Dear,My Dearest;



      <18.虹の向こうに>



    Dear,My Dearest;

      久しぶり。前に手紙書いてから、だいぶ経っちまったな。
      寂しかった? ……なんて聞くまでもないか。
      ごめん。寂しかったよな? ……俺が、寂しかったから。

      がいる島を出てから。
      最後に手紙を出してから。
      何日たっただろう。

      相変わらず、俺はせわしない毎日で。
      まァ も知ってるあの連中も一緒なんだ、別に敵襲とか何かなくても。
      日常些細なことでもお祭り状態。

      そんな中で、今ようやくとある島のホテルでな?
      落ち着いて滞在中なんだ。
      外はひでェ雪で、そんな中にルフィやウソップやチョッパーは、ホテルの裏の原っぱに遊びに
      行っちまった。
      クソ剣士は昼寝中。もしかしたら冬眠に入ってるのかもしれねェってくれェ起きてこねェで
      部屋で寝てる。
      ナミさんとロビンちゃんは、ようやく落ち着いて本が読めるって。さっき紅茶を淹れてあげたところだ。

      そして俺は、あてがわれた部屋で一人、を想う。

      を想ってこの手紙を書いている。

      まァ改めて想わなくても。
      、貴女は気がつけば、いつでも俺の心を占めている。

      例えば、さっき。
      ナミさんとロビンちゃんに紅茶淹れたって書いただろう?
      でもそうしながら本当は、俺が一番に紅茶淹れてあげてェのは、。貴女で。
      貴女が、その白く細い可憐な指で、ティーカップの柄を持ってカップを桜色の口元に寄せるとき。
      最初の一口、オレンジ色の水色をその魅惑的な口元に流し込むとき、貴女は瞳を閉じて
      味わうように口に含む。
      そして喉元がゆっくり上下してそれを飲んだ後―――そっと瞼を開けて、今まで隠れていた
      綺麗な瞳が現れて。
      それが俺の方を向いてにっこりと笑みを作って。ずっと聞いていてェ、魅力的なソプラノが響くんだ。

      “ありがとう、サンジ。すごく美味しいわ、本当に”
       本当、とっておきたい位―――でも冷めちゃったらもったいないわね、こんなに美味しいのに。

      そう言ってふふっ、と笑って貴女は俺が作ったプティ・ガトーと共に続きを飲み始めるんだ……。

      どう?
      まだ、俺ァ完璧に憶えてるぜ。
      紅茶を淹れてあげたときの貴女。
      紅茶が好きだっていう貴女の為に、とびきりの一杯を淹れられるように。
      そしてきっと、それが淹れられたんだろう、そのご褒美に貴女から貰ったこの笑顔。
      紅茶を淹れるたびに、思い出すんだ俺ァ。


      万事が万事、そんな感じだ。
      せわしない日常の中、その隙間にすとん、と俺の心に落ちてくるのは、
      貴女の姿で。貴女への想いで。
      こんなに離れていても、俺の中には貴女が溢れている。


      あの島で、毎日俺の隣にいてくれた貴女。
      あの頃の優しい笑顔のままで、貴女はいるのだろうか。
      病気や怪我もなく、元気に毎日を過ごしているだろうか。
      
      貴女の笑顔を曇らせるものは何もねェかい?
      もしないならそれに越したことはねェが。
      あるのなら今すぐ。貴女の元に飛んでいって。
      その原因を取り除いて、大丈夫だと抱きしめたい。

      そう、俺が。
      、今すぐ貴女に会いてェ、触れてェと思うんだ。
      それができないのは本当にクソ残念だ。


      そんな時、俺が触れるのは。
      あの日、がくれたネクタイピン。
      今もきっちり、俺の胸で、ネクタイを押さえているぜ。 毎日、いつも、いつでも。
      がくれたネクタイピンが一緒に在る。
      いつも、いつでも。これでが、一緒にいてくれるような、そんな気分になる。
      の印が、いつでも俺の胸にはあるんだ。

      でな、俺も。
      俺も、。貴女にそう思ってもらえるような物、贈ってもかまわねェ?
      実は、が贈ってくれたこのネクタイピンの同じメーカーから指輪が出ているんだ。
      このネクタイピンと同じプラチナで。施してある模様の細工も同じ、おそろいのが。
      今、滞在中の街でようやく手に入れた。
      それを贈るから。の、右の薬指にはめてほしい。

      今はそれが精一杯だけど。
      今度会えるときには、俺が。
      、貴女の左の薬指に。
      俺が直接、金の指輪をはめるから―――

      今はそのための目印。右の薬指に俺の印、つけてくれよ。


      いつか俺が迎えに行くその日まで。 その指輪が、俺だから…

      じゃあ、また。
      が寂しくないように、今度はもっと近いうちに手紙書くよ。


                                                            サンジ

      P.S.何かな。
         実は、この手紙も何回も書き直してるんだ。
         上手く、に伝えたいことが上手く書けているかどうか。まとまってねェ気がして。
         ゴチャゴチャいろいろ書いてっけど。
         要するに、ホントは一言。一言、伝わりゃいいんだ。たった一言… そう。

         “愛してるよ。







      ――――サンジったら。

      くすり、とが小さな笑みを零す。その手には、つい先程受け取った手紙。
      雨の中、コンコンと窓をつつく音に室内のが振り返ると、そこにグランドラインからのカモメ便を
      携えたカモメがいた。
      グランドラインからの手紙… 心当たりは、一つしかない。
      は室内に雨が吹き込むのもかまわずに窓を開け、ビニール袋に包まれたその手紙を受け取った。

      「さすが… ね。いつの間に知ったのかしら? ラブコックさん」

      中に入っていたプラチナの指輪、今はの右の薬指に。
      サイズも緩すぎずきつすぎず、ぴったりだ。
      そっと胸元で合わせる両手。
      今はめた右手のプラチナの指輪を、左手で撫でる。

      「サンジ…」

      その名を呟いて窓の外に目をやる。

      途端に、何かに気付いたようには窓辺に行き窓を開けた。

      「わ…」

      そこには。
      先程の雨が止み、見事な虹がかかっていた。
      綺麗な虹の、右の端は岬の先端にさえぎられていたけれど。
      左の端は、海の中へと続いている。

      の家は港に程近い高台にあった。の部屋からは、この島に出入りする船がよく見える。
      あの日も、は。
      ゴーイングメリー号が出発するその日。
      港で別れを惜しみ、メリー号が港を出た後。
      急いで自室に戻り、水平線の彼方にメリー号が消えるまでこの窓から見送った。

      つまり、この虹の向こう。
      この虹の向こうに、ゴーイングメリー号が。麦わらの一味のみんなが。……サンジが、いる。

      先程まで降っていた雨のように。実は沈んでいたの心。曇っていた笑顔。
      しかし今は晴れ渡って綺麗な虹がかかるくらいに。晴れ晴れとしたの心。輝いている笑顔。

      その元となった人は、想いは。同じものなのに。
      最後に手紙をくれてからだいぶ経って、どうしたのだろう、もう私のコトなんか忘れちゃった?
      それとも何か、とんでもないコトに巻き込まれたの? と心配していたのだけれど………

      「サンジ……」

      もう一度愛しい人の名を呟いて。は、その虹の向こうにいるだろうその人に想いを馳せ。
      返事を書こう、と窓を閉めて机に向かった。


                                                           <Fin.> 



      この手紙を書いてるサンジはですね、あの307話の扉絵のサンジです。
      そう、彼はこんな手紙を綴ってたんですね。さんに向けて。
      ええ、あのサンジは葉月夕子・心の一枚、です。
      あの扉絵、まだ萌え萌えできますよ☆