“どしたの、ちゃん。早く座りなよ”
“あ、はい…… あの”
“ん?”
“このテーブルの席って…… 誰が何処座る、って決まってますか?”
“んあ? イヤ、改めて聞かれりゃそんな事ァねェと思うけど……
確かに、メシ食うのに集まってくりゃ自然と皆、同じトコ座ってるみてェだな……”
煙草を銜えなおして、振り返ったサンジは “そう言われりゃ……” みたいな思案顔で。
“よし、じゃあ。ココ空いてるから、ココ、ちゃんの席にしよう。
レディ・。どうぞお越しください”
そう言ってサンジが呼んでくれたその場所に。
が座ると、胸に手を当てたサンジが恭しく一礼し、軽めに淹れたアッサムとお好みで、
とミルクを出してくれた。
<07.指定席>
それ以来、ラウンジのこの席。
そこがの指定席になった。
それは、がゴーイングメリー号に乗ることになった日の翌日の朝のこと。
昨晩は新メンバーのの歓迎会で例によって宴会で盛り上がり、にぎやかで楽しい
ひと時をすごした。
それが明けて一夜経って。
もう充分、外が明るくなったことがわかる室内で目を覚まし、静かに身支度を済ませて
甲板に出てみれば。
そこは昨晩、宴会で騒ぎ倒したのと同じ場所とは思えない程静かで、しんとした朝の空気と
朝日の光の中にあった。
ん〜、と伸びをして朝の空気を胸いっぱいに吸い込み、振り返ると。
自分が出てきたドア、その左端の壁に階段。
階段を上がると、その上の部屋に行ける。
確かそこはラウンジで、皆が集まってくるところ、最初に昨日、ゴーイングメリー号で初めて
通された部屋でもあった。
―――そう、そこで私は、初めて彼に出逢ったんだ………―――
階段を上がって、その部屋のドアに手をかける。
カチャ、と音を立てて開けてみれば、
「おはよう」
と思ったよりもすぐ近くから声をかけられ、はびっくりした。
そう、このラウンジのドアを開けてすぐ右、そこはキッチンスペース。
ラウンジのその場所で、朝食の支度をしている彼。
「朝早いんだね、ちゃん」
クラムチャウダーを煮込んでいた鍋に蓋をして、火を止めた彼が、にっ、と笑って
話しかけてくる。
「昨夜はよく眠れた?」
「ええ。でも何だか早く目が覚めちゃって……」
ドアを閉めながら、彼の方に向き直る。
船は丁度東に進路を取っているらしく、キッチンスペース正面の丸窓から差し込む日の光に、
長い前髪がキラキラと輝いていて、それは思ったより眩しくて。
藍い瞳も日の光の下で、優しい色を放つ。
そんな彼に、の瞳が細くなった。
―――男の人にその表現は…… ううん、でも本当にそうなんだから、ね、
しょうがないね。
綺麗…… だな、って思っちゃった……―――
「どしたの、ちゃん。早く座りなよ」
そんなの様子に気付いているのかいないのか、彼はそう言ってくるっ、とに
背を向け、 “ちゃんは朝、コーヒー派かそれとも紅茶派かなー?” なんて言いながら
湯を沸かし始めている。
「あ、はい…… あの」
「ん?」
やっぱ朝だしな、それにちゃんだろ…… とか何とか言いながら、ティーポットと茶葉、
そしてミルクを用意し始める彼。
「このテーブルの席って…… 誰が何処座る、って決まってますか?」
あ、やっぱコーヒーだった? と聞かれて、 いえ、紅茶で、 と答えた後。
ラウンジのテーブルまで来たものの、そこで止まってしまったは彼の方を向いて言った。
「んあ? いや、改めて聞かれりゃそんな事ァねェと思うけど……
確かに、メシ食うのに集まってくりゃ自然と皆、同じトコ座ってるみてェだな……」
煙草を銜えなおして、振り返った彼は“そう言われりゃ……”みたいな思案顔で。
「よし、じゃあ。ココ空いてるから、ココ、ちゃんの席にしよう。
レディ・。どうぞお越しください」
そう言って彼が呼んでくれたその場所に。
が座ると、胸に手を当てた彼が恭しく一礼し、軽めに淹れたアッサムとお好みで、
とミルクを出してくれた。
アッサムに少々、ミルクを落としてミルクティーにする。
そのカップに口を付けながら、朝食の支度に没頭する彼の背中を、眺める。
―――そういえば、彼はこの船の料理人さんだっけ。昨夜の宴会の料理も彼が
作ったんだよね……
そして朝も、早くからみんなの分の朝ご飯、作ってるんだ……―――
「手伝いましょうか?」
しばらくその背中を見つめていた。
その瞳はまぶしそうに細められ、彼の淹れてくれた紅茶をゆっくり味わっていながら何を
想っていたのか。
飲み終わったカップをソーサーに戻し、にっこり笑いながら彼のところにいく。
「じゃあ今からコレ、盛っていくからテーブルに並べてくれるかな?」
最初は自分の仕事だしもうすぐ終わるから、ちゃんはゆっくりしてて、と。
昨日の疲れもあるだろうし、と断っていたけれど、再三の申し出に、彼は配膳を手伝ってもらう
ことにしたようだ。
「ありがとうちゃん、昨日の疲れもあっただろうに、助かったよ。じゃあお礼にあとで……」
彼がそう言って、の手をとって、熱いまなざしでじっと見返してくる。
お礼に、あとで? どきっ、としたその瞬間、
「サンジー、メシー!」
「ヤ、ソコは “おはよう” だろ!」
「ん、だからメシー!って」
「ヤ、挨拶かよ!」
ドアがバターン、と開いてウソップとルフィが入ってきた。
ちっ、とサンジが舌打ちしたような気がしたのは気のせいだろうか。
二人が入ってきたのにサンジが、の手を放す少し前に。
「やー、ハラ減ったなー」
そう言いながらルフィが座ろうとしたその席は。
「こら待てクソゴム、そこはちゃんの席だ」
ぐいっ、とルフィの襟首を引っ掴んで、サンジはルフィをどけた。
「席? 席なんか決まってたか?」
ルフィがそう言うと、サンジはルフィを見て。
「今朝、ついさっき。第一ルフィ、お前がココ座ったら鍋が心配だ、阻止するばっかで俺が
安心してメシ食えねェ。
まあ、他の皆は何処座ってくれても一向にかまわねェが、」
サンジはそっ、と肩を抱いてを連れてくると。
「ココは、ちゃんの指定席。ってことでOK?」
いつのまにか、全員揃っていたラウンジで、をその席に座らせると。
皆を見回してサンジは、そう言った。
「……あのときね。つい私、ぽっ、と赤くなっちゃったりしたもんだから。あの朝ご飯の後、
ナミが “サンジ君と何かあったんでしょー?” って、大変だったのよ」
ティーカップを傾けながら、が言った。
「ナミさんの追求は厳しいからなぁ……」
なんて笑いながら、サンジがサラダ用にレタスを千切っている。
あの朝から数ヶ月。
30分でも15分でも、皆より確実に早く起きてくる。
早いときは1時間近くも前に来たりして。
まずはサンジの淹れてくれた紅茶を飲みながら、朝食の支度中の彼の背中を眺めて。
残念ながら一流料理人の調理は手伝えない、足手まとい・却って邪魔する羽目になるので。
なので毎朝違う紅茶を淹れてくれるのを味わいながら、邪魔にならない程度にときどき話しかけて
みたりして、朝のひと時をラウンジで過ごす。
そして飲み終わる頃には調理も終わり配膳になるのでカップを返しに、そして手伝いに席を立つ。
「」
カップを受け取る際に、サンジが彼女の名前を呼ぶ。
何? と顔を上げれば、
「v」
ちゅっ、と素早く、触れるだけのキスでの唇を奪って。
カップを貰って空いた手に、パンの取り皿を8枚、持たせて。
「これ運んで。気ィつけて持ってな」
に持たせた後、彼女がうっかり落とさないように、皿を彼女の手ごと、しっかり支えてから
“いいかい? 離すよ” と言って離す。
ああ、なるほど。
まだ吸えそうな煙草を、突然桶に溜まった水につけてじゅっ、と消した後、三角コーナーに放ったのは
そのためですか……
その配膳も終わる頃、皆がラウンジに入ってくる。
それまでのひととき。
一緒に過ごす二人だけのこの時間が、この日課が、にとってもサンジにとっても大切で。
サンジが決めてくれたの席、それはキッチンに一番近いサンジの隣の席。
そこで朝、一杯の紅茶を味わい、好きな人の背中を眺めて、調理を邪魔しない程度にちょこっと、
話しかけてみたり。
飲み終わったら配膳で一回離れるけど、その間に集まってきた他のクルーたちと、もう一度テーブルに
ついて食べ始めるのは、同じ席。
サンジが決めてくれたこの席が、にとっての指定席。
<fin.>
……実は、未だにメリー号の構造がしっかり、頭に入ってなかったらしく。
11巻片手に、メリー号の描写したり(汗)
(↑初出2004年2月当時。今はバッチリ!!覚えてます。…えーっと、そんなわけでこの作品中の
麦わら一味の船はゴーイングメリー号です)