ベッドサイドを吹き抜ける穏やかな風が、髪を撫でる感覚に呼ばれて。

   夢の淵から醒めると、俺はほんの少し気だるさが残る身体を起こした。

   

   朝まで抱いてたぬくもりに、手を伸ばして。

   まだ深い眠りの中に堕ちてるプリンセスに、俺はそっと口付けを落とす。

 

   「50%―――確率は半分だが―――」

   小さく呟きながら、窓に揺れるカーテンの向こうに瞳を向けて。

   どんな高名な画家でも同じ色は作れねェだろう鮮やかなブルーに染まった空を眺めると―――

   

   「、今日は。

    生涯忘れられねェ休日になりそうだぜ?」

 

   俺は煙草を咥えた口角を上げながら、眠り姫にそっと語りかけた。

 

 

 

                『Hallelujah』

 

 

   「お休みが重なるなんて、珍しいね!

    この長い梅雨の間に、雨が降らない日が入り込む確率とどっちが高いかな?」

   闇を包み込む雨音の中、と同じ日に休みが取れたと伝えた俺に。

  は瞳を輝かせて笑った。

 

   サイエンティストのと、料理人の俺は。

   土日も休日も、休みが噛み合う事なんざ滅多に無ェ。

   レストランの仕込みのために早起きしなきゃならねェ俺は、

   いつもの寝顔すらゆっくり見れねェし。

   帰る時間もまちまちな俺達は、

   一日ゆっくりと何処かに出かけるなんて事も、滅多に出来ねェ。

 

   だからこそ二人が一緒の休日は。

   まるで夢みてェな24時間のはずで。

   そして、何ヶ月ぶりかにやっと。

   俺はオーナーのクソジジイに無理を通して、の休みと同じ日に休みを取った。

 

   ―――にも、かかわらず。

   ベッドサイドの目覚し時計はすでに昼間近い時間を指してて。

   愛しのプリンセスは眠ったまま。

   

   が目覚めたら、きっと。

   折角の休みが勿体無ェなんて頬を膨らませて悔しがるんだろうな。

   

   でもなァ?プリンセス。

   俺にとっては計画通りなんだぜ?

   

   昨日の真夜中。

   「・・・サンジのバカ。

    こんな風に夜更かししたら、明日起きれなくて折角のお休みにお出かけできなくなっちゃうよ?」

   そう頬を染めるの唇を塞いで、朝まで激しく抱いたのは。

   普段の逢えねェ時間と離れた体を繋ぐ為でもあるが。

   もうひとつ理由があってな?

 

   今日はどうしても。

   に、俺よりも遅く起きてもらわなきゃいけなくてな。

 

   を起こさねェようにベッドを静かに抜け出して。

   引き出しにしまっておいた小さなロイヤルブルーの小箱を取り出す。

   そっと開いた小箱から、太陽に煌く露にも似た輝きが溢れて。

   俺はその光を真ん中に湛えた華奢な作りのリングをそっと取り出すと。

   音を立てねェようにの傍に戻る。

 

   同じ部屋に暮らし始めてもうすぐ1年。

   なァ、―――

   今日からは俺だけのプリンセスになってくれるかい?

   

   俺は、柔らかな暖かさが伝わるの左手をそっと取ると。

   その細い薬指に、手の中のリングをゆっくりと滑らせる。

   

   「後は次第だぜ?

    欲しい答えをくれる確率は―――」

   そっとシーツの合間に戻したの指に。

   空を高く昇っていく太陽のハチミツ色の光が眩しい位に反射して。

   俺はそのの笑顔みてェな光に瞳を細めると。

   二人の愛の巣を後に、キッチンへと向かった。

 

 

 

   『天気予報ってずるいのよ!

    ねぇ、”降水確率は0%です”っていう時に。

    ”ゼロ”と”レイ”のどっちで言うことになってるか知ってる?』

 

   俺は遅い朝食を作りながら。

   一緒に暮らし始めた頃のの言葉を思い出す。

   

   『降水確率は普通”レイ”%って読む事になってるの。

    それはね。

    ”ゼロ”は”全く無いこと”を表すのに対して。

    ”レイ”は”極めて小さい”っていう意味なんだって。

    ”レイ%”っていうのは5%未満っていう意味で0じゃないの。

    ずるいよね?

    雨は絶対降らない、って事じゃないんだって』

 

   ―――やっぱり人間に『絶対』とか『全くない』とか言い切れるものは何も無いのかな?

       サイエンティストをしてても、絶対って言い切れる現象はまだ1つも見つけられないしね。

 

       サンジにはある?『絶対』って言えるもの―――

 

   その時の俺は、応えられなかったが。

   あれから1年経った今なら言える。

 

   見つけたぜ?

   たった一つだけ。

   俺にとって『絶対』なもの。

   それは―――

 

   俺は淹れ立てのオレンジペコが薫るのティーカップを手に。

   プリンセスがそろそろ目覚めるだろう二人のベッドへと急ぐ。   

   柔らかな身体をそっと抱き寄せてキスを落としたら。

   眠り姫のセピアの瞳がゆっくりと俺を映し出す。

 

   「―――おはよ、サンジ」

   「あァ、おはよう。

   「―――もうお昼なのね。

    お休みにお出かけもしないで寝てたなんて、勿体無いね」

   やっぱり予想通りのことを口にしたに、俺が口角を上げると。

    は窓の外にセピア色の瞳を向けた。

   「今日、晴れたのね。

    降水確率50%なんて言ってたのに。

    天気予報、ハズレだね」

   

   俺はにオレンジペコを渡しながら。

   1年越しの答えをに届ける。

 

   「いいや。

    の降水確率は、ゼロパーセントだ」

 

   「え?

    だって、昨日TVでキャスターが50%って言ってたよ?」

   きょとんとした顔でそう答えて。

   一口飲んだオレンジペコを包み込んだ細い薬指の光にが気が付いた瞬間。  

   「サンジ、これ―――」

   俺は大きな瞳を更に大きく開いたを背中から抱き締めた。

 

   「これから先、が雨に濡れる事は無ぇんだ。

    の進む路に雨は降らせねェ」

 

   ―――例え、苦難の雨が降り注いだとしても。

       俺が傘を差して。

       例え、火の粉が降り注いだとしても。

       俺が盾になって。

       どんなものからでも、俺がを守り抜いて。

       絶対に、幸せにするから。

 

       なァ、プリンセス。

       貴女の左手の薬指に絶対の愛を誓って。

       50年後も今朝と同じ目覚めのキスを贈っても?―――

 

   の大きな瞳から、薬指に光るダイアモンドよりも綺麗な雫が生まれて。

   俺はの瞳から零れる前に、その雫を親指で拭った。

   「驚いたかい?プリンセス。

    ―――もうすぐと過ごして1年が経つ。

    だから、そろそろ二人の未来の答え合わせをしたくてな」

 

   揺れるオレンジ色の波間を描くティーカップを、の手からベッドサイドに映して。

   セピアの瞳に俺だけを映し出したに、俺はまっすぐに向き直った。

   「の答え、聴かせてくれねェ?」

 

   五月蝿ェ胸の音が、時計の針の音を追い越していく。

   yesかnoか、の次の答えは天気よりも予想できなくて。

   その涙の意味は、歓びなのか戸惑いなのか―――それすら計算できねェ。

   気が遠くなるような一瞬の後、が桃色の唇を開いた。

    

   「50―――」

   「50?」

   yesでもnoでもねェ、予想外の答えに。

   俺は気まぐれのプリンセスに翻弄される。

   ―――今日の降水確率と同じ数字が、俺のプロポーズへの答えなのかい?

        それは、つまり―――

 

   すると、は怪訝な顔をした俺を覗き込むように悪戯っぽく笑って。

   雲から顔を覗かせた太陽みてェな瞳で俺を見つめた。

   

   「50年だけ?

    51年後はおはようのキス、してくれないの?」

   ―――ねぇ、サンジ。

        あたしの『絶対』は。

        あたしの目の前に―――

 

   言い終わらないうちに、気が付けば俺はに雨を降らせてた。

   それは、止まねェキスの雨。

   永遠の愛を育む、惠みの雨。

   遠くの教会の鐘が、祝福するように12時を知らせて。

   澄み渡った空に、ハレルヤが響き始めた。

   

   「ひとつ訂正。

    俺とが空に還る日まで。

    この雨だけは毎日降らせても?」

   口付けの合間に囁くと。

   はゆっくりと頷いて瞳を閉じた。

   その瞳から零れ落ちた、歓喜の雫をそっと唇で拭うと。

   俺達はハチミツ色の光の祝福の中、止みそうにねェ雨に身を委ねた。

 

 

   なァ、俺だけのプリンセス。

   ブランチを食って、俺の引出しの中の婚姻届を書いたら。

   夜の海までドライブしようぜ?

   ―――それから、貴女が俺だけのプリンセスになってくれた記念に。

   世界中の光をプレゼントしよう。

   休みが取れると解った日に予約しておいた、ヘリコプターのナイトクルーズ。

   梅雨で雨続きの最近は、ほぼ毎晩キャンセルになっちまってるって話だが。

   この天気予報が外れた空は。

   きっと今夜、世界中の光を集めたみてェな夜景を届けてくれるだろう。

 

   その光に映る、の左手の薬指と。

   貴女の何よりも眩しい笑顔が、楽しみで仕方無ェ。

 

   なァ、

   例えば50年後、俺がジジイになって視力が衰えちまったとしても。

   太陽なんざ、見えなくなっちまったとしても。

   って名前の俺の光だけは見える。

   『絶対』、そう言い切れるぜ?

 

   俺はベッドから降りるに手を差し伸べて。

   柔らかなぬくもりを包みながら、小さな手を引いた。

   「俺だけのプリンセス、お手をどうぞ。

    行こうぜ―――」

   光溢れる、二人の未来へ―――

 

 

 

                  2004.6.11

                  written by ラム

 

                                             葉月 夕子さまから戴きました「32311」(サンジさん、いい!)リクエスト。
                                             リクエストは「パラレルでサンジと過ごす休日」v
                                             あの・・・このドリーム、あんまり「休日を過ごして」ない気がしますが。
                                             リクエストにお答えできてるでしょうか??(ドキドキ) 
                                             普段お世話になってる夕子お姉に少しでもお返しを、とプロポーズなど・・・(笑)
                                             サンジにラムの気持ちを代弁させてみました。
                                             キス魔でハチミツ入りすぎな甘さなのは、最早ハニラボのお約束なのでお許しください。

                                             夕子ねーさま!こんなヘタレドリームでよかったらお持ち帰りどーぞvvv
                                             いつも素敵なご感想メールや、カキコ、ありがとデスv
                                             そして今年はオフでまでお話できて!嬉しい限りですvvv
                                             こんなヘタレ妹ですが、これからも捨てずに居てやってくださいませvvvvv

                                             
もっちろん!捨てるなんてあり得ないわ。
                                             お休みの日が重なったと思ったらプロポーズvvv 
                                             寝ている間にさりげなく指輪くれて、50年、ううん、いつか二人で空に還る日まで
                                             毎日振らせてくれる甘いキスの雨、降水確率は100%!
                                             もう、うっとりv です。それこそもう、「32311」! 申請してよかったです。
                                             どうもありがとうね〜! ありがと!
                                             ホントに生涯、忘れられない休日だぁ〜!
                                             ラムちゃんの素敵サイト“Honey Laboratory”はリンク集からどうぞ。
                                             パラレルもこのとおり、素敵ですがONEPIECE世界・海賊料理人のサンジさん
                                             もすごく素敵です。ぜひどうぞ!
                                             尚、この小説は別窓で出ています、お戻りはブラウザを閉じてください。