美味しい紅茶を淹れるコツ。


使う茶器は、ポットからカップまで、熱い湯で温めておくこと。新鮮な汲みたての水を充分、
沸騰させた熱湯を使うこと。
茶葉をポットで蒸らすときはティーコジーなどで保温。
標準的な茶葉の使用量とカップ一杯分の熱湯の分量、蒸らし時間なんかは一応、具体的な
数字はあるが、あくまでそれは目安。少しの加減で驚く程変わっちまう、繊細な飲み物だ。
淹れるには、細心の注意が必要。
かといっておそれてばかりもいられねェ、それは全く必要ねェ。

それらを分かった上で、あとは自分次第。
扱い方は踏まえた上で、その紅茶の個性に合わせて、自分の舌で確かめながら。
美味みを最高に引き出した一杯を、淹れてやる。



―――そう、それは。まるでレディへの接し方と、驚くほど酷似している。





       <A Cup of Tea, for You>





「サンジ」

カチャリ。パタン。
そっと音を立てて回るドアノブ、静かに閉められる扉。
こんな真夜中に、彼女らしい気遣いでそっとラウンジに入ってくるちゃん。

「今日、本当に寒かったね。昨日まであんなにあったかかったのに、さすがグランドライン」

でも津波や嵐よりはずっといいわよね、なんて言いながら席につくちゃん。
本当に寒いんだろう、座った彼女はぶるっと、身震いした。

「そんなプリンセスに温まっていただくのに――― 今夜は、こちらをどうぞ」

本当は今すぐ抱きしめて、直接温めてさしあげてェ。
そうすりゃ今までここで、明日の朝メシの仕込みしててやっぱり冷えちまってる俺も
すぐに温まる事請け合いだしな。
…イヤ、こんな冷えちまったカラダで触れたら申し訳ねェか?
……イヤイヤ、ちゃん相手なら俺ァ、すぐ温まれるし。
………まあそれは、もう少し先までとっておいて。
先程まで手鍋で煮ていたチャイを、彼女の専用マグカップに入れて差し出した。

「んー、美味しいー、温まるー」

一口、飲んでぱあっと、綻ぶようにちゃんが笑ってくれた。

「やっぱり夜は、サンジのお茶飲んでからでなくっちゃ眠れないわ」

なんて、嬉しい事まで言ってくれる。

「でね、サンジ。今日はね……」

俺も、自分の分のチャイを淹れてちゃんの隣に座る。
すると彼女は、そのかわいらしい瞳をコチラに向けて、今日一日で起こった出来事・
思った事や感じた事なんかを話してくれる。

……最も、俺はずっと。暇さえあったら俺の意識はちゃんに向いてるから、
今日一日で彼女が体験した出来事なんかは、話聞く前にほぼ把握している。
それでも、毎晩俺をこうして訪ねてきてくれて、俺が淹れた紅茶を飲んで。
こうやって俺の目を見て、いろいろ話してくれるのが嬉しい。

それに、ちゃんに起こった出来事は把握していても、それを彼女がどう感じたか
までは。流石にそこまでは、な。
感受性豊かな彼女は、ときに俺なんかじゃ想像も及ばねェ事を感じていたり、考えて
いたりする。
それも交えて、ころころとよく変わる表情で話してくれるんだ。

その表情もまた、可愛らしくキラキラと輝いていたり、その深い色の瞳で意味深に
じっと見つめてきたり。
本当に魅力的で、可愛いちゃん。
彼女と過ごすこの時間は、もはや俺にとっては必要不可欠、一日のシメに絶対必要な
大切な時間だ。



“サンジ”

おかげで、細かい感情の動きはともかく(コレは後で聞けるお楽しみ、だ)、声をかけて
くれて、ラウンジに入ってきてくれるその様子や調子で。
今日一日がちゃんにとって、どんな一日だったかわかるようになっちまった。

嬉しいだろう日には、そんな気分を盛り上げるように、ドライフルーツや色とりどりの
フラワーの入った賑やかなフレーバーティーを。
お疲れな日には、癒し効果たっぷりのハーブをブレンドしたハーブティーを。
寒さが身にしみるような日には、身体を温める効果のあるジンジャーティーや
チャイなどを。いずれにせよミルクをたっぷり入れるのが効果的だ。
逆に夏島の海域に入っちまったりして暑かった日には、すっきりさっぱり、
アールグレイをアイスティーにして。
島に立ち寄った後には、その島で飲まれていたご当地のお茶なんかも
喜ばれたりする。
さて今日のちゃんは…… と思いながら茶葉を選んだり、素材とブレンド
したり、アレンジして淹れたりするのがすっかり楽しみになっちまった。





……けれど。
今夜は、特別な夜だから。
いいや、正確に言えばそれは明日。
明日は、俺とちゃんにとって、とても大切な、特別な日。
一年に一度、誰にでもあるはずのその日だが、俺とちゃん、
奇しくもそれは同じ日・明日だった。
その日を一緒に今夜、迎えることができるのは、俺にとって―――

そんなに夜ふさわしい、そんな時間にふさわしい一杯を、今日は殊更、
丁寧に淹れよう。






“サンジ”

やはり今夜も、ちゃんは来てくれた。
まず淹れたのは、以前に立ち寄った島で滞在中のときに買ったご当地茶で、
ちゃんもお気に入りの一品。
あ、これ…… と気がついたちゃんと、その島に滞在していた頃の
思い出話に花が咲いた。

ここまでは、いつもの夜だった。
けれど。

ちゃん」
「何?」

壁の時計をちらり、と確認。あァ、丁度いい時間だ。

「今夜は、実はもう1杯、用意したいお茶があるんだ。少し時間かかるけど、
 待っててもらえるかい?」

いいわ、と頷いてくれた彼女の隣からキッチンスペースへ。
そして準備にとりかかった。




「お待ちどうさま」

淹れ終わって、彼女の元にカップを運ぶ。
目の前のテーブルに置いた後、いつものように隣に座った。

「ありがとう。さっそく戴くね」

淹れたてで熱々なのは、立ち上る湯気からもわかるのだろう、まず可愛い唇を
尖らせてふーふー、と表面を吹いていた。
いつもならばそんなちゃんを見れば、心浮き立ち心拍数も跳ね上がるものだが、
流石に今日は。
……否、別の意味で俺の鼓動は今、波打ってるし緊張もしている。

今までで一番。
一番、知りたいと思った。
彼女の気持ちを。今、手にしているこの紅茶を、飲んだ彼女の気持ちを―――



……フッ。

「……いい香り。すごくいい香りね」

味わうようにゆっくり、ゆっくり二口、三口。

「―――このお茶…… 初めて、よね。由来、聞いてもいい?」

含むようにして飲んだちゃんが、フッ、と口元を綻ばせて聞いてきた。

「あァ」

紅茶を飲む時には伏せられていたその瞳がゆっくりとこちらに向けられた。

「これは…… 俺の、オリジナルブレンドの紅茶さ」

先程、話題に出ていたこの間の島。
航海に備えた食料調達の合間を縫って、ちゃんに気付かれないよう、
こっそり紅茶専門店に足を運んで、茶葉とハーブを自分で吟味して選び、
ブレンドした。
茶葉とハーブを選びながら、考えていたのはもちろん、ちゃんのこと。
ちゃんと過ごした今までと、そしてこれからのことを―――

「いい香りね。それにすごく美味しい」
「あァ。ベリー系の香りの茶葉に、赤と青の花を混ぜ込んで、見た目も香りも
 華やかに仕上げてみた」

赤い花は、ちゃんを。 青い花は、俺を。
それぞれイメージして、それをちゃんが好きなベリー系の紅茶で纏めて
ある。

「名を… “Ce Jour La”」
「“セ… ジューラ”?」

俺の発音を真似て繰り返すちゃんに、ゆっくり頷き返した。

「意味は、“特別な日”―――誕生日、おめでとう。ちゃん」

今日、この時のために用意したブレンドティー“Ce Jour La”。
貴女に捧げるために用意した、この紅茶。

「おめでとう。サンジ」

先越されちゃった、とおどけて笑う貴女の、何と可愛らしい事か。
そう、これは何と言う素敵な偶然か。



“えっ…… サンジ君も誕生日、3月2日なの!?”

まだ貴女が、俺たちの仲間になって間もない頃、俺もまだ、貴女から
こう呼ばれていた頃。
ふとした事から、貴女と俺は誕生日が同じ日である事を互いに知った。
さらに、貴女と俺は同い年。
つまり、貴女と俺は、全く同じ日にこの世に生を受けたのだということだ。

“すごい…… 素敵な偶然ね”

そう言って見せてくれた輝かんばかりの笑顔、俺は一生忘れない。



「壁の時計が午前0時を回った瞬間。
 ちょうどその時だったね、この紅茶淹れて、出してくれたの」
「ああ」

今日は、朝になって皆が起きてくれば、それはもうエライ騒ぎになるだろう。
何てったってクルー二人分の誕生日だ。
それはそれで、思い出深い良き日になることは間違いねェ。
でも、その前に。

「誕生日を迎えた瞬間。隣に貴女がいた。それだけで俺にとっては
 今日が“特別な日”になる」

すっ、と何気に。俺は、ちゃんの方に間合いを詰めてみた。

「ええ。私も。こうして無事に貴方と今日を迎えられた、それだけで
 私にとっても“特別な日”」

するとちゃんも。俺に身体を預けるように、寄り添ってくれた。

「“Ce Jour La”…… 気に入ってくれた?」
「ええ、とっても。ありがとう」

肩を抱く腕に、身を預けてくれるちゃんに。

「どういたしまして」

そう言ってそのこめかみに、頬に、鼻先に。
ありったけの想いを込めて、キスを贈った。

そして最後は、至近距離で見つめ合って。
ちゃんからか、俺からか…… どちらからともなく、唇に。



これからも毎晩、できる限り毎晩。
俺は、貴女を此処に迎えて、ティータイムを過ごすだろう。
そうしなきゃ、俺と貴女の一日は、終わらない。

その度に、俺は至高の一杯を。ちゃん、貴女のためだけに淹れよう。


A Cup of Tea,for dearest you.


                                         <fin.>



祝・32万HIT! しかもサイト3周年記念月、しかもサンジ誕生日記念月!
今回は逃してしまいましたが、何とか関わりたい数字でしたので、
お祝いの品でも。
と同時に遅くなりましたが、サイト3周年とサン誕祝いってことで!
ホントはシャオにゃの誕生日はまったく別の日ですが、サイトの誕生日を
ヒロインの誕生日に、とらせていただきました。

で、古にいただいていたリク。 (うおっ、もういつ戴いてたかなんて言えな…ッ)
“あのね、世界にたった一杯しかない、特別な紅茶を淹れて欲しいです。”
葉月サンジはまあ、彼なりにがんばったようです。
ってことで、貰ってやってください!!