの上の、ガラスの器の中にはすりおろしりんご。
「喉も渇いてるかな、と思ってさ。ちゃん、りんご好きだろ? 咳も出て喉もつらいかも
しれないけど、これだったら食べられるんじゃないかと思って」
「……ええ。ありがとう 」
そう言って、スプーンを取り上げてりんごをかき回し、すくって食べようとしただったが…
「あの」
「ん?」
急に顔をあげた。
「今朝…ご飯残しちゃったのにわざわざこんな…」
「ああ。もういいよ、それは。具合悪かったんだし、そんな時は食べれないこともある。それに
この船に限って、食べ残しは出ないからな。ちゃんがいなくなった1分後には、残りは
全部ルフィの腹ん中だった」
「あ、そっか」
それを聞いてはフフッ、と笑う。
何の心配事もなくなって、さあ、いよいよサンジのすりおろしりんごを食べようか、
としたとき―――
「ちゃん? それ、食べさせてあげようか」
「え?」
サンジは不意に、の手からスプーンを取り上げた。そして一すくい、りんごをすくうと、
それをに向けて差し出すのかと思いきや―――
ぱく、と自分の口に含み。
―――え……
にこ、と微笑ったサンジの顔が、近づいてくる。そして―――
唇に、柔らかい感覚。顎に手が、添えられてるかも。
私の唇…… 塞がれてる。サンジさんの唇、に。
そして、微妙に開かされたの口の中に、何かが流れ込んできた。
顎に添えられた手が、に上を向かせたことで、彼女はそれを飲み込んだ。
―――サンジさんとの初めてのキスは…りんごの、甘い甘い香りに包まれて、でした。
「どう? 美味しい?」
―――そう聞かれても、頷くしかないじゃないですか。りんごが…美味しかったのは事実だし。
……大好きな人と、キス、できたし。
それにしても、すごい笑顔で聞いてくるなぁ、サンジさん。私の気持ち、わかってるのかしら?
それとも……
「そ。よかった。もう一口いく?」
―――でももう…どっちにしても、こんな食べ方してたら、私の身がもたないって〜!
「いい。でもりんごは美味しかったから…自分で食べる」
「そっか。残念」
そうは言いつつも、サンジはの手にスプーンを返してくれた。
食べ始めたの様子をサンジは、目を細めて見ていたが、ふと、思い出したようにスーツの
ポケットに手を突っ込んで。
「あと食べたらコレ、飲むようにってチョッパーが… と、悪ィ。水忘れたな、すぐ持ってくるよ」
紙に包んだ錠剤をポケットから取り出したサンジが、トレーの端にそれを置く。
「じゃあね、すぐ戻ってくるから。ちょっとの間寂しい思いさせるけど、待っててなハニー」
そう言うと、ひらひらと手を振りながら、サンジは女部屋から出ていった。
……は〜。
残された女部屋で、はため息をついた。
―――サンジさんとキスできたのは嬉しいけど。あの笑顔は、なんだったんだろう。
確かに、サンジさんは優しいけど。それは私だけじゃない、ナミさんやロビンさんにも優しいし。
それどころか道行く女の人全員に優しいし。
私は、その中の一人に過ぎないのかも。それでさっきの笑顔とか…。
あの笑顔、ホントはさっきだけじゃない。今まで何度も見てる。私に何かしてくれるときに、
何度か、ね。
女の人の扱いに慣れてるのは、出逢ってから今まででわかってる。だから私の気持ちにも
気づいてるのかもしれない。私が、サンジさんを好きだって気持ち。
その上であんなことしてくるのは… サンジさんも同じ気持ちか、それともからかわれてる
だけか…
ううん、サンジさんはからかうなんて、そんな酷いことはしないはず。女の人には優しいもの。
ならば…… ……決めたわ、私。
……は〜。
女部屋を出た倉庫の中で、サンジはため息をついた。
―――あ〜あ。ノリに任せて、キス、しちまったな。まだこの想い伝えてねェってのに。
だってよォ、めちゃくちゃカワイイんだぜ、。そりゃ今までも、と二人っきりで、彼女を
かわいいって思ったことは何度もあったさ。そのたびにキスしてェとか、抱きてェとか思ったこともある。
今までは何とか抑えてたんだけどよ… 何だって今日は…
……まさか、傷つけちまった、てことはねェよな。今までのレディたちとの経験とちゃんの
態度から見ればちゃんが俺を好いている確立はかなり高い。
でもだからってな…憶測信じ込んで、黙って先にキス、てのはよくねェよな。
そういうの、好ましく思うレディなんてほとんど皆無だって、わかってるはずなのに俺は…
………よし。決めた。
「ちゃん」
「サンジさん」
この、が薬を飲む水を、キッチンに取りに行ったサンジが戻ってきた時。
二人同時に呼び合って、その後続いた言葉は、同じものだったとか。
そして、この後のの看病は、ずっとサンジがしていたとか。
の風邪が治る頃には、サンジと、二人はメリー号公認のカップルになっていたとか。
そんな後日談が、ついていたりする。
<fin.>
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うわあ〜…… 今見ると改めて、恥ずかしいですね。コレ、初めて書いたサンジ夢だからもう、
3年半前……。
何かこっ恥ずかしい表現とかありますが、否、存在自体がこっ恥ずかしいですね。
でも題材は好きなのと、初めて書いたものってことで残しとこう。記念に(何記念)