「ご注文はお決まりですか?」

   テーブルの横に立ったウェイトレスの声には、それまで見ていたメニュー表から顔を上げると
   言った。

   「シューケーキと… それからエスプレッソを」



      <19.間接キス>



   「……苦ぁ〜い」

   「ほらな。言わんこっちゃない」

   やがて運ばれてきたエスプレッソに口をつけたが開口一番、そう言った。

   
   “昨日ショッピングの最中によさそうなカフェを見つけたの。私はカプチーノで、ロビンはそのまま
    エスプレッソ飲んだんだけど、美味しかったわ。
    ケーキも種類いっぱいあったし紅茶もあったみたいだから、、明日サンジ君と行ってきたら?”

   そう薦められてやってきた、街中のカフェ。
   コーヒーが苦手なでも紅茶もいろいろあったし、ケーキやデザートも充実していて楽しめるわよ、
   とのナミのお墨付き。

   そこそこ大きい街にもかかわらず、わりと平和で落ち着いたこの街で、しばしの休暇の麦わら一味。
   雰囲気のよいこの街は先週海軍の見回りがきたばかりで“異常なし”と帰っていったところなので次、
   海軍が来るのは異変が起きて要請しなければ、ひと月後だという。
   ログが溜まるまでは2週間。
   一応海軍の心配はなし、これでどこか、よその海賊とはち合わせて戦闘になったりとかなければ
   春島のココ、しかも季節は丁度春。
   一番いい時期にゴーイングメリー号はこの島に辿り着いた。

   わりとのんびり、過ごせそうなその島でナミにそう言われたのは昨日のこと。
   そう言われて…… 普段の海賊稼業ではいざというときに動けないと困るから、ということで買っては
   みたものの、穿けずじまいだったベージュのロングタイトスカートにぱりっとアイロンかけた白いシャツ、
   腰にはダークブラウンの革紐ベルトで大人っぽくシックに決めて、コーヒーでも。
   カッコは気分の問題、こうやってキメればコーヒーもきっと飲めるはず。
   と思ったのだけれど……

   「大丈夫か?  もしダメだったら俺の紅茶と取り替えるか?」

   サンジがそう言っての顔を覗き込む。

   「でももう口つけちゃったし…」

   ちらっ、とサンジを見ながら申し訳なさそうに言うに、

   「そんなこと」

   ニヤッ、とサンジが微笑ったのは、大きな瞳で自分を伺い見るを可愛いと思ったからなのか、
   それとも今から自分のとるつもりの行動のためか。

   「今更気にする仲じゃねェだろ? 俺たち」

   ち、と触れるか触れないか。
   微笑いながら煙草を灰皿に置いたサンジは、当人同士にしかわからない素早さでの唇を奪って言う。

   四方から一脚ずつ、椅子を置いた四人がけの丸テーブル。
   そこに隣同士で座ってるから二人の席は思ったより近くて、そんなことも容易。

   「サンジ……」

   かああ、と真っ赤になったに、サンジはにこにこ、と。
   いつまでたっても初々しい、可愛らしい反応を返してくるが可愛くて仕方ないらしい。
   こんなコが、実はナイフ投げの達人で、襲ってくる海賊どもをナイフ一本、正確に急所にヒットで仕留める
   なんて誰が想像できるだろうか。

   「どうする? 取り替える?」

   そのの反応を楽しむかのように。サンジが言う。

   「口つけちまったのはお互い様だしな、俺も紅茶、飲んだから。の好きなキャラメルミルクティーだぜ?
    味もなかなか、美味いしな」
   「でも……」

   ちらっ、と見たエスプレッソのカップには。
   ちょうどが口をつけたところ、そこに彼女の口紅の跡が少し残っていた。

   「それに、がキスしたカップなら、俺は大歓迎だしv」

   サンジもそれに気付いて、ますますの笑みを浮かべてくる。

   「キ、キスって…… ちょっと飲んだだけよ、変なコト言わないで」
   「まあまあ。それよりほら。飲んでみ?」

   サンジがそう言って、キャラメルミルクティーのカップをに差し出す。
   “ん……” とが頷いて、キャラメルミルクティーのカップに口を付けると。

   「お… 美味しい!」

   ぱっ、と笑顔になったが言う。

   「だろ。な。は好きだろうなって思ったんだv …ってことで、コレはいただき」

   そう言ってサンジは、ぱっ、とエスプレッソのカップをとり中身を煽った。
   もちろん、取っ手を回してちょうどが口をつけた辺りから、というのはぬかりなく。
   口紅の目印もあるんだし?
   当然って言えば当然。

   「あ、サンジ…… やだっ」

   こくこく、とキャラメルミルクティーを飲んでいたが慌てて顔をあげても、時すでに遅し。

   「へへっ、間接キッスv」

   至極嬉しそうに、顔を崩しながら空になったカップをソーサーに戻すサンジ。

   「あ、でも…」

   ふと、その顔を戻して。

   「のが先だぜ? 間接キス」

   っとに、バカじゃないの? と真っ赤な顔してブツブツ言いながら、残りのキャラメルミルクティーを
   飲もうとしたら、サンジがそう言った。

   「なっ… まだ言って、って、え?」
   「だってそれ」

   サンジの目線の先には、キャラメルミルクティーのカップ。
   そういえば……

   “まあまあ。それよりほら。飲んでみ?”

   サンジにそう言われて差し出されたこのカップ、元々このキャラメルミルクティーを頼んだのはサンジで、
   彼は先に口をつけてからこっちに譲ってくれて……

   そう。サンジがのエスプレッソを飲む前に、先にサンジの紅茶を飲んだのはの方。
   しかも、取っ手を同じ右手に持ってカップを口に運ぶんだから当然、口をつける位置もぴったり一緒、
   とまではいかなくても充分、重なるのは当然なわけで…

   「あ…」
   「な、お互い様だろ?」

   そう言ってサンジはにっこり笑う。
   は… 真っ赤にはなっていたけれど、まんざらでもない… かな?



   あ、そうそう。
   この出来事を通じて彼女・はちょっぴり、コーヒー苦手なのが克服できたそうです。
   何で苦手なコーヒーを、飲めるようになりたいかって?
   いつかは、サンジが淹れてくれたコーヒーをブラックで飲みたいんだそう。
   何故って、ナミやロビンがサンジの淹れたブラックコーヒーをとても美味しそうに飲むから。
   羨ましいんですって。
   あれだけ美味しい紅茶を淹れるサンジなら、きっとコーヒーだって。
   それに、愛しの彼が作り出すものは何だって食べられるように、飲めるように。
   味わえるようになりたいって。
   あいかわらずコーヒーは苦手で紅茶が好きだけれど、でも、いつかは…。

   「んだよ。そういうコトならコーヒーは、まずはミルクと砂糖を入れて、な? 
    徐々に慣らしていくことにしようぜ。大丈夫、もきっと飲めるようになるさ。
    そしたらとびきりの一杯を、のためだけに淹れてやるよ」


                                                     <fin.>


    何だかバカップルぽくてすいません(脱兎)