+-- aphrodisiac --+



カラァァン・・・とマヌケな音を立てたオタマが、キッチンの床に転がる。

「お、おい青ッ鼻・・・ッ!! 今、何つった?・・・・」

瞳孔も開いちまってるのが自分でも解った。
思わず掴み上げたトナカイの、細い足と蹄が目の前でジタバタと動く。

「くっ、苦しい!! 下ろせサンジ、コノヤロー!!」
「あ、悪ィ・・・オワァッッ・・・!!」

下ろそうとした途端にチョッパーが人型化し、俺はデケェ図体の下敷きになった。
ヤツのモコモコの毛に鼻や口を塞がれた上、巨体に胸を圧迫されて呼吸困難に陥る。
思いっ切り非常食を突き飛ばして、窒息寸前の体内に酸素を取り入れた。

「てんめェ!! 殺す気か、クソトナカイ!!」
「こっちの台詞だ!!」

二人で床に這いつくばったまま、ゲホゲホと咳をしながら罵りあった。
やっと落ち着いた俺は、チョッパーの手が握り閉めたモンを改めて凝視する。
チョッパーはシュルル・・・と人獣型に縮小し、身を起こした俺をまん丸な瞳で見つめた。

「じゃあ、もう一度説明するぞ。 此れは惚れ薬、飲ませた相手に自分を好きにさせる媚薬だ」
「おいおい・・・マジかよ・・・・クソ名医」

呟いた瞬間。
愛しい愛しいちゃんの、色んな角度から眺めてきた笑顔がフラッシュバックする。
恋焦がれ過ぎて、給仕の手すら覚束ねェ現実。
他愛もない会話にさえ胸が高鳴り、後姿を眼で追うだけで体温が3度は上がっちまう。

「使用法は簡単だ。 どんな形でも、相手の体内に入れてやればいい。
 ただ、熱すぎると変質してしまうからな、温度の高ェ料理とかには入れられねェ」

そりゃあ、素敵だと囁いたレディは正直数えきれねェ。
ナミさんだってお美しいし、ロビンちゃんだって極上のレディだ。
だが、ちゃんに対する想いは、ンな上ついたモンじゃねェっつーか。
ポスターを眺めるだけで満足する状態と、腕の中に閉じ込めねェと足元が崩れちまう状態の違いっつーか。

「薬は光合成の効果を必要とするから、出来れば甲板みたいな陽が当たる所がいい」

勿論ちゃんにだって、ナミさんとロビンちゃんに捧げるような賛歌は捧げてきた。
でもよ、もう一歩の足が出ねェんだよな・・・。

「男には効かねェ。 薬の効果があるのは女だけだ。
 飲んで一番最初に見た相手に惚れるからな。 間違っても他のクルーに見付からないように」

何しろちゃんの美しさと来たら、グランドライン史に残るだろう。
柔かな微笑みは、まるで万年雪まで溶かしちまう太陽のようで。
聞こえる声に耳を澄ませば、何とも言えねェ・・・くすぐってェ嬉しさが身体の芯から湧いてくる。
不思議な事によ。 珍しく怒っていても、ちゃんは麗しい。
直接向けられた事は無ェが、あの眼差しは・・・・闘う女神其のものだ。
凛とした気品が、何をしていても漂うってのはよ、世界広しと言えどちゃんだけだろ・・・・。

「おい・・・サンジ・・・聞いてるか?」
「あ? ああ、熱ィ料理に混ぜりゃいいんだろ?」
「・・・・・最初から説明する・・・・」

呆れかえったトナカイは、また媚薬の説明を始める。
纏めてみりゃ何て事は無ェ。
此の試験管に入った液体は惚れ薬。
ニ〜三滴を愛しのちゃんの体内に入れると、たちまち俺に惚れてくれるってだけの話。

「効果は1日だ、永遠じゃねェぞ。 飲んだ瞬間から、サンジに対する好意が爆発的に増殖するんだ。
 好意を寄せてる時間にサンジから口説かれる事により、脳内に分泌される特別なホルモンを定着させる。
 風邪を予防するウイルスワクチン、解るだろ? あれに似ている構成になっているんだ」

・・・・ま、薬の効果は眉唾モンなのはいいとして、使用以前に少々腑に落ちねェ箇所がある。
コイツは何でまた俺の愛の手助けをしようとしてんだ?
さては食料庫の肉が底をついてきたと知って、身の危険を感じたのか・・・・?
大体、ちゃんに対する想いは、誰一人として話しちゃいねェ。

「・・・・なぁ、チョッパー」
「何だ? 解らない所があるか?」
「いや、使用方法は解ったんだがよ、何で急にンなモンを作ったんだ?」

俺の質問に、クソトナカイはハァと溜息を吐きやがった。

「・・・・お前、夜中にずっとの名前を大声で呼び続けてるの、気付いてねェのか?
 俺達がどんなに耳を塞いでも、布団を被っても・・・夜な夜なサンジの気持ち悪い声が響くんだ・・・。
 大声で呼ぶのを止めると、次はずーっと低い声でを口説く練習を唸ってるんだ・・・。
 ホントに気持ち悪いんだ! 頼むよ、みんな限界だよ!! ウソップなんて夜が怖くて不眠症だぞ!」

「・・・・・・・・」

シュボッと音をたてたマッチを暫く眺め、消える寸前で煙草に火を点けた。
天井に煙を吐いて、胸の中に出来ちまった "惚れ薬を飲ませる口実" を見つけちまう。
オレンヂと琥珀が混ざる、怪しい液体が入った其れは、俺を試してるようにチャプンと揺れた。




本日のオヤツで使用する生クリームを泡立てながら、ポケットに眠る媚薬を思う。
誰も居ないキッチンを確かめ、そっと媚薬を取り出す。 ヒンヤリとした試験管を眼の前で軽く揺すった。
買出ししたばっかで、新鮮なミルクもタマゴも手元にあっから、今日はプディングを予定してた。
媚薬の色、結構濃いよな・・・。 生クリームもプディングの色も・・・変わるんじゃねェか?
・・・・お。 プディングの冷てェソースをを作りゃあいいのか。


・・・チャプ。


待てよ。 もし・・・此れが強烈な刺激臭や苦味がしたらどうすんだよ。
想いが伝わるとかの以前に。
ちゃんに不味いデザートなんて喰わしちまった日にゃもう・・・俺は立ち直れねェよ。
いや、クソ青ッ鼻野郎を疑うつもりはねェが、料理人の意地ってのもある。
料理人の意地を考えるとアレだな、惚れ薬に頼って告白するってのは、男の意地はどうなんだ?

「・・・・背に腹は変えられねェ。 男の意地はこの際忘れるか」

恐る恐るキツク閉まったコルク栓を摘んで、引っこ抜いた。


キュポッ。


辺りに漂う、仄かな果実の香。

「お。 なんだ、意外とイケんじゃねェかよ」

後に残った問題は味だな。
確か・・・トナカイのヤツ、男には効かねェと言ってたよな。
俺に効果があって、味見した直後に野郎なんかが来ちまったら・・・・冗談でも想像したくねェな。
頼むぜェ、惚れ薬ちゃんよう・・・ッ!!


チャプ。


舌に乗せた瞬間に、フワッとストロベリィリキュールの味が口内に広がった。

「・・・・悪くねェ。 プディングのソースにピッタリだな、こりゃ」

酸味があって爽やかで・・・って。
おいおい!! 此れってよう、俺とちゃんの恋の味って感じじゃねェかァ?!?!
あぁ、木苺もあった筈だ・・・潰してペースト状にして煮詰めるとするか。
大切にコルク栓をねじ込み、惚れ薬をポケットにしまった。
俺は木苺がクツクツと囁くミルクパンを見ながら、どんどん高まってゆく期待と希望を貪る。

「プディング作るのって、こんなに時間掛かるモンだったか・・・?」

普段通りの数分が、やたらと待ち遠しい。 もう待ちきれねェ。
焼きあがったプリンを取り出し、コイツ等に篭った熱さでゲンナリした。

時間は2時。 3時までには、ギリギリ冷えるか・・・。
ちゃんが今頃、麗しい笑顔で待っててくれる筈ダ。
デッキチェアーに座り、優しく揺れる髪を海風に揺らして頬杖をついて。

「 "今日のおやつは、なぁに? サンジさん"  ・・・・ってなモンだよ、コンチクショー!!」

握り締める木ベラにも力が入る。
フワフワと漂う甘酸っぱい香に、ちゃんの微笑みを重ね。
着々と本日のオヤツ  "愛のプディング 木苺のメロリンソース掛け" は完成に近づく。


カチリ。

――――――― 3時だ。

ドクッと心音が鳴る。

「行くぜ、惚れ薬ちゃん・・・」

試験管が可愛く笑ってくれたように・・・・見えたのは気の所為か。
紅色鮮やかな木苺ソースに魔法を掛けて、今日こそ貴女を頂く・・・・。


ピチョン。 ・・・・ピチョン。 ピチョン・・・。

ちゃん用に個別分けしたソースに、ストロベリィの香がする惚れ薬が落ちた。
落ちた3滴が作った窪みまで、愛しく見えちまう。
皿に返したプディングにタラタラとソースを流し落とし、仕上げにホイップとミントの葉を飾る。
残った惚れ薬入りソースを味見して、問題無ェことを確かめた。
間違えねェようにナミさん達よりもホイップは大目。 細心の注意を払って、銀に輝くトレイに乗せた。
さぁ、お姫様。 愛のオヤツの時間ですよ。



ギィと開いた扉の向こうには、いつも通りに繰り広げられる騒がしい日常。
眩しい陽射しを避けるサンパラソルの下で、ナミさんとロビンちゃんが談笑していらっしゃる。
ちゃんは・・・・何処だ・・・・!! ・・ッ・・いつものデッキチェアに居ねェ!!!
参ったぜ・・・取り敢えず、レディ達に給仕して。 邪魔なオマケ共を片付けるか。

「レディ達〜、ソチラにお持ちしますよー!! オラァ、野郎共! てめェ等の分はキッチンだ!!
「ウホー!! 俺サマが一番に頂くぜェ〜!!」
「あ、コノヤロ! ウソップ待てッ!!」

五月蝿い連中がドタドタと階段を上がる。
アホ剣士の後から、トナカイが心配そうな面でコッチを見てる。
俺はこっそりと親指を立てて頷き、レディ達へと近づいた。
ナミさんとロビンちゃん用に、生クリームの少ねェプディングを差出し、恭しくお辞儀をする。

「んーっ、んまーい!! サンジ君のオヤツは毎日美味しいけど、今日のは特に気合入ってる?」
「・・・は、ははは・・・いつもと同じだけどね。 お口に合って何よりです」

チラリと俺とプディングと見比べた、ロビンちゃんの視線が痛ェ。

「ん? ちゃんが居ねェみたいだが・・・・ご存知ねェ?」
なら、船尾で昼寝してたわよ。 私達、起こさないようにコッチに移動したの」

優しく教えてくれるナミさんの瞳も、疑心暗鬼になっちまってるのか・・・痛ェ。

「・・・あー、ちゃんから、オヤツはプディングにしてくれと頼まれててね」
「へぇ・・・そうなの。 じゃあ、起こしてあげて」
「そうした方がいいよね、俺が起こすしかねェよな〜・・・早速行ってくっかなー・・・」

勿論、頼まれてなんていやしねェ。
ボロを出さねェ内に戦略的退却だ。 俺はモゴモゴと言葉尻を濁して、船尾へと向かった。



太陽を反射させる銀色のトレイの上で、カチャリとプディングの皿が鳴る。
もう直ぐ目の前に、ちゃんの姿が見える筈だ。

「・・・・・・・」

―――― ああ。
お昼寝好きな眠り姫が、太陽を浴びて。
眼に沁みるような笑顔を湛え、静かに寝息をたてている。

起こさねェよう、靴音に気をつけて・・・一歩一歩貴女に近づく。
まるで起きる様子の無ェ横顔に見惚れながら膝を付き、コトリとトレイを置いた。
肩を並べて腰を降ろすと、一気に全身の力が抜ける。
波が船体に打ち寄せる音、定期的な寝息、耳にまで伝わる俺の鼓動。

優しい色の髪が風に靡き、スッと俺の頬を撫でた。
一呼吸置いて。 軽やかな振動と温もりが肩に訪れる。
夢の世界を散歩しているだろう眠り姫は、俺の肩に頭を預けたまま。
な〜んにも知らねェで、眠っている。

ちゃん・・・・」

隣りに座るだけで良かったんだな・・・。
何の用意も準備も不必要で、ただ貴女の体温を感じられる距離に近づきゃ良かったんだな。
ちゃんのこと好きで、好きで好きで好きで・・・・堪んなくって。
大事で大事で、大切に想うあまり・・・下手な鎧ばっか着込んでよ。
伝えるのは一言でいいのに、かっこつけて、考えすぎて・・・・何やってたんだ。

「・・・・・バッカじゃねェの、俺」

床で待っているプディングが、突如として意味の無ェモンに変貌する。
艶やかな肌から、トロリと紅いソースが滑り落ちた。

「ん・・・・?」

長い睫毛に覆われた瞳が薄っすら開き、パチパチと何度か瞬きをする。
俺に凭れている状況に気がついたちゃんは、ハッと息を飲んで慌てて頭をもたげた。

「・・・・ッ!?・・・サンジ・・・さん?」
「そのままでいいですよ、愛しの眠り姫」

一度離れたちゃんの頭を、肩に優しく誘導すると、照れた上目使いの瞳が俺を見上げる。

「俺がちゃんに、こうしていて欲しかったんだ・・・。
 身も心も誰よりも近ェ位置で、こうしていたかったんだ」

目覚めた途端に口説かれる驚きは、どんなモンだろうと頭の端で考えたが、もう止まらねェ。

「スゲェ怖くてよ、ずっと心に留めていた言葉があるんだ。・・・・聞いてくれるかい?」
「・・・・はい」

にっこり笑ったちゃんは、そりゃあ可愛らしくて。
トクトクと高鳴る心臓は、そりゃあ五月蝿くて。

「俺のハートを盗んでしまったちゃんのハートを、盗み返してェ。
 貴女が好きで好きで堪らねェ。 此の世で一番・・・・貴女を愛してる」

見る見る内に頬を染め上げたちゃんは、恥かしそうに俺の腕に顔を埋めた。

「・・・・サンジさん、私のハートも・・・貴方に盗まれたままなんだけど」

まだ冷てェプディングが、船の振動でぷるんと揺れた。
いや、もしかしたら。 船の振動と感じた揺れは、俺のハートが発した揺れなのかもしれねェ。

「私、凄く嬉しい・・・ずっとサンジさんが言ってくれるの・・・待ってたから。
 ・・・あ、今日のオヤツもね。 ねぇサンジさん、食べてもいい?」

「勿論さ。 愛しい貴女の為に、心を込めて作った・・・・からな」

少々罪悪感があるものの、言葉に嘘はねェ。
想いが伝わったら何の効果もねェ、本日のオヤツ  "愛のプディング 木苺のメロリンソース掛け" 。
そっとスプーンですくって、艶やかに光るちゃんの唇に運んだ。
貴女が好きな生クリームも乗せて、誇らしげにスプーンで揺れる、紅いソースの掛かったプディング。

「どう?」
「うわぁ、美味しい!!」

一口含んだちゃんは、甘酸っぱさにキュッと瞳を瞑った後、俺に笑いかけた。
嬉しい反面。 少しばかり無駄にしてきた時間を呪った。
もっと早く貴女に想いを告げていりゃあ、今日迄何度・・・此の笑顔を間近で見れたんだよ。

「フフッ。 ロビンちゃんがね、今日はきっといい事があるわよ、って教えてくれたの」
「へ?」

二口目のプディングを飲み込んで、ちゃんは薔薇色の微笑みを浮かべた。

「何でもね、サンジさんに勇気を与える魔法を、チョッパーと発明したって。
 あははっ、いくら考古学者と名医が協力しても、魔法なんて無理よね〜」

ちょっと待ってくれ。 頭がこんがらがっちまってるんだが。

「でも、嬉しかったの。 本当にサンジさんが勇気を出して、想いを伝えてくれて・・・。
 魔法も冗談じゃなかったのかな、なんてね。・・・・サンジさん?」

つまり。
俺のポケットにあるコイツは。
最初から惚れ薬なんて代物じゃなく、ヘナチョコ撲滅薬だったって訳か?

「ああ、冗談じゃねェ、ホントの話さ。 媚薬のお陰でこんなにクソ麗しい姫君を手に入れた訳。
 魔法を掛けてくれたロビンちゃんとトナカイに、心から感謝するか。 ・・・・コイツにもな」

え? と聞き直したちゃんの額にキスをして。
照れたお姫様の唇に、残りのプディングをスプーンにすくって運んだ。




The end





++  シャオ  ++

アホの子です。

・・・・此れの何処がお礼夢かっていう質問は、一切受け付けません。 (泣き崩れ
お礼とはとても言い難い、ヘタレサンジノベルの極みなんですが。
えっとですね、コチラのノベルは、お土産ノベルとなっちょります。
アホ誕生日を祝って下さったレディ限定 (つまり此の祭りページにお名前がある方)に捧げます!!
もしも、「仕方ねェなぁ、貰ってやっか」 と仰るレディはお持ち帰りくださいませ。

アレですよ?!
ご自分のサイトアップ容量と、手間時間とよくご相談されて下さいね!
♪〜よーく考えよー、容量大事だよー、うーう、うーう。 ですよ??!! (替え歌かい
因みに、パンダちゃんは己で夢変換できないので、お持ち帰りはダメです。
パンダちゃん、ソース作りレクチャーthx!!

本当に本当にありがとう!!!! みんな、大好きーーーーーーーーーーーーー!!!!!!

++    ++
私もー! 私も大好きー! 布団も買ったヨ!(本家本元・「バニラの花の砂糖漬け」内からこのノベルへの
アイコン参照)
容量・手間時間気にしてません。明日も会社あるのに、AM2:30現在、まだ編集中…… あとリンク繋げないとね。
ヘタレ万歳!! ……イヤ、そうではなくて。
途中、色々笑えますが(イヤ、本人きっと大真面目なので笑ったら失礼です夕子さん)、それでも最後には
ちゃんと大切なことに気付いてカッコ良く締めてくれたのが、素敵です(それに気付くきっかけってのが、
私の寝姿だってのがまた……vvv悦vvv
ヘナチョコ撲滅薬万歳。サンジ万歳。シャオにゃ万歳ーーー!

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また背景素材は「CoolMoon」様よりお借りしました(リンクをリンクページから張っています)