気持ちいい、風。
受けて船は、順調に進む。
< 特等席 >
ふわあ………
どこまでも広がる、限りない青い海・青い空。
最初は目を見開いて。
目の前に広がる、パノラマに圧倒されて、感嘆。
きらきらと眩しい海面。ふわりと、所々に浮かぶ真っ白な雲。
受ける潮風は心地よくて。
うっとりと、は目を閉じた。
がゴーイングメリー号に乗ることになって一週間。
それまでは、生まれ育った町から出たことがなかった。海は、仕事で歌っていたレストランの控え室から眺めるもの。
海、といっても入り江の奥にそのレストランはあったから、窓から見える海の向こうには岬があって、こんな風に遠くまで、水平線の
向こう側までの限りない海は、この船に乗って初めて見た。
船に乗るのも初めてだったから、最初のうちは船酔いなどをしてしまって、ずい分皆に心配されたし、船医のチョッパーの世話になった。
今は、船の生活に早く身体が慣れるよう、チョッパーの生活指導を受けながら、特製の酔い止め薬を調合してもらっている。
そんなわけで今は、波に合わせて船底が揺れる、この浮遊感も楽しめるようになった。
また。
「ねえ、何か音しない?」
甲板のパラソルの下、向かいのデッキチェアで新聞を広げるナミに、楽譜を手に持ったが言った。
「え? 別にしないけど?」
ナミはそう言ったが、確かに聞こえる。ギシッ、ギシッと何かが軋むような音。
「んー…… ああ、これね」
に詳しく話を聞いて、ナミが納得したようにくすっ、と微笑う。
それはメインマストから船縁に伸びている何本かのロープ。波で船が揺れるたびに、それに合わせて揺れて鳴っているのだ。
ナミはもう、船上での生活が長いからその音には慣れてしまって、聞こえてても全然気にならないけれど。
なるほど、はついこの間乗ったばかり。ましてや音楽家、音には敏感なんだろう。
「まるで船が歌ってるみたい」
がそう言って、新しい歌を口ずさんだ。
「伴奏はゴーイングメリー号」
そう言ってにっこり笑ったが披露したその歌は、クルーたちも気に入ってくれた。
〜♪〜〜♪♪〜♪
ゴーイングメリー号・前甲板の一番前に立って風を受ければ。その気持ちよさ・爽快さを感じて唇が自然と動き出す。
「ずい分気持ちよさそうなカオすんだな、お前」
そんな声が聞こえて、え、と聞こえてきた方を振り返れば。
いつのまにか、の隣にルフィが立っていた。
「だってココ、ホントに気持ちいいわ」
そう言って目の前に広がる海を眺める。どこまでも続く青い空・青い海。
「そっか、今日はもう具合大丈夫なんだな」
「え、あ、うん。最近は大丈夫よ」
ありがとう、と言葉を添えながらがルフィに返す。
「だったらさ。ココよりもっとイイトコあんだ、この船」
ルフィがそう言って、しっかり掴まってろよ、と言いながら片腕での身体をしっかり抱きかかえると
「え… きゃあっっ」
グン、と途端にどこかに引き上げられるような感覚が彼女を襲った。は小さく悲鳴をあげながらルフィの腕の中でぎゅっ、と
目をつぶった。
「。もういいから目ェ開けてみろ」
そのうちそう言うルフィの声が聞こえて、は恐る恐る目を開ける。
「あ、ごめんなさい
」
目を開けると目の前で、ルフィの服をぎゅっと掴んでいた事に気づき、慌てて手を離して謝る。
「いいよそんなの。それより前見てみろ、前♪」
「! わあ…」
前半部分は本当にその言葉どおりどうでもよさげに言ったルフィが、後半、言葉が進むに連れてわくわくした口調になり、最後には
弾むような声になった。
それに連れられ、も顔を正面に向けると。
――少し高さが違うだけでこんなにも違うものなの――?
そこは、ゴーイングメリー号の船首である、羊頭の上。
今までいた、下の甲板から少し上に上がり、少し前に出ただけで。
思わず感嘆の声を上げて乗り出しそうになった身を、ルフィがぐ、と押さえる。
―-――あ。
そうされては、改めて今、自分はルフィに抱きかかえられてその膝に座らされている体勢なんだ、と思い知った。
途端に、自分に回されて、落ちないようにしっかり抱きかかえてくれている腕の強さや、その身を預ける形になっている胸が案外
広くて安心できることに気がついて、どきっとする。
「な、下もよかったけどココのが断然イイだろ?」
ルフィがそう言って満面の笑みで笑う。
「…うん! スゴイわ、ココ。わくわくする」
それにも、笑顔で頷いて前を向く。
―――そうね。変なコト意識してる場合じゃないわ。 それよりもルフィが見せてくれたこの景色。 今はこの景色を一緒に、
この笑顔を共に見れるだけですごい満足。
「…ホントはココ、俺だけの場所だったんだけど」
しばらくその景色を一緒に見ていたルフィがおもむろに言い始めた。
“何言ってんの、船酔いで寝てるのよ”
“そうだぞ、それなのに起こしてそんなトコ連れてったら余計具合悪くなっちゃうよ”
ついこの間、停泊した町で見つけた音楽家。気に入って即、仲間にしたものの実はあまり身体が丈夫な方じゃないらしく、船酔い
で寝込んでいた。
“とにかくダメよ、今は。わかった?”
ナミに再度念を押されて、チョッパーも船医として、ともう一度注意されてその時は渋々あきらめたけど…
―――絶対、にこっからの景色、見せてやるんだ。あんなちっこい窓から見た海なんてホントの海じゃねェ。なら絶対、
ココの景色、俺と同じように気に入るはずだ。
その時はルフィは、一人でメリーの頭に座っていたけれど…
「だけ特別だ」
今はと二人でココに座っている。
“特別だ”と言った時、無意識にをぎゅっ、と抱きしめた。
「…うん。ありがと、ルフィ」
がそう言って、そのルフィの腕に、自分の手を重ねた。
そうやって二人、しばらく海を見ていた。
<Fin.>
“ずい分気持ちよさそうなカオすんだな、お前”
2003年夏、初めてのお台場・ゴーイングメリー号に乗りに行ったときのこと。
メリーの前甲板の一番前に立って風を受けていたとき、そんな声が
聞こえた気がして“え?”と振り向きました。
そこにはルフィのマネキンが立っていたのですが。
このルフィには音声感知システムとか、ついてません。タダのふつーの、マネキンです。
ですが、私にはその言葉が聞こえたのでした。もちろんルフィの声で。
そのときに思いついた話です。
ゴーイングメリー号は、ホントに気持ちよくて、わくわくしました。座ってみたいなあ、と思ったさメリーの頭に。
もう乗れないのはホント残念。あ、でも次の夏には新しい船に乗れるのかなあ…?
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