さ〜て、どうしたモンか・・・・。
プカプカと天井に向かう煙に問い掛けても、答えが出る筈もねェ。
小窓に丸く切り取られた入道雲を眺め、またウーンと頭を捻る。

「とうとう明日か・・・早ェトコ、レシピ仕上げねェと」

永遠の愛を誓いまくった、クソ可愛いの誕生日を数週間前に控え
プレゼントは何が良いか、聞いたまでは良かったが。

「とびっ・・・・っきりの、バースディケーキを焼いて欲しいの」

と仔猫みてェな瞳を緩められ、悩みに悩んで今日に至る。
そりゃあ、海の一流料理人を自負している身。
とびっきりデケェケーキや、凝ったケーキだって朝飯前なんだが。
の言う『とびきり』が、幾ら考えても重い浮かばねェ。





+-- カラクリケーキ --+






「キャーッ! サンジ、ありがとう〜!
 私のとびっきりのケーキは、間違いなく此れなの!
 もう貴方の愛にメロメロッ! 流石私の王子様〜ッッvvvv
 ・・・・って腕の中に飛び込んで、熱〜いキス・・・・だろ!」

の最高に嬉しそうな笑顔を想像し、キュンと胸が疼く。
ついつい自分の身体を抱き締めて、ラヴシーンの予行練習を始めた時
丁度入って来たナミさんが、呆れた顔で俺を見る。

「いらっしゃい、ナミすわぁぁん!」
「今のサンジ君を見たら、1万年の恋も醒めるわね」
「酷ェなぁ。俺はいつだって真剣に考えてるんだぜ?」
「・・・・余計悪い」

ハァと溜息を吐いたナミさんは長椅子に座り、「で?」と語尾を上げる。

「明日はの誕生日よね。プレゼントは決まったの?」
「其れが、まだなんだよ。お題がクソ難しくってさ」
「ふ〜ん。お題って何なの?」

幸いキッチンには誰も居ねェし、此処は一つ同性の意見として
ナミさんにお伺いを立てるか。

「マイ・スィートハニーのご要望は、とびきりのケーキ」
「とびきり?」
「そう、とび・・・・っきり。で、気合が空回って酸欠気味」

ガクと項垂れた俺の前で、ナミさんは成程ね、と呟く。

「暇さえあれば考え事してたり、特大ケーキを焼いたのも・・・・
 全てはバースディケーキの研究の為って訳?」

悪戯っぽい視線を、ハハハと笑って誤魔化した。
仕事を疎かにはしちゃいねェが、レシピを考えるのが癖になっちまって
何を見てもの悦ぶ顔が背景になって離れなかった。

「大分煮詰まって、ドレがいいか解んねェ。
 ドカンと派手なケーキは、誕生日じゃなくても焼けるもんだし。
 趣向を凝らしたヤツを作って、パーティ前に二人で喰いてェなってさ・・・」

一緒にのんびり過ごす時間は、中々取れねェから。
そんな素振りは見せねェが、寂しい気持ちも有るだろう。
だからせめて、お姫さまの願いは叶えてやりてェ。

「立ち寄った島で手に入れた、珍しい果実のシロップ漬けを使ったり
 が好きな紅茶をアレンジして、試作を重ねてもピンと来ねェ。
 ・・・こう・・・納得いかねェっつか、ありきたりな気がすんだ」

の事だ。
俺が作ったものなら、何だって悦んでくれるのは解ってる。
だからこそ、ギリギリまで『とびきり』にコダワリてェ。

「・・・・もう少々、お遊びを入れる手もあるな」

気候も湿度も変わり易いグランドラインは、粉一つ混ぜるのも気を使う。
組み立てた数週間のレシピメモは、膨大な量になってた。

「焼いたクッキーに占いを挟んじまう、フォーチューン・クッキー風に
 ケーキに恋占いメッセージを入れる・・・・。
 あ! 全部のメッセージに、俺が運命の男だって書くのはどう?
 折角だからナミさんもロビンちゃんも、一緒に食べたりさぁ!?」

「大迷惑」

まぁ、後半は冗談だが。
真顔で返してくれたナミさんにアイスティーを出し、煙草に火を点ける。

「・・・・試行錯誤を繰り返す内に、原点に帰るんだよなぁ」


あの笑顔に見合うだけの、とびきりのケーキか?


軽く閉じた瞼に、愛しい笑顔が浮かぶ。
俺の全てを蕩かしちまう、の笑顔だ。

「参ったぜ・・・・」

煙草の先をプラプラ揺らし、シンクに腰を預けた。
喋ってんのか、頭の中を整理してんのか、どっちだか解んねェ俺を眺め
クスッと笑ったナミさんは、肩を竦める。

「サンジ君、嬉しそう」
「・・・・え? 俺笑ってた?」

凄ェ悩んでる・・・・つもりなんだが。

「笑ってないけど、嬉しそう」
「だとしたら、が幸せにしてくれてんだな、感謝しねェと」

クッと笑って小窓から甲板を眺めた先に、愛しい人の姿があった。
振り向いてくれねェかなと視線を送っていると、流石は俺のお姫さま。
海風に吹かれてたは俺に気付いて振り向き、嬉しそうに手を振った。

クソ可愛いなあ。
いっそ、閉じ込めてェ位だぜ・・・・。
に軽く手を挙げ返して、小さな閃きが頭を過ぎる。

「・・・・ナミさん。今夜の天気は、此の侭崩れねェ?」
「そうね。安定が続くわね」
「・・・・此れだ・・・・此れしかねェ!」

高速でレシピを組み立てる俺を、ナミさんはポカンと眺めていたが
小さく笑って席を立つ。

「ま、頑張って」
「ありがとう。助かったよ、ナミさん」

思いついたらコッチのモンだ。
シャツの腕を捲くり、早速仕込みに取り掛かる。

透明なゼリィ、空に浮かぶ雲の様に、口溶け柔らかなスポンジ。
艶めくフルーツにキスをして、クソ美味くなれと願いを込める。
最高の愛を込めた仕込みを終え、一息ついた。

「後は、焼き上がってからのお楽しみだ」

釜入れを終えたのと同時。
ラウンジの扉が開いて、僅かだが華やかなの香が届く。

「今、を呼ぼうとしてた」

振り向きもしねェで、名を呼んだ俺を笑い。
の楽しそうな足音が近づいて、隣で止まった。

「良かった。私も呼ばれた気がしたの」

付き合う前から、こんなシチュエーションが多い。
此処は狭い船上で、クルーの数も決まってる。
些細な偶然とも片付けられるが、俺達は『小さな奇跡』と呼んだ。
ただの偶然も、と一緒なら奇跡に思える。
そう思わせてくれる人と愛し合えるのが、奇跡かもしれねェが。

「バースディケーキ、ようやく完成の目途が立ったぜ」
「本当!? すっごく楽しみ・・・・だけど食べるのは明日よね?」

感激と落胆が入り混じった複雑な表情は、可愛い上にイジらしい。
やっぱり閉じ込めてェよ。
こんなに俺の心をくすぐる・・・、貴女を。

「日付が誕生日に変わる深夜、見張り台で秘密のお祝いはどう?
 貴女を誰よりもクソ愛してる男が、一緒に居ちゃダメかい?」

二人きりなのをイイ事に。
両手を振って否定するの手を、タイミング良く掴み
上手く引き寄せた頬に、素早くキスをした。

「ご予約のシルシ」

片頬に手を当てた恋人は、どんな花よりクソ綺麗。
有頂天になっちまった俺は、深夜までニヤニヤが止まらなかった。
小指で掬った生クリームの美味さに、自分の才能を恐れてる時も
時計は刻々と明日へと近づいていった。




待ちに待った深夜を迎え、鼻歌交じりで柱を登る。

「・・・・サンジ?」

遠慮がちに聞こえた小声に、口元が緩んだ。
見張り台の縁に手を添えるが、フゥワリと笑ったのが夜目に映る。

「はい。お待ちかねの、とびきりのケーキ」

一瞬止まったは、差し出した箱を大切そうに受け取った。

「ありがとう、サンジ」
「お、もう直ぐ日付が変わるな・・・・」

コチコチと刻む時計を確認して、開けてみてと囁く。
箱に掛かる水色のリボンを解く表情は、少女そのもので。
知らねェ頃の貴女に逢えた気がして、どうしようもなく嬉しくなる。
箱が開いたカポンという乾いた音に続き、息を呑むのが聞こえた。

「・・・・綺麗」

は箱を覗き込み、夢見心地で呟いた。

「ケーキの真ん中が、銀色に光ってる・・・・みたい」
「そうさ。ちょっと貸してくれる?」

俺は受け取った箱から、銀の皿に乗るケーキを取り出した。
身を乗り出したに、思わせぶりに待ったの合図をしてから
マジシャンみたく、ケーキの上に翳した手で円を描いた。

「どうぞ、お姫さま。銀色の部分を、よーく見て・・・・」

は不思議そうに俺とケーキを見比べ、コクンと頷く。
耳に髪を掛けて、箱を覗いたが小さな声を上げた。


「・・・星が。・・・・・夜空の星が・・・・ケーキに映ってる!」


そうさ。
銀の皿に乗ったコイツは、鏡を模して作った特別なケーキ。
リング状のスポンジで囲んだ真ん中に、透明なゼリィを流し入れた。
反射板の銀の皿はゼリィを鏡に変え、夜の星空まで映るカラクリだ。

「お気に召したかい?」

夜空の月や星が映るのは、海だけじゃねェ。
星の瞬きさえ聞こえそうな、海の上でしか楽しめねェケーキは
海の一流料理人しか作れねェ代物ダロ?

「嬉しくて、言葉が見つからない・・・・」

が溜息交じりで呟いた時、長針と短針が合わさり
新しい年のが生まれた。

、誕生日おめでとう」

はにかんで笑ったが、ケーキを持つ俺に構わずガバと抱き付く。
此の位の可愛い行動は計算済みだったが・・・・。

「ありがと、サンジ。
 ・・・・ありがとう、サンジ・・・ありがと・・・」

抱き付いた侭で俺を見上げた、其の瞳。
瞳を縁取る睫毛に、綺羅綺羅と輝く小さな雫がくっついてんのは・・・・。

「計算外だ」

手に乗せたバースディケーキを掲げ、可愛い額にキスを落とすと
の唇が、もっとと強請るように艶めいた。

「まだケーキの説明が終わってねェのに、そんな顔は反則だ」
「・・・・え?」
「ちゃんと見てみな?」

星が映るのは勿論だが、鏡になったゼリィに映るのは。

「俺が、一番此の世で綺麗だと思うもの・・・・」

煌く星をバックに、薄っすらと映るのは愛しい君。

の笑顔も、閉じ込められちまってるだろ?」

は瞳を細めて俺を見上げ、照れた顔で微笑む。

「ねぇ、サンジ。・・・・ケーキだけじゃなくって。
 本当に閉じ込められたい位、好きよ・・・・」

貴女と一緒に生きる俺は、何て幸せなんだと思う。
レシピに悩んでる途中も、無心で生クリームを泡立ててる時も。
フルーツをカットしながら、粉を混ぜながら、ゼリィを流しながら
貴女を愛する悦びで満たされた。

「私の上で瞬く星の数程・・・・キスして」
「丁度、我慢出来なくなってたトコ」

ケーキは一先ずお預けにして。
此れじゃ、どっちがプレゼントを貰ったのか解んねェな、と呟きながら
愛しいの唇に、愛と感謝の熱を押し当てた。




The end






シャオ 「今年もよろしくお願いします。(年頭の挨拶か・2年越し」
サンジ 「ちゃん、お誕生日おめでとう!」
シャオ 「最近甘々夢が少なく・・・・いや、ヘタレ夢のみだったので
     初心に返って(?)砂吐き甘夢を目指してみましたァ!!」
サンジ 「レシピ協力は、パンダちゃんだ。ありがとうね〜」
シャオ 「夕ちゃんから無理矢理奪った誕生日リク
     『私にとびきりのバースデーケーキ、焼いてください!』でしたぁん。
     個人的に小細工するサンジが大好きなんですが、返品受付ますです、苦」


 「ヤですよぉ、返品なんて誰がするものですか! 今年も戴いちゃいました、
      BDプレゼント! しかも今年は、扉絵影響チラホラ・誕生日直球なリクでした。
      おぉぉ、まさかこんな、スペシャルケーキが来ようとは!(感激悶
      今回、掲載にあたって悩みました。何がって、壁紙です。
      ケーキ写真がいいか、でもどうせならこのスペシャルケーキの写真…… しかしこれは、
      当時バニ漬け専属絵師だった、パティシエのぱんだちゃんのオリジナルレシピなんだから
      ないし…… それにネタバレじゃない、一番感動するトコなんだぞ、このケーキのカラクリ。
      ……そっか、それならいっそナシといこうじゃない、閲覧者さまにはまず、読みながら
      このカラクリケーキを想像していただいて、そこで感動を味わってもらうべきよう!
      私がそうだったように!
      ってことであえて、壁紙ナシにしました。どうぞ、カラクリケーキ含めて、想像力を存分に
      働かせて感激を味わってみてください。

      ですが、もし画像で見たいのならば。 こちら→をどうぞv カラクリケーキレシピ担当にして
      当時、バニ付け専属絵師だったぱんだちゃんによる、超感激イラスト。物語のクライマックスです。

      “バニラの花の砂糖漬け”へは、リンク集よりどうぞ!
      こんなにこんなに素敵なサンジさんに、お逢いできますよv
      尚、このページは別窓で出ています、お戻りはブラウザを閉じてください。