「んっ……」
唇は放されたけれども、抱きしめられた腕はそのままで。
決してきつくはないけれど、しっかりと抱きしめてくれるその腕には安心して
その身を預けられる。
そっと寝かされたベッドの上。もう真夜中をまわる時刻。
灯貝の明かりだけがベッドサイドをほのかに照らす、そんな真夜中の寝室にて。
<12.寝物語>
「大丈夫かい? 」
そっと、髪を撫でてくれながら、サンジが聞いてくる。
「ん…… 何とか。ありがとう」
が、どうにか微笑みを作りながら答える。
……本当は、下腹に鈍い痛みがあるけれど。
全身気だるくて、しんどいけれど。
でも別に病気とか、怪我をしたとか、そんなのじゃない。
「……ちょっと、。大丈夫?」
「ん〜〜〜……」
呼ばれて顔を上げれば、隣の席に座ったナミが、眉をひそめてこちらを見ている。
ラウンジのテーブル席にて。時刻は午後を回っておやつの時間。
テーブルの上にはナミの分と二人分、プチ・ガトーにキャラメルミルクティー。
「まあ、ね。ちょっとしんどいけど」
ふ、と微笑んでみようとしたの顔、でもナミには少し引きつっているように見えた。
いつもは大好物なはずのサンジ特製のプチ・ガトーも、その数を減らしていない。
ミルクティーだけは、かろうじてその量を減らしてはいたが。
「大変ねェ、も。毎月毎月、女の子には月一回っていっても、そんなに重いと」
「ん、でもここまで重いのは年に一回あるかないか、よ。いつもはこれほどじゃないんだけど、
今回丁度ソレみたい」
言いながらも、は下腹部に手を当てて。ふう、と息をつきながら。
「そんなにキツいなら部屋で寝てる? 丁度今はまだ次の島に着きそうもないし、
天気も安定してるから、特に仕事もないし。なんならチョッパーに薬もらう?」
「……そうさせてもらおうかな。実は、いつも飲んでる鎮痛薬、ちょうど切らしちゃったの。
それもあるかな、今回は」
手にしたカップから、ミルクティーを一口飲んでが言う。
「じゃあ、悪いけど部屋戻るわ。今日のおやつ、私の分も食べちゃって、ナミ」
そう言って、はミルクティーだけは飲んでしまって、席を立った。
送ってくわよ、というナミに大丈夫、おやつ食べてて、と答えて、ラウンジを出る。
“……あれ。何かちょっと、クラクラするかも……”
ラウンジを出たところで、部屋に戻るには。
甲板に通ずる階段を下りなくてはならないが……
“っ!”
ガクン……ッ
何段か降りたところで特有の眩暈に足をとられたのか…… 階段を踏み外してしまった。
「……あァ、危なかった… 大丈夫か? 」
やば、落ちる!
咄嗟にそう思い、ぎゅっと目をつぶっただったが。
予想した痛みはなく、代わりにぎゅっと、抱きしめられた感覚。
次いで降って来た、少し焦りを含んだ、でも気遣うような、聞き慣れた声。
……そおっ、とおそるおそる、が目を開けたそこには。
「……サンジ」
自分を心配そうに覗き込む恋人が、いた。
「……あのとき、サンジが駆け込んできて抱きとめてくれなかったら今頃私……
本当にありがとうね、今日は」
その後、部屋まで抱きかかえて連れて行ってくれて。
チョッパーから薬と、水を貰って来てくれたのもサンジだった。
「ああ、たまたまタイミングよかったからな… 丁度ラウンジ戻るトコだったし。
なんにせよ、よかったぜ。が怪我しないですんで」
今日はラウンジにとナミがいたから。
甲板ではしゃいでたり昼寝しているヤローどもの分と、ちょっと調べ物がある、と女部屋に
こもってるロビンのところに、おやつを持っていったその帰り。
ラウンジに上る階段に向かっていたら、愛しの恋人が下りてくるのが見えて。
喜びと嬉しさが広がりかけたのもつかの間、次の瞬間サンジは肝を冷やすことになる。
咄嗟に駆け寄って抱きとめてあげられて事なきを得たことに、自分を褒めたい気分だった。
……そんな気分そのままに、のこめかみにちゅ、とキスしてみる。
ちゅ。もう一回。
ちゅ。今度は頬に。
ちゅ。今度は鼻先。
愛しいの無事を確認するキスを、サンジは繰り返す。
……ちゅっ。
最後はもちろん、唇に。軽く触れるだけのキスをして、力を入れず負担をかけないように、でも
ぴったり抱きしめて。
「あ、あの、ね、サンジ… き、今日は…… その……」
そんなサンジのキスに、普段ならベッドの上でしてもらっているこの甘いキスの雨の後に
やってくるめくるめく官能の嵐を思って、素直に酔えるのだけれど。
今日は残念ながら、それを受け入れられる身体の状態ではないことにが戸惑いの
声を上げると。
「あァ、わかってるって。今日はこのまま、ゆっくり休もう。な」
サンジはそう言って、隣で仰向けになった。
……もちろん、隣のとはぴったり、くっついてだけれど。
「ごめんね……」
「何も別に、が謝る事じゃねェだろ。レディなら月に一度はあることなんだし……
特にのだったら、俺には関係ねェどころか大アリだからな。
それよりの方がしんどいだろ?」
「ん、それはそうだけど、でも……」
それでも何か言い渋っているような様子のに、サンジはあァ、と。
「俺ならかまわないさ。そりゃァ、がすぐ隣でこうして寝てるのに何もできないのは
生殺し以外、何でもねェ時期もあったけど…… 今は違う。そんなにガッツいて、
焦って求めなくても…… はちゃんと、俺の隣にいつもいてくれるってわかってるからな。
それよりの身体の方が大事だ」
………
サンジがそう言ってくれるのを聞きながら。
彼が自分をどう想ってくれているのか、それを聞いて自分はどう思っているのか…… は。
これからもう眠るから、と落ち着いて鎮まっていたはずの身体で感じる、かああ、と
熱い血の巡りで、はっきりわかる。
「サンジ……」
血と共に、身体中を巡っていた想いが、思わず口をついて。
その想いを乗せるのに、一番ふさわしい名詞と共に出た。
「そのかわり、終わったら…… なv」
そんな声で俺を呼んで、おとなしく眠ることにした俺のせっかくの決意を壊すつもりかい?
なんて、寝た身体を起こして軽くキスしてくるところも。
そんなところも、サンジらしいなぁ、なんて思いながら。
「そのときは、お手柔らかにね」
と軽く微笑んでみた、そんな夜の話。
「おやすみ」
「あァ、おやすみ」
ポゥ…… と灯貝の明かりも消える頃、二人は眠りについた。
<Fin.>
あれ、何か… 「寝物語」って単語の意味、こんな感じでいいのかな? はきちがえてない???