こんなコト…… 思う俺は、ゼイタクなんだろうか?



   <irrelevant jealousy> 



「んー、美味しい」

銀色のパフェスプーンの先にちょこんと掬った純白のホイップクリームを、
桃色の舌先で味わってそう言ってくれるナミさん。

「いい香りね」

純白のカップに湛えられた橙色の紅茶を、朱い唇に含んで香りまで
味わってくれるロビンちゃん。

このお二人にそう言っていただけるだけでも光栄なのに、

「だよね。お茶もパフェも本っ当ーに、サンジ君が作ってくれるのは最高だよね」

見栄えこそ命、コレ以上ねェ位に完璧にデコレーションしたハズのレディ専用
フルーツパフェが見劣りしちまう笑顔で、ちゃんがそう言ってくれた日にゃァ。

「そのお言葉にその笑顔。イヤイヤまいった、いくら俺のパフェでもソレには敵わねェな」

見ているだけで聞いているだけで幸せになれそうな、否、幸せになれるその笑顔、
その言葉。
ごゆっくり、といつものように食べ終わる頃を見計らって、食器を下げにもう一度行く
までテーブルを離れようと踵を返した。
気分は頭上の青空の如く上々、晴れ渡った上機嫌。


……だよなァ。たぶん。





全てのレディはこの世の宝。
特にこの船には、至高の美を誇る二人が乗っていた。
ナミさんとロビンちゃん。
また、ロビンちゃんと入れ違いで降りちまったけど、アラバスタ王国の王女。
ネフェルタリ・ビビちゃんも、その名の通りの存在だった。
それだけでも最高だと思われたのに。


出逢っちまった。
全てレディはこの世の宝、その中でもナミさんとロビンちゃんは至高の存在。
それは変わりねェ、が―――

それらをも、全て超えた存在。
心の底から大切だと、愛しいと思える存在。
全てのレディはこの世の宝というならば、彼女こそは俺の宝。

ちゃん。
君に、出逢っちまった―――。





キッチンのシンク前、ソコはコックたる俺の特等席だ。
ソコに立って顔を上げると、目の前の窓の向こうに広がるのは甲板、そこに一際、目立つ
テーブル。
そのテーブルこそ、本日のおやつを届けたレディ達が囲むテーブルだ。
いい眺めじゃねェか。
なんて言うと少々下世話に聞こえるかもしれねェが、おしゃべりに花を咲かせながら、
俺が作ったおやつを嬉々として食すレディの姿、華やかじゃねェ?
特にホラ、あのちゃんの笑顔。

……どうやったら、アレを。俺のためだけにも、向けてくれるんだろう……。






「……で、コレとコレ、っと。あとは他にないかい、兄ちゃん?」
「あァ、充分だ。そっちの袋のは今持って帰るから、それ以外のヤツは3日後、
 今言った船まで持ってきてくれ」
「あいよっ、まいどあり。またごひいきに…… 兄ちゃん、見る目あるなまだ若いのに」
「あァ、これでも一流料理人なもんで」

店のオヤジとそんな会話を後に、店頭から離れる。
久々についた港町。
久々の陸地に久々支給の小遣い、皆、うきうきとした足取りで船を降りた。
俺はというと、小遣いの他にこの先の航海への食料手配に必要な経費を別途、
ナミさんから頂いて。
この島のログが溜まるのは4日間と聞いたから、前の日の3日後に食料が届くように
手配してまわっているところだった。
それとは別に、停泊中のメシの分は今、持ち帰りで買って帰る。
と、結構大きいし、回り甲斐があるな、この商店街。
こんな商店街を、ちゃんと回れたら――― そっ、いわゆるデートってヤツ。
もちろん食料の買出しじゃねェ、ま、それもいいけど、ソコはショッピングだろ。
ちゃんに似合いそうな服やアクセサリーを俺が見立てて、気に入ってくれたら
即購入。
結構自信あるんだぜ? レディに似合いそうな服やアクセサリー見立てるの。
一通り回ったら、良さそうなティールームでティータイム。
ちゃんが何を頼むのか、こっそりチェックして後日、おやつの時間か食後の
デザートに、そのスイーツを出してみる、ってのもいいんじゃねェ?
もちろんその店の味なんかにゃ負けねェ、それ以上のものを用意しよう。
そして帰りは、ちょっと回り道して景色のいい公園とかで一緒に夕日が見たりして、
そのまま気分が盛り上がっちまったら…… みてェな? 
そんなデートに一緒に行けりゃあ―――


っと。
アレ、今の――?

両手の荷物を持ち直し、歩みを速める。
今見かけた三人連れのレディ達…… やっぱり。


“ホラッ、。早く早く”
“あん、待ってよ、ナミ。今日は私の服、見てくれるんでしょう?”
“フフッ、慌てなくても大丈夫よ。ゆっくり行きましょう”


こんな会話をしながら、嬉々として町に降りていったウチの船のレディ達だ。


ウチの船のレディ達――― ナミさん、ロビンちゃん、ちゃんは、仲がいい。
何か行動する時、例えば今みてェに港に着いて町に降りる時なんかは三人一緒だ。
船でもおやつの時間などは一緒だし。
よく話して、笑いあっている。
今なんかは、ナミさんが手に取った服をちゃんの身体に当て、何か話しているのを
すぐ傍でロビンちゃんが見守ってる感じだ。
ナミさんに何て言われたのか――― たぶん俺が思ってたのと同じコト。その服、色もデザインも
すごく似合ってて可愛いってな ―――ちゃんが満開の笑みを見せながら、ナミさんから
その服を受け取っていた。

あァ、そうだその満開の笑み。屈託なく笑うそのカオ。
そりゃあ、俺の前でもちゃんは笑ってくれる。
けど…… 何か、違うんだ。この、今の笑顔とは。

「………」

俺は、声をかけるともなく。
通り一本隔てた洋服屋の前を、後にした。





キッチンのテーブルに、買い物袋をドサリと置くと、煙草に火をつけた。
フーッと煙を吐くと同時に、このモヤモヤしたキモチも一緒に出てけばいいのに、と思う。

先ほど見かけたちゃんの笑顔。
本当に可愛かったよな……

ていうか、ナミさんやロビンちゃんは行けるんだよな。
俺が想像でしか行けないちゃんとのデート。
ナミさんがやってた、“ちゃんの服を見立てる”ってのはそのメインイベントだ。

全く、ラブコックと呼ばれた俺が形無しだ。
頭ん中だったら、さっきの街中でみたくいくらでもできるのによ。

“え、港に着いたら? え〜っと、この前ナミが持ってた雑誌に可愛い服が載ってたから
 ソレ、あるかどうか見に行こうってコトになってるの。きっと私に似合うって、ロビンも
 言ってくれたし”

デート…… ってんじゃあからさますぎるから、まずはさりげなく、港に着いたら、で
話題を振って。
まだそんな仲じゃねェ俺とちゃんが何気なく、二人きりで出かけるためには、
買出しについてきて欲しい、ってお願いしてみることだ。
何が食べたいか、ちゃんの好きなもの何でも作るからさ、とか言って。
と、綿密(?)に計画を練った俺だったが、それ以前にちゃんから先手。
話題振った時点で先にこう言われて、 “すっごく楽しみだわ” なんて
言われた日にゃア。
買出しについて来てくれ、なんて言えねェよな。
きっと、さっき洋服屋で合わせてた服、アレがそうなんだろうな。
あァ、確かに似合ってた。
ナミさんやロビンちゃんの見る目は確かだ。

……けど、俺が見る目も、確かだと思うぜ? ちゃん。







「バッカじゃないの?」

目の前で静かに、紅茶のカップに口をつけながら、ナミさんが言った。
その可愛らしい外見に似合わず、キツいなぁナミさんは。
でも、その歯に衣着せぬ物言いのナミさんも素敵だ。相手のコトを思い、
ズバッと的確なことを言ってくださる。

今日はロビンちゃんが、昨日買いそびれた本があって気になるから、もう一回
街に下りると言い、ちゃんもついていった。
ナミさんはというと、この島に来るまでの海図で、まだ描けていない部分があるから
今日はそれを仕上げる、と船に残った。
そしてただ今休憩中、というわけだった。
そのティータイムの話題に、ズバリとナミさんが聞いてきたのは、最近の俺の態度。
ナミさん達三人に対する俺の態度だそうだ。
それも、三人と接してる時ではなく、その後。もしくは着かず離れずの位置の時。
何だか妙な視線で、コッチを窺ってる、というのだ。妙な視線――― さみしいような、
うらやましがるような…… 物欲しそうな、だと。
昨日、街中で俺が、ナミさん達を見かけたのに声を掛けなかったコトも全てお見通し
だと言う。

「あそこで声掛けてこないなんて、今までのサンジ君ならありえない、って思ってたら
 そういうコト」

ナミさんの追及は、そりゃア素晴らしいもので、アレで落ちない相手はいねェんじゃ
ないかと思う。
というか、全て見通されてるならもういっそ…… と相談に乗ってもらおうと、思わなかった
ワケでもねェ。
そういうコトで、俺は全部ナミさんに話した。

「全く…… ゼイタクよね。レディーファーストが身上のラブコックが、一人の女の子の笑顔
 独占したいなんて。今までどおりのがいいんじゃない? 世の中、一人が女の子って
 ワケじゃないわよ」
「それがもう、どうやらそうもいかねェんだ……」

そう言って、俺は苦笑した。

「前はさ、それでもよかったんだ。レディは褒め讃えるもの、大切にするもの、愛でるもの。
 全てのレディはこの世の宝。そう思ってたし、今でもそう思ってる」
「……」
「でもさ。出逢っちまったんだ。出逢わなきゃ出逢わないで、今までどおりの俺でいられた。
 でも…… 出逢っちまったんだ。ちゃんに。全てのレディがこの世の宝だって言うんなら、
 ちゃんこそ、俺の宝だ」
「……」
「ナミさんやロビンちゃんが羨ましいよ。いつもちゃんと一緒でさ。一緒でいるのに、
 口実も必要ないし、拒否されることもないし」
「……サンジ君」

それまで、黙って聞いていたナミさんが口を開いた。

「ラブコックも形無しね。そうなっちゃ」

ハア、とナミさんがため息をつく。
あァ、こりゃ呆れられたな。

「でもね、サンジ君。そんなコトで、私やロビンを羨むなんて、お門違いもいいトコよ」
「え?」
「そりゃ、いつものあのノリでに迫ってもらっても困るけど。でもね、サンジ君は
 根本的に問題を履き違えてるわ」

ナミさんが、紅茶と共に出していたみかんフォンをさくっと、一口大に切りながら言う。

「そんなサンジ君に、非常に貴重な情報を一つ」
「はい?」
「今日からあと5日後、の誕生日」
「えっ… えええええ!?」
「その一大イベントにも、私達を羨ましがるだけで何も出来ない様じゃ、のコトは
 諦めるのね。私もロビンも、とびきりのプレゼント用意してるんだから」

あァ、情報料はいいわ、どうせ遅かれ早かれ、そろそろサンジ君に知らせて当日の
お祝い料理やバースデーケーキ準備してもらわなきゃならなかったトコだし。
そうね、先払いでこのシフォンケーキってことで。私の好きなみかんで、それもこんなに
小振りのホールってことは私のためだけに焼いてくれたんでしょう?
にもこれくらい気の利いた演出、してやんなさいな。

そう言うと、ナミさんは切り分けたみかんシフォンを口に入れ、フフッと微笑ったんだ―――








「なーんだ、どうした? 
「え?」
「カレンダー見て一人で笑ってたりして。何か楽しいご予定でも? プリンセス」

机の上のカレンダーを見て、フフッと笑った愛しい恋人を見つけた俺は、咥えていた
煙草を携帯灰皿に始末すると、ふわりと彼女を後ろから包み込んだ。

「えぇ。あるわ」

そう言った彼女はカレンダーを見つめ。

「もうすぐ私の誕生日。……それ以前に、もう何年前かしらね。ココで初めて、
 誕生日迎えた時の事、思い出してたの」
「……あァ」
「それとね。その前の、あの頃のサンジとか」
「ヤ、それはもう…… 勘弁してくんねェ?」

そう囁いて、耳元に唇を寄せてみる。吸い慣れた煙草と腕の中のの耳元、
どっちがいいかなんて明白だ。
ナミさんから重大情報を仕入れたあの頃の俺は、あの後一念発起。
が仲間になってから初めての誕生日、ってんで朝からお祭り騒ぎで常に
誰かが彼女の傍にいたが、ナミさんとロビンちゃんの協力のおかげで
二人きりになれる時間を俺は手に入れられた。
そこで当時の俺としては最大級のもてなしと、想いの丈を…… 告白した。
その結果が、今だ。
ナミさんとロビンちゃんは当時から、俺らが互いに想い合ってるのにすれ違ってた
のを知っていたそうで、それでの誕生日に二人きりになれるよう、協力して
くれたのだそうだ。
……おかげで、俺があの頃、お門違いなヤキモチ焼いてたのをすっかり、
バラされてしまったが。

「ううん、それはおあいこだもの。私だってあの当時、サンジの前では緊張しちゃって
 うまく笑えなかったり、変に意識して二人きりにならないように、いつもナミやロビンと
 一緒にいるようにしたり…… そのくせサンジの傍にもいたかったりしたんだから」

私だって、あの二人にずいぶん、からかわれたりしたのよ。
そう言って――― そんな可愛らしい告白をしてくれたが、くるりと、身体を
反転させて俺の方を向いた。

「ね…… 今年の誕生日も、あの時に負けないくらい素敵なコトしてくれるの?」
「それは――― 当日のお楽しみさ、プリンセス」

俺がそう言うと、は嬉しそうに笑い―――

「じゃあ、先行で。先に少し――― 分けてくれる?」
「喜んで」

互いに笑いあう、俺らの唇が重なるまで、あと少し。


                                         <Fin.>
夕子「―――――って、誕生日過ぎてるじゃん! とセルフツッコミ。
    しながら書いておりました(笑)
    そうだよ過ぎちゃったじゃない、今からこの内容で捧げていいのかしら、
    とハラハラしてたらそれだけ日々が過ぎていく、と。
    いうことでお誕生日一週間後プレゼントってことで!
    「サンジのヤキモチでーーーーーーーーー!
     ルフィやゾロ相手の、ドロドロ恋模様じゃなくって、
     ナミとロビンたん達の仲良しレディ組に、ヘタレサンジ嫉妬!」
    クリアできてるかな、リク内容。つかもうへタレ過ぎて「誰コレ?」
    みたいな(泣)
    こんなのでよかったらもらってやってくださいませ、シャオにゃv
    お誕生日おめでとう! ございました!!

  PS タイトルのirrelevant jealousyは「お門違い」「嫉妬」という単語を
     並べたものだそうですよ(和英&英和辞書片手に調べまくり)
     何か「お門違いなジェラシー」って言いたいらしい。
     相変わらずセンス無いタイトルでごめんなさ……っ(泣)    」