ふと目が覚めたのは、空が白むにはまだ早い夜明け前。
そんな時間に目が覚めるのは珍しいけれど…
そして暗かった室内でも慣れてきた目に留まったのは。
壁に取り付けたレールにハンガーで吊るされていた、サンジのシャツ。
<20.男物>
「………」
隣で寝入る彼を起こさないように、そおっ… と起き上がってそのシャツに手を伸ばす。
壁際のベッド、手前がサンジ、奥の壁側が。
その壁面の上の方にレールが取り付けてあって、明くる日に着るつもりの二人の服が
ハンガーに掛かっている。
……そのうちのサンジのシャツをハンガーから外す。
の位置からだと、膝でベッドに立って手を伸ばせば楽に届く。
そうして手に取った彼のシャツ。
そ、とその袖に腕を通して下着姿の身体に羽織ってみる。
わ、やっぱり……
向かい合って立ってサンジの顔見るには、私は見上げなきゃならないくらい、彼は背高いけど。
それにこれは、男物のシャツだから当たり前って言えば当たり前だけど。
はっきり言って、ぶかぶか。
そりゃサンジは、例えばゾロが毎日やってるようなやり方で身体鍛えてるワケじゃないから、
あからさまに筋肉ついた、いわゆる “マッチョ” じゃないけど。
それでも、ずっと一日ほとんど立ちっ放しで、ルフィやみんなの分の食事用意するのに、
強い火力で手早く調理、で重い中華鍋振ったり、大量の材料一人で刻んだり。
買出しに付いて行っても “に重い荷物持たせるわけにはいかねェから” って、かさばる
軽いものは持たせてくれても、米や小麦粉の袋とかチーズの塊とかは持たせてくれないし。
しかもサンジはそれ一度に、一人で担いじゃうのよね。
“悪ィな、今両手塞がってるから手ェ繋いでやれねェな” とかいいながら。
そんな日常の中で、自然とついた筋肉なのよね。
サンジの身体は。
それでもその胸は充分広くて、見惚れるくらい逞しくて。
安心して身体預けると、今、私じゃ指の先っぽしか見えないくらいの袖が、きっちり
手首までの、すらりと長い腕が優しく包み込んでくれるの……
“……” って、熱っぽい声で、耳元で私を呼ぶ声がして耳の後ろが熱くなって……
その熱だけで、もうダメ。
名前を呼ばれるその声と、耳の後ろに接吻(くちづけ)られたサンジの唇の熱さだけで、
私は蕩かされる。
顔を上げたサンジがこっちを見つめてくる、その瞳。
その藍い瞳に、自分が映ってるのを見ると心が震える……
そうなってしまうのは。
私が、貴方を好きだから。愛しているから。
ええ、そりゃ私くらいの女を包み込めるくらいの体格の男なんか、この世には一杯いるで
しょうよ?
金髪だって、藍い瞳の男だって、沢山いるわ。その条件を全て満たしてる男だって……
でもね。
それでもね、サンジ。
私は、貴方じゃなきゃダメなの。サンジ、貴方でないとこの幸せは感じられない……
袖を手繰ったが、余裕のある前身頃の左右を手にとって、身体の前で合わせる。
そうして胸の前でその手を交差して、重ねて。
……こうしてると。
まるでサンジに抱きしめられているような、サンジを抱きしめているような…… そんな感じね。
本人は、ここでこうして、眠ってるけど。
ふふっ、と微笑ったは、そのまま、仰向けに眠るサンジの隣に寝転ぶ。
最初は、その寝顔をベッドで隣に座って、よりももっと間近で見たいと思って。
腹這いになって、肘を付いて見ていたけれど……
―――……お?
やがて朝日が昇って間もない頃。
まだ他のクルーは眠っている中、いつもの起床時間に目を覚ましたサンジが。
―――っかしーな、俺… シャツどこやった?
目を覚ました後、枕元の時計で時刻を確認し、隣で眠っているを起こさない様に、
そっと壁のレールからハンガーごと服を取るのだが……
どういうわけか昨夜出しておいたはずのシャツがない。
どこにやったのか、昨夜出し忘れたか、と思ったけれど…… すぐに見つけた。
途端に、サンジが笑顔になる。
―――ったく、何やってんだか、俺のお姫様は。
そう。
ふっ、と緩んだ笑顔の先には、サンジのシャツを纏ったまま眠ってしまった。
「しょうがねェなァ、もう……」
小さく呟くと、新しく別のシャツをタンスから出したサンジはそれを着た。
「真夜中の可愛い、イタズラ好きのお姫様。今朝の朝食はスペシャルコースですから、
遅れないように、ちゃんと起きてくださいね」
の寝顔にそう囁くと、その頬にそっと、触れるだけのキスを贈って。
もう一度、がしっかり寝入っているのに微笑むと、サンジは寝室を後にした。
<Fin.>
いいなあ、サンジのシャツ……
このまま、ちゃんの寝間着になっちゃったりしてね。