『我 夢に胡蝶となるや
胡蝶 夢に我となるや』
―――蝶になって飛び回る夢を見てるのか。
それとも、今こうしてる自分は蝶が見てる夢の中の存在なのか―――
夢か現実か、区別がつかなくなっちまう事を。
どこかの大陸の詩人はこんな風に言ったって本を読んだことがあるが。
寝ても醒めても。
俺はいつだって、覚めねェ恋の中に居て。
たった一羽の愛しい蝶を追い求めてるんだぜ?
これまでも。
これからも。
この腕の中で、飛び続けてくれるかい?
俺の愛しいプリンセス、―――
『Blue Morpho』
買い物に立ち寄った島のマーケットの隅、小さなショーウィンドウの前で。
俺とは見たことも無ェ鮮やかな青に瞳を奪われた。
「クソ綺麗だな―――」
「うん、こんな綺麗な色初めて見た」
それは、まだ見ぬオールブルーの底はこんな色なんじゃねェかって想えるような。
一度見たら忘れられねェ程鮮やかな美しい青に包まれた、蝶の標本。
ショーケースを覗き込む俺達に、店のおっさんは笑いながら説明をくれた。
「お客さんたち、いい瞳を持ってるね。
この蝶は『ブルーモルフォ』って言って、世界で一番綺麗な蝶さ。
熱帯雨林にしか生息してない珍しい種類でね」
「ブルーモルフォ・・・ほんとに綺麗な青ですね」
蝶から瞳を反らさないまま応えたに、おっさんは嬉しそうに続けた。
「そうだろ?この青は、人間が作り出せる色じゃないんだ。
どんな染料を使ったってこの色は出せない。
―――まさに世界で一番の青さ。
どうだい?この標本。
グランドラインでもこんな綺麗な標本は滅多に手に入らねェ値打ちもんだが。
安くしとくよ、持っていくかい?」
買って帰ればルフィや長っ鼻あたりは大喜びするだろう。
俺も、もう少しじっくり眺めて居てェとも想う。
―――だけどな?おっさん。
俺は煙草を揉み消して、持っていた買い物袋を抱えなおした。
「ああ、確かに綺麗な蝶だが。
標本より飛び回ってる方が綺麗だろ」
籠の中に閉じ込められて自由に飛び回れなかった蝶のことを思い出しながら。
俺がそう言うと、はセピアの瞳を細めてクソ綺麗な笑顔を俺に向けてくれた。
「ははは、そりゃそうだがな。
この蝶は世界中捜してもそうそう見つかる蝶じゃねェよ。
生きてるのは言うまでも無く、標本でも。
こんな綺麗な蝶、もうお目にかかれないかも知れないぜ?兄ちゃん」
「そうだな、ブルーモルフォにァもう会えないかも知れねェが」
おっさんの言葉に口許を上げながら。
の手を取って、その白い指先に口付けを落とす。
「それよりも綺麗な蝶なら、ここに居るぜ?」
紅く染まっていく蝶のしなやかな腕にスーツの腕を絡めて。
GM号への帰り路のエスコートをはじめたら。
おっさんの囃子立てるような口笛が聴こえて。
のはにかんだ瞳が、昼下がりの午後の光にハチミツ色に輝いて見えた。
「あと―――20分か」
夜の帳が降りた薄明かりのキッチンで。
俺は愛しのプリンセスへのプレゼントを用意する。
と過ごした、この一年を振り返りながら。
もうじき12の文字で重なる時計の針が連れてくる日。
ちょうど365日前のその日に。
俺は1羽のアゲハ蝶を拾った。
それはが作った蝶の形のトランシーバーで。
その蝶に導かれて出逢ったに、俺は一目で恋に堕ちた。
覚えてるかい?俺のプリンセス。
白い屋敷の籠の中から。
貴女をグランドラインの海原へ連れ出した日のことを。
親父さんが決めた婚約者との未来を蹴り飛ばして。
俺達が手に入れた運命の恋のバースデーを。
氷を入れたシェイカーに、ホワイトラムとアマレットを注ぎ込んで。
俺は棚からライムジュースとブルーキュラソーを探し出す。
見張り台での甘い夜に、ムーランルージュでの冒険。
クリスマスも、俺とのバースデーも一緒に過ごした。
365日、途切れる事の無ェ愛を重ねて。
1年を経た今でも、出逢った日の想いは変わる事は無ェ。
いや、であった頃以上に。
への愛しさは加速度を上げて。
新しい日を覚えるごとに、俺の胸を熱くしていく。
パイナップルジュースとブルーキュラソーを加えると。
シェイカーには海の底みてェな穏やかな青い波が漂って。
俺はその海に蓋を閉めて、勢いよくシェイクする。
―――なァ、。
この1年、数え切れねェ程の事を貴女と越えてきたな。
その長いようで短い時の中で、は麦藁海賊団のなくてはならねェサイエンティストになった。
それからな?
365日前に出逢った俺のアゲハ蝶は。
俺達の愛と、海賊の航海の蜜を浴びて。
誰よりも綺麗な蝶になった。
世界で一番綺麗な蝶、ブルーモルフォに。
一年前よりも深くなってる俺の想いと共に。
シェイカーからグラスに注ぎ込むカクテルは。
俺の胸を舞う蝶の色。
ブルーモルフォの青。
なァ、。
貴女は一目を引くほど輝いてるから。
これからも他の海賊や立ち寄った街で、狙われることがあるかも知れねェ。
危ない目にあう事だって、少なく無ェだろう。
でもな。
俺のブルーモルフォは、誰にも触れさせねェ。
貴女を掴まえて籠に入れようとする野郎は、俺が蹴り飛ばしてやる。
貴女に降り注ぐ火の粉の盾に、俺がなる。
の事は、俺の全てを賭けて守るから。
だから、この広い世界中を。
俺の腕の中で、恐がらずに飛び回り続けてくれねェ?
世界で一番綺麗な蝶。
それは、。
貴女のことだ。
俺の望みは、ブルーモルフォを掴まえて標本にする事じゃなくて。
ブルーモルフォと共に生きること。
――― 。
貴女を愛し、守り抜く喜びを。
これからも、この騎士に授けてくれますか?
ブルーの波が揺らめくカクテルグラスに、パイナップルとマラスキーノチェリーを飾って。
トレイに2つのグラスを載せると、俺はキッチンの明かりを消して。
愛しいブルーモルフォが待つ、見張り台へと向かう。
漆黒の海に浮かんだ銀色の月が、眩しいほどに照らす見張り台へ。
俺は梯子を昇りながら、その頂でこの月を眺めているだろう愛しい人の名前を呟いた。
「――― 」
その名前は、まるで媚薬。
唱えるだけで幸せが訪れる、俺の魔法の呪文。
すると。
「・・・サンジ」
その呪文が終わらねェうちに、の声が傍で聴こえて。
まだ半分も昇ってねェ梯子のどこから、の声が聴こえたのかと。
俺はあたりを見回してもう一度名前を呼んだ。
「?」
俺の瞳に映ったものは。
銀色の光に舞う、最高の青。
世界で一番美しい蝶、ブルーモルフォ。
熱帯雨林にしか生息しねェはずの蝶が。
世にも珍しい種類のブルーモルフォが。
どうして海の真ん中を泳ぐGM号を飛んでるんだ―――?
疑問の渦に流される俺に微笑みかけるかのように、蝶は優雅に俺の周りを飛びつづけて。
俺は導かれるように、見張り台の梯子を駆け上がっていく。
「なァ、!
今ここにブルーモルフォが―――」
見張り台に着いた俺に、が振り返った瞬間。
耳元を飛ぶ蝶からのソプラノが聴こえて。
全ての謎が解けた。
「うん。
アゲハ蝶がね、ブルーモルフォになったの」
の手には、1年前に俺達が出会ったときと同じ、トランシーバーのリモコン。
俺の肩に乗って羽根を休めているブルーモルフォは。
ついこの前アゲハ蝶だったはずの、が作ったトランシーバー。
―――っは。
本当に、貴女には敵わねェな。
プリンセス。
俺はトレイを置いて、の隣に腰を降ろすと。
指先に止まった蝶をそっと撫でてに訊ねた。
「アゲハ蝶のトランシーバを青く塗りなおしたのか―――
・・・だが、ブルーモルフォの青はどんな染料を使っても作り出せないんじゃねェのかい?」
瞳の前の蝶は、昼間に見た標本と全く同じ鮮やかな青で。
俺は標本屋のおっさんの言葉を思い出しながら、首を傾げた。
「確かに染料では、ね」
凛々しいサイエンティストの瞳に銀色の光が差し込んで。
俺はその言葉にできねェ程の美しさに心を奪われる。
「ブルーモルフォの羽根はね、色素で青く塗られてるんじゃなくて。
羽根にマイクロ単位の細かい線がたくさん引いてあるの。
その線の間で、光が干渉して回折が起こって珍しい青になるんだって。
だから、アゲハ蝶の羽にマイクロ加工をしてみたの」
人間に作り出せる色じゃねェはずの青を。
はいとも簡単に身に纏って舞い上がる。
「成る程な―――」
小さなの身体を抱き寄せて腕の中に掴まえたら。
の甘い香りが夜の潮風にそっと流れた。
「俺の蝶も同じように。
この一年で沢山の想い出を羽根に刻んで。
アゲハ蝶から、ブルーモルフォになったんだぜ?」
腕の中のブルーモルフォに口付けを落としたら。
キッチンから真夜中を示す時計の鐘の音が小さく聴こえて。
俺はほんのりと紅く染まっていくの頬に、もう一度唇を近づけた。
「今日はこの愛の、誕生日だ」
「サンジ、覚えててくれたんだ?」
勿論さ、プリンセス。
今日は、俺達の愛のバースデー。
忘れるわけがねェだろう?
トレイからグラスを手渡したら。
がカクテルの青に瞳を細める。
「綺麗な青ね。このカクテルの名前は?」
「ブル−モルフォ」
言いながら口にブルーモルフォを流して。
にその青を口付けで注ぎ込んだら。
初めての口付けのときと同じように染っていく頬で俺を見上げて。
「美味しい―――」
そう小さく呟いた。
なァ、プリンセス。
その羽根のブルーみてェな海にを連れて行くことが出来る日は。
1年先か、10年先か―――解らねェが。
夢を叶えるこの旅の中で。
ずっと。
俺の隣で笑っていてくれねェ?
「我 夢に胡蝶となるや
胡蝶 夢に我となるや」
ふと呟いた俺に。
は腕の中で小さな笑い声を上げながら応えた。
「どっちでも、あたしにとっては同じ。
寝ても醒めても。
あたしは覚めないサンジの恋の中に居るから」
やっぱり貴女には敵わねェ。
世界で一番綺麗な蝶。
俺の、ブルーモルフォ。
「今夜もきっと、の夢を見るな。
だが、その前に―――」
―――起きてても見られる夢を、貴女と共に味わっても?
頷いたに熱い口付けを落として。
俺は醒めない夢の中に、と共に堕ちていった。
これまでも。
これからも。
この腕の中で、飛び続けてくれるかい?
俺の愛しいプリンセス、―――
2004.7.20
written by ラム
2003年の7月20日に誕生したHoney Labor
皆様のおかげで、一周年を迎える事が出来ました!
訪れてくださる全てのレディに、心からお礼申し上げます。
このドリームは、サンジとの出会いを描いた「Swallowtail Butterfly」を元に
していますので、どちらをお読みいただけると意味が解りやすくなると想いますv
全てのレディに感謝を込めて、このドリームはDLFに致しますv
宜しければもってってやってくださいませ!
これからも、ワンピース、テニスの王子様への愛をドリームに変換して。
2年目、3年目のお祝いができればいいなと思っています。
ヘタレサイトにヘタレ管理人ですが。
oney Laboratoryとラムを、これからもよろしくお願い致しますvvv
―――はい。こちらこそ宜しくね、ラムちゃんvvv
Honey
Laboratoryが誕生したのは7月20日、そのひと月と5日後、葉月の誕生日。そんなわけで誕生日プレゼント代わりに、戴いてまいりました!
訪れるたびに、一話一話重ねられる度に、どんどん素敵になっていくこの二人、ラムサンジとヒロイン。
ホントにもう、大好きです。だからDLF作品上がるとついつい、貰ってきちゃう。貰いすぎだよ、てくらい一杯ありますが(笑
だって好きなんだもん。いつまでも、どこまでも。最後まで、この二人の幸せな行く末を見守っていきたいです。
これからも2周年・3周年に向けて、がんばってくださいね。応援してます。
ラムちゃんの素敵サイト「Honey Laboratory」へはリンク集からv
「Swallowtail Butterfly」も読めますよ。リニューアルしてますます洗練されたハニラボへGO!
尚、この小説は別窓で出ています、お戻りの際にはブラウザを閉じてください。