“……だからさぁ、要するに一緒なのよ。サンジ君の、あの娘も好き・この娘も好き、ってのは。
ハンバーグが好き、お好み焼きが好き、エビフライが好き。それと一緒。
だって、合コンやらナンパやらで女の子と知り合って捕まえて、結局やることはセックスでしょ?
それってモロに人間の生理的欲求じゃない。食欲や睡眠欲と一緒の生理的欲求、性欲。
それを満たすための手段なのよ。
だとすれば、彼がとっかえひっかえ女の子引っ掛けまくるのも道理ってわけ。
だって、いくら好きだからって毎日毎食カレーじゃ飽きるでしょ? 今日はカレーだったから
明日はオムライス、明後日はパスタ。ちょっとお金があったらステーキでも行こうかな、って
食べるもの毎日毎食変えるじゃない、私達だって。
それと一緒なんじゃない、サンジ君が女の子とっかえひっかえなのは”
それでも数はこなしてるから本人は数多くの恋愛してる気分なんでしょうけど、本当に「恋愛」って
ものの意味、知らないと思うのよね。
そんなオトコの言うこと信じて、付いていくオンナの気が知れないわ。
そう言って、目の前の友達は、私の目の前でカラカラ笑った。
<03.Only You>
「……って、友達に言われた」
右手のナイフで一口大にハンバーグを切って、左手のフォークで口に運ぶ。次に、つけあわせの
にんじんのグラッセ。
そしてまた、ハンバーグ。それから、皿に盛られたライス。
顔も上げすに夕子はその話をしながら、サンジが用意してくれたその食事を続けた。
“………”
彼女の話を聞きながら、私はだんだん、自分の表情が無表情になるのがわかった。
“? 何、どうしたの、夕子。食べないの?”
手元には、まだ半分は残っているハンバーグ。その横のライスには、一口、手をつけただけだ。
“あ、わかった、アンタ眠いんでしょ。もー、夕子は眠くなるとすぐ無口になるから。わかりやすい
のよねー”
そう言いながら、彼女は笑う。
……違うわよ。そんなんじゃない。何言ってんの、彼の事も私の事も…… 何もかもわかってるような
カオして、カラカラ笑ってんじゃないわよ!
両手に持ったナイフとフォークを握っている手に、知らず知らずのうちに力が篭ってた。
“ごめん。何か疲れちゃった。帰る、ね”
“え、ちょっと夕子?”
“ごめん。ホント今眠くて(これはウソ)、気分悪いの(これはホント)。帰らせて。お金、ここ置いとく”
そのまま、私は席を立った。後ろで友達は何か言っていたけれど、無視して。
ホントスマナイネ(棒読み)、だって私、そのテの悪口聞いてられないのよ(感情込めて)。
もっとも、自分の彼氏の事をそんな風に言う友達の言葉、ニコニコ笑って聞ける女の子がいたら
会ってみたいけど。
それとも私が、ココロ狭いだけなのかな――?
そのまま私は、自宅には帰らずとあるマンションの部屋に向かった。
呼び鈴を鳴らすと、すぐにその部屋の主がドアを開けてくれて……
“どした、夕子。今日友達とショッピング行ってそのままメシ食ってくるから会えないって言ってたのに”
私の姿を見るなり、嬉しそうな口調でそう言い、笑顔で招き入れてくれた彼に――
“〜〜〜サンジ…”
思わず抱きついた。
突然の行為に、サンジは驚いたみたいだったけれど…… すぐに、私を抱き返してくれた。
“……ハンバーグ、食べたい。材料揃ってたらでいいから”
部屋に上げてくれたサンジにそう言うと、わかった、俺もちょうど今、晩メシにしようと思ってたトコだから、
と彼は笑って、これ飲んでちょっと待ってろ、と私の大好きなバニラミルクティーを淹れてくれた。
そうして現在に至る。
「おかげで食べそびれちゃった」
美味しいって評判の、お台場のとあるレストランのハンバーグ。
でもその代わりに、そんな評判以上に美味しいの、今食べてるけど。
「そんで夕子、友達置いて帰ってきちゃったのか」
「だって… 」
そりゃ自分でも短絡的だったな、て思ったけど。
でもそのときは、カアッとなって。思わず席を立ってしまった。
「でもお店出て、駅まで歩いてりんかい線乗ったら、カアッとしてたのは収まってきたんだけど、そしたら
悲しくなっちゃって。
無性にサンジの顔見たくなって、来ちゃった」
そう言って夕子は初めて、顔を上げてサンジを見てにこっと笑った。
「そっか… ま、俺は今日はせっかくの休みなのに夕子に会えねェって思ってたから、そんなのでも
夕子が来てくれて嬉しいけど」
向かいでサンジがそう言って笑う。
「けど… せっかくの夕子と友達の休日、ダメにしちまったな、俺のせいで」
「サンジ…」
“友達とショッピング? そういえば夕子、俺と付き合いだしてから休みの日はいっつも俺と一緒
だったもんな…… いいよ行っておいで、たまには友達と一緒に楽しんできな”
そう言ってせっかく、サンジが送り出してくれたのに。
同じ調理師専門学校に通うサンジと夕子。
サンジは調理師上級技術科、夕子は製菓・製パン技術科、と科の違う二人の出逢いは、合コン。
片や、行く気が全くなかった合コンに、頭数揃えるのにどうしても、と友達に拝み倒されて出た夕子。
一方、今日こそ自分だけの彼女と最後の出逢いを、と積極参加のサンジ。
……結果、その日の合コンが、サンジにとっては最後の合コン参加となる。
最初の挨拶で聞いた名前と同い年の製菓の女の子、あとは彼女を最初に一目見たときの自分の勘と
合コンの席上で交わした会話、というのだけを手がかりに探し出した夕子に、想いのたけを全て告白した。
そしてそれから数ヶ月―――
「俺は、な。夕子と出逢うまでは、まあその…… あちこちの合コンに顔出してその度に、とか少しでも
気になる女のコがいたら声かけたりとか… してきたからな、今更何て言われても仕方ねェんだけど。
でもそのせいで夕子にヤな思いさせるのはな…」
本当なら今頃、友達と楽しくやってる頃だったのにな。ホント、すまなかった。ゴメンな。
「……いいわ。そんな事、もう」
夕子は、食べ終わったフォークとナイフを、空になった皿に置いて言った。
「それより、お茶淹れるね?」
向かいでサンジも、食べ終わっているのを確認して、夕子が席を立つ。
湯を沸かし、キッチンの紅茶の棚から、紅茶を選んで。
……どちらかの家でご飯を食べるとき、食事を作るのはサンジで。食後のお茶を淹れるのは夕子。
二人が付き合いだしてから、どちらからともなく自然にできた、習慣のようなものだった。
そうして夕子がお茶を淹れる準備をしていると、サンジが食べ終わった食器を持ってくる。
「……さっきの話だけどね」
「あ?」
「サンジは、私にヤな思いさせたって、謝ってくれたけど。私も、サンジに対してひどい事してきたから、
おあいこよ」
食べ終わった食器を洗い桶につけるサンジの横で、紅茶の蒸らし時間を計る砂時計を見ながら、
夕子が言った。
「あのコは、サンジのことそんな風に言ったけれど。私も…… 実際に貴方と付き合うまで。
貴方の評判としては同じようなこと聞いてきて、あのコが言ったのと同じような印象を持ってたけれど。
でも実際、今のサンジはそんな人じゃない。一人の女を、本当に大事に大切にしてくれて、愛してくれる人」
三分。
砂時計の砂が落ちきったのを見て、ティーポットにかぶせていたコジーを外して、温めていたカップの湯を
すてて、茶漉しで漉しながら、二つのカップに紅茶を注ぎ分けながら。夕子が言った。
「それは私が、一番よく知ってるはずなのに…… 少なくとも、私にとっては違う。
そう訂正できたはずなのに、してこなかったわ」
注ぎ分けたお茶のカップ。一つをサンジに、一つを自分に。
渡して、並んでソファに座った。
「私こそ、ごめんね? 貴方のこと、誤解させたままで」
まあ、彼女も悪いコじゃないんだけど…… 高校の頃の友達で久しぶりに会ったコだし、私がサンジと
付き合ってるの知らなかっただろうからね…ただ、
「前に合コンで、彼女の今の学校の友達がサンジに声かけられたことあるんだって。
で、付き合いだした…… のはいいんだけど、二週間経つか経たないかの内に、街で別の女の子
ナンパしてるサンジ見たって」
で、今私が、そのサンジと同じ学校だってのを知った途端にその話になったの。
「えー……… あ、そう。そう、なんだ?」
その話を夕子がしたら、バツが悪そうにサンジは、夕子から明後日の方に目を逸らす。
対して、夕子はじーっ、とサンジを見つめる。
じーっ……、と。
「サンジ」
「は、はい?」
「紅茶、冷めるわよ」
目の前のテーブルに置きっ放しのサンジの紅茶。
対して、夕子の手の中にある彼女の紅茶。
静かに、紅茶を飲みながら、夕子が言った。
「………」
言われて、サンジも紅茶を手に取る。
……が、やっぱりそれを、テーブルに戻して。
「夕子」
「はい」
「ごめん!」
二人がけのソファ、並んで座ってる体勢を夕子の方に向くように座りなおし、サンジが頭を下げた。
「確かに…… 前にそういうことはあったと思う。けど前の話で今はもう、絶対そんなことねェから」
「……」
「ただ…… やっぱそういう話聞いたら夕子が嫌な思いするだろうしな。現に今日だって…。
夕子が他ならぬ俺の事で嫌な思いしたり友達とうまくいかなくなるのは俺だってつれェし…」
「……サンジ」
夕子が紅茶をテーブルに置いて言った。
「明日。あのコに “昨日は突然帰ってごめん” て電話するつもりだけれど。その時に言っておくね、」
それまで、首だけサンジの方を向いていた夕子が、彼の方を向くように座りなおして。
「“サンジはそんな人じゃない” って、 “少なくとも私には最高の恋人だ” って」
そう言ってにっこり笑った。
「夕子…」
そんな夕子を目の前で見て…… サンジは思わず、彼女を抱き寄せた。
「ありがとな。俺、ホントに夕子でよかった〜」
そう言うサンジに、夕子はその腕の中で微笑んだ。
……そうね。明日の電話であのコにそんなコト言ったら、ちょっと面倒な言い合いになるかもしれない
けれど……
でもいいわ。
だって、自信持って言えるもの。サンジが私のonly oneだって。
私だって全然出来た女じゃないのに。カッとなったら後先あまり考えないトコあるし、いきなり押しかけて
ご飯作らせたりするし。
でもサンジはそんな私でも、今までの噂と全然違う、精一杯愛してくれるから…
「夕子の友達にも、わかってもらえるといいんだがな。昔の俺の恋愛について、なかなか面白ェ見解
してくれてるけど今では、そりゃ明らかに的外れだってな。
夕子に出逢った今、俺は最高の恋愛してるって言い切れるからな…」
今だって、サンジはそう言ってくれるから。
今日だって、そりゃいきなり帰るのは悪かったけど…… でも、ここに来れたからよかったな、
なんて思い始めてる。
こんな風に自分たちのこと言ってくれて、しかもそれが言葉先だけのことじゃなくて。
こんな風に、抱きしめてくれる貴方がいる……
「サンジ」
夕子が彼を見上げて、にっこり笑って目を閉じれば。
そこから先は、恋人同士の甘い時間。
夕子の唇に、サンジが静かに、口づけた。
<fin.>
最初、<05.博愛>のつもりで書き始めたけれど、3/4程書いて<03.Only
You>の方が合ってるかと
思って変更。
どうかな〜?