『愛シテル』
そう呟いて貴方を思い浮かべるだけで、どんな困難も乗り越えてきた。
『愛シテル』
それは私の、最強呪文。
<22.愛シテル>
護身術に少々、毛が生えた程度の体術と逃げ足。
それくらいしか持たない私が今まで海賊をやってこれたのは。
サンジさん。
貴方が、いたから。
ひょんなコトから知り合った麦わら一味、私の故郷の島で一緒に過ごしているうちに。
船長のルフィに誘われ、彼らが島を離れる頃、私も麦わら一味に加わった。
それまで普通の生活をしていた私が、今日から海賊、ということになって。
戸惑うことも慣れないこともあったけれど。
“大丈夫かい、ちゃん”
そんなときに、いつも手を差し伸べて助けてくれた貴方。
貴方が、傍にいてくれる。
それだけがどんなに心強かったか。
『愛シテル』 サンジさん。
『愛シテル』 貴方を。
いつからか、はもうわからない。
ただ、ルフィにスカウトされたとき、いろいろな思いが頭を、心を駆け巡ったけれど
その中に、これでサンジさんと離れなくてすむ、なんて想いが心をよぎった。
だからその頃からだと思う。
その頃から、私は、サンジさん、貴方を……
『愛シテル』
護身術に少々、毛が生えた程度の体術と逃げ足。
それくらいしか持たない私が、今まで海賊をやってこれたのは。
サンジさん。貴方がいたから。
貴方を想うことで、私はここまで来れた。
『愛シテル』 サンジさん。
これが私の、最強呪文……
「……ねえ、ちゃん。ちょっといいかい?」
「は、はいっ」
……びっくりした。
こんな夜中に、甲板で。
風呂上りの火照った身体を冷ましつつ、星空を見上げて。
想い描いていたヒトが、そこにいて声をかけてきたから。
「風呂上り、なんだろ? 湯冷めするといけねェから」
ロビンちゃんに持ってきてもらった、とサンジさんが肩から掛けてくれたのは
私のショール。
「あ、ありがとうございます…」
そう言うと、サンジさんはにっこり微笑んで “どういたしまして” と。
ちゃんに話があって部屋行ったら、今風呂だって言われてさ。
それなら寒い冬島海域じゃなかったらちゃん、風呂上りに甲板で
星見てることが多いだろ。
だったら、そんなちゃんが湯冷めしたらいけねェからって、部屋の中に
いたロビンちゃんに、ちゃんのショール、取ってもらった。
これを口実に、ちゃんに近づけるな、って。
「口実って……?」
ショールを持ってきてもらったいきさつを、サンジさんが話してくれて。
それを聞いてて、何だか引っかかったソレを聞いてみた。
「風呂上りのより艶っぽいちゃんの隣に、立てるってことさ」
今までみてェに、ラウンジの窓から見てるだけじゃなくて。
見ながら、コッチに来ねェかな、なんて思ってるだけじゃなくて。
サンジさんはそう言って私を見てにっこり笑った。
「サンジさん… 見てたの?」
見られてたんだ… 私が、風呂上りに火照った身体冷ますのに甲板出てたり
するところ。
「それだけじゃないけどな」
頷いて、でもそう言ったサンジさんに私が、え、と聞き返したら。
「俺が、ちゃんを見ているのも、隣に立ちたいって思ってるのも。
何も風呂上りの今だけじゃねェ、朝だって昼間だって。
夜も、日が落ちてすぐから、メシ時も、その後も
……ずっとずっと、俺はちゃんを見ていてェし、隣に立ちてェよ」
……サンジさん、それってどういう……。
目を細めて、私を見返してくるサンジさん。
そんなに優しそうな瞳で見つめられたら、私は…
サンジさんは真っ直ぐに、私を見てる。優しそうに揺らぐ、藍い瞳で。
……たぶん、今の私は紅い顔。でも、この紅さは、お風呂で火照った
からじゃない。
そんなのはとっくに抜けた。私が今火照ってるのは。この藍い視線のせい。
でもきっと、この藍い視線はそれすらも見抜いてる…
「ね、ちゃん」
私を見つめていたサンジさんが視線を海の方に外し、不意に口を開いた。
「今日、何日かわかるかい?」
「え… 3月1日?」
「そう。じゃ明日は」
「3月2日…?」
「ああ。そうだ」
「その日さ… つまり、明日・3月2日なんだけど。俺の誕生日なんだ」
「えっ……」
そうだと言った後、ちょっと間を置いたサンジさんはさらっと、そう言った。
私は、というと。
「やだ、どうしよう… ごめんなさい、誰も教えてくれなかったし、私、知らなくて…
知ってたら前の島でプレゼントくらい買っておいたのに… ホントごめんなさい」
いきなり聞いたその話に、すっかり慌ててしまって。
頭下げてそう言うのが精一杯で。
「ああっ、ちゃん?
ゴメン、いやその、困らせるつもりも謝らせるつもりもなかったんだが…
とにかく頭上げて、な?」
途端に、サンジさんの慌てたような声。
それに私が頭を上げると。
「でも、ちゃん。ホント、そんなこと謝んなくていいから。それよりも
ちゃんにしてもらいてェことがあるんだ、3月2日になったら。
そんな難しいことじゃねェ、あと… 2分か。あと2分で3月2日になる。
そしたら俺の話、聞いてほしいんだ。誕生日プレゼントがわりに」
いつもスラリと着こなしているスーツの内ポケットから懐中時計を取り出して。
ぱかっ、とその蓋を開いて文字盤を私に見せながらサンジさんが言った。
「え… それでいいの?」
「ああ。ぜひ、ちゃんに… ちゃんにだけ、聞いてもらいてェんだ。
もうあと… 1分ないか? だからこのまま、ここにいて聞いてくれればいいから。
そして、真剣に受け止めてほしい」
なんてサンジさんが言っているうちに。
懐中時計の文字盤で、短針と長針がぴたりと重なり、真上をさして……
3月2日になったことを、告げた。
「ちゃん」
ぱちん、と懐中時計の蓋を閉めてこちらに向き直ったサンジさんは。
今まで見たこともないような、真剣な顔をしていた。
でも、こわいってわけじゃなくて。優しい視線は変わらずに、でも、
笑うのはやめて真剣に唇を引き結んで、私を見つめた後。
「ちゃん。君が好きだ」
――――――…………
「愛してる」
サンジさんの声がすぐ上から聞こえたのに気付いたときには、サンジさんに
抱きこまれていた。
「サンジさん…」
サンジさんに言われたこと。そして今、その腕の中にいること。
それを理解した途端、自分の中で暖かい想いが溢れかえるのがわかり、
その腕に身体を預けた。
『愛シテル』
そう呟いてサンジさんを思い浮かべるだけで、どんな困難も乗り越えてきた
私だけれど。
それこそ、昨日まで普通の生活をしていた娘が、今日から海賊ということに
なっても、何とかやっていけるくらい。
一応、いっぱしの海賊って呼べるくらいになれた今。
今までの、どんな困難も乗り越えてきたけれど。
『愛シテル』
それは私の、最強呪文。
そのはずだけれど、唯一つ。
この呪文を呟くのに、思い浮かべれば一層効果的な、彼。
その人に、この想いを伝える。
それにだけは、さっぱり効かなくて。
ずっとずっと言えなくて、私こそ見つめてるだけだったけれど。
「私も…」
「ちゃん?」
「私も、サンジさんが好きです。サンジさん」
そして私は、私の最強呪文を初めて、声に出して本人に告げた。
「愛してる」
<fin.>
2004年サンジ誕生日記念によせて。