「………」

                真夜中に一人、密かに降りたGM号。
                はそのまま満月の月明かりの下、歩いてくると其処で足を止めた。
                その場所で上を見上げたの表情がふっ、と緩む。
                そこには満月の月明かりの下、堂々と咲き誇っている桜の花々。
                凛々しくもあり、たおやかでもあるその姿に、しばらくの間見入っていた。



                    <桜下夜話>



                余りの見事さに、ほう… と息をつきながら、見入っていた。
                此処まで育つには何年かかるのだろう。
                見上げた視界一杯を覆う、淡い桜色。
                月の光を受け、淡く輝くかのような花々に見入って… 綺麗、と呟きかけたとき。

                ―――パキ…ッ

                背後からかすかに聞こえた、小枝を踏む音。
                まだそれなりの距離はあるが、誰かが近づく気配に、桜を見上げながらは、
                腰の短剣の柄を握った。

                「こんな夜中に、レディの一人歩きは危険ですよ―――さん」

                「……サンジくん」

                桜を眺めつつも背後に集中した、はりつめていた緊張がほっ、と抜ける。
                柄をぱっと離し、振り向いたがにこっ、と笑った。

                「桜をね、見に来たの」
                「こんな夜中に? お一人で?」
                
                の笑顔に、サンジも笑顔で答えながら、その傍に。
                
                「そ。お一人で」

                そんなサンジの真似をして、は同じ言葉で返してみた。
                そうして、上を見上げて。

                「こんなに立派な桜の木だもの。昼間見たときも、見事だったでしょ? だから夜もきっと。
                 この桜の夜の姿、夜桜も見たいって思ったの」

                それに今日、昼間。休ませてもらっちゃったしね―――







                「わー……」
                
                昨日上陸したこの島で、早速冒険に出かけたルフィ達が見つけた、という桜の樹。
                小高い丘の上、その周り一帯は広々とした野原。
                其処を見下ろすかの如く堂々と枝を四方に張った桜の樹、今が盛りの満開の花々は、
                今日の抜けるような青空にすごくよく映えて。

                「だろっ、な。スッゲー綺麗だろ」
                「ホントねぇ。すごい綺麗…」

                見つけた本人のルフィ達の案内で到着した桜の樹。
                上を見上げて、視界一杯に広がる薄ピンクの花々が本当に綺麗。
                ルフィが得意気に笑い、やはり桜を見上げたままのナミがそれに応えていた。

                「昼間もこんなに綺麗なんだもの、夜桜もさぞかし見事でしょうね…」

                続けても、そう言った。

                ルフィやウソップ、それに桜という花に特別に思い入れがあるらしいチョッパーが昨夜、
                すごく綺麗で立派な桜の樹を見つけた、だから明日はその桜の下で花見だ!!!
                と昨夜騒いでいたから。

                「どうぞ、お召し上がりくださいお姫様方。野郎共、食え!!!
                 俺様特製、花見弁当だ!!!」

                朝食後からキッチンにこもりっきりで、サンジが作っていた花見弁当。
                桜の樹の下に敷いたシートの上に広げられたいくつもの重箱、それをみんなで
                囲んでわいわいと。
                ちらし寿司をはじめ、鳥の唐揚、根野菜の煮物、サラダ、厚焼き玉子、他いろいろ
                入ってる弁当から各自好きなものを取り分けて食べて。
                一緒に供された蛤の澄まし汁は、その場で仕上げられた出来立てで、味は格別だった。
                
                「はい、サンジくん」

                簡易コンロの火を止めて、みんなのところに戻ってきたサンジに、一通り弁当を取り分けて
                おいた皿と箸を差し出すと。

                「ありがとう〜、さんv 貴女はなんて優しいレディなんだ、わざわざ俺のぶんを?
                 ホント嬉しいなァ、味わって食べるね〜v」

                ハート目になりながらから皿を受け取り喜ぶサンジに、そのとにかくの笑顔に
                も素直に、嬉しくなる。

                「味わって食べるって、自分で作ったのにねぇ」

                そんな声に振り向けば、それは隣のナミからで。

                「ふうん… ったら、何で二皿も確保してお弁当取り分けてるのかと思ったら、
                 そういうことだったのね」

                ナミが何だか、面白そうにそう言って一口大に切った厚焼き玉子をぱくっ、と口に
                放り込んだ。

                「ナ、ナミったら…… だって取っておかないとサンジくんの分、なくなっちゃうでしょ?
                 ルフィたちに全部食べられちゃって」

                “サンジ〜……”  “んだよクソゴム、何見てやがる。これはやらねェぞ、わざわざ
                 さんが俺の為に取り分けてくださったんだからな”  “でも肉が”
                “最初に唐揚ばっかり食うからだろ。あとは煮物で我慢しろ。とにかくこれはやらねェ”

                向こうでルフィとそう言い合い、とにかく先に、と唐揚を口に放り込むサンジ。
                そんなサンジにくすっ、と笑みを零したら、またナミにネタを提供することになりそうだけど。
                いや、もうすでに先程ナミにかけられた言葉に返す自分の言い訳と、そのときの表情が、
                充分ネタになってしまったかしら?
                
                “おいコック、酒は?” “あるか、んなもん。昼間っから飲む気か? つか今日の昼くらい
                 禁酒しろ。かわりにコレ、やるから” “お前… こんなもんまで持って来させてたのか。
                 どうりで荷物かさばるはずだ”
                
                花見弁当は最後のお茶とお茶請けまで。
                お茶請けはピンクと白と緑、3色の花見だんごと、桜餅。やはり花見なので、これは
                欠かせない。
                今回、自分以外にも荷物持ちがいるということで、簡易コンロや鍋だけでなく、やかんや
                急須、各個人愛用の湯呑みまで、サンジは荷物に積み込んでいた。
                やっぱりこれも、最後までみんなでわいわい賑やかに戴いて。
                『花より花見弁当』そんな言葉はないけれど、『花より団子』そんな感じで食べて、騒いだら。

                “んじゃちょっと行って来る!ウソップ、チョッパー、昨日の続きだ!” ““おう!!””
                “じゃ私も。 ここに来る途中に見かけた石碑が気になるのよね…” 
                “さ、それじゃ私も。この島いいサンプルになりそう、久々に測量して、地形図描いてみるわ。
                 ゾロ、荷物持ちと手伝い、お願い” “何で俺が” “いーじゃない、ヒマなんでしょう?
                 今だって昼寝するところだったじゃない。手伝ってくれたら借金、その分引いとくから”

                そんなこんなで、いつのまにか三人、一人、二人の順で抜けていき、気がついたら
                サンジと、二人だけの状態に。
                とりあえず広げっぱなしの重箱やら取り皿やら、箸、コップ、湯呑みを持って帰れるように
                まとめて片付けて場所を空けたら、結構広い場所だったんだな、と気がついた。

                「さん、お疲れさま。悪かったね、片付け付き合わせちまって…… でもホント、
                 助かったよありがとう。
                 本当に優しいレディだなぁ、貴女は。んー、ルフィの奴、本当にいいレディを勧誘して
                 くれたもんだ」
                「もう、サンジくんたら… そんな大した事してないってば」

                がくすくす笑いながら、サンジが差し出した湯呑みを受け取る。
                受け取ってありがとう、と言って口に運んだら。

                「あ、これ」

                湯呑みから伝わる、ほわんとした温かみと共に届くのは、ほのかな桜の香り。

                「緑茶だけど、さっきのお茶と違う…… 桜の香りがする……」
                
                がそう言ったら、待ってました、と言わんばかりにサンジが。
 
                「さっすがさん、気がついた? そう、さっきのは普通の緑茶だけど、これは
                 桜の葉をたっぷりブレンドしてあるんだ。いわゆる緑茶のフレーバーティー。
                 こういうの、嫌いかい?」
                「ううん。意外な感じがするけど、結構美味しいのね」

                そう言って、一口ちびり、と。
                目を細めて、味わうように飲んでみるを見つめるサンジの目も、優しく細められていた。

                「あとね、さん。こういうのも、あるんだけど」

                サンジがその言葉と共に、に差し出したもの。

                「大福餅?」
                「そ。花見団子の生地と桜餅のあんこでちょこっと…… 別個に作っておいたんだ。
                 好きだって言ってたよね?」
                「サンジくん…… 憶えててくれたの? ありがとう、嬉しい。いいの? やったぁv」
                「いいの、いいの。さんの分しかないから。俺こそよかったよ。渡せなかったら
                 船戻ってからだな、って思いながら持ってきたけど、ちゃんと渡せたし、何より
                 そんなに喜んでくれたら。貴女の嬉しそうなお顔が見られたら、それだけで最高さ」

                にこにこと笑いながらそう言うサンジの前で、ぱくっと大福に噛み付く
                その笑顔の下に、あー、やっぱかわいいなァ、さん、なんて思っているのを
                隠している事に、この時点で彼女は気付いていなかった。
                サンジがくれた大福を“美味しいね”と言いながらぱくつき、桜の香りのお茶をすすり。 
                “おかわり、いる?”と言うサンジに、二杯目のお茶を淹れてもらい。
                
                「平和だねぇー……」

                ふう、と息をついて、そう呟く。
                広げたシートの上に、楽に座って。手にはお茶が入った湯呑み、頭上には青い空に満開の桜。
                ぽかぽかと差す日の光も、この満開の桜に遮られ、柔らかい光に。
                こうしていると、普段は海の上で船に揺られながら、海賊として生活しているなんて嘘の様。
                のどかな今のこの空間、隣には……



                「さん」

                囁くように、サンジが彼女の名を呼ぶ。
                けれども、返事の変わりに聞こえてきたのは。
                くーくー、と小さな寝息。
                
                そりゃこんなに平穏でのどかな空気の中じゃ、眠たくもなるか。あったけェしな。

                自分の肩にちょこ、と頭を預け、眠るの手から空の湯呑みをそっと取ると。
                サンジはしばしの間、姫の眠りを護るナイトよろしく、午後のひと時を過ごした。








                「昼間は、ありがとうね。いつの間にか寝ちゃってて…」
                「いやいや、そんな。確かに眠くなるだろうなァ、あの状況じゃ」

                サンジはそう言って、カップを差し出す。
                昼間よりは小さいレジャーシートに、昼間よろしく並んで座って。

                「ホントはね。サンジくんも誘おうかと思ったの。夜桜見物。でも言ってなかったし
                 どうしようかな、って。
                 そりゃラウンジの明かりはついてたけど、でもついてるってことはサンジくん、
                 まだ起きてて何かやってるんだろうから、邪魔しちゃ悪いかな、って」
                「ああ。でもちょうど作業終わって、一息ついたらさ。窓から、さんがメリー号
                 降りるトコが見えたんだ」
                「本当に?」
                「本当、本当。どこ行くんだろう、って思ったけど、そういや昼間、夜桜がどうとか、
                 言ってたなって思って。
                 急いで荷物詰めて、ここに向かったんだ」

                カップからふわりと広がるこの香りはお馴染みのダージリン。
                ここでもお馴染みの、大好きなお茶が飲めることに感激していた。

                「そしたら案の定、さんここに来てて。よかった、俺のカン外れてなくて」

                そのサンジの言葉を聞きながら、嬉しそうにはダージリンに口づけて、
                味わっていた、その時。

                「―――いや、違うな。カンじゃねェ。確信、だ」

                不意に聞こえたその言葉に、が顔を上げた。
                すると、唇は引き結んだまま、だけど穏やかに、優しそうな色を讃えた瞳で、真っ直ぐに。
                此方を見ているサンジと眼が合った。

                ―――ドキッ。不意に胸が高鳴った。 “その言葉、どういう意味?”

                「それで、俺がキッチンでこんな時間まで何をしていたかというと」

                と眼が合った途端、にこっ、と笑ったサンジが取り出したもの。
               
                「これ、作ってたんだ」

                黒塗りの小さな皿に、ぱっと咲いた桜の花。小振りのそれが3つ程、ちょこんと乗っている。
                其処にそっと添えられているのは、緑の葉っぱ。
          
                「え、これ…… サンジくんが作ったの?」
                「そ。花はこの桜をイメージで、まあ普通花と葉っぱが同じ時期に樹につくことァねェけど、
                 まァそこは彩りってことで」

                昼間の花見の、“日常のおやつ”とは違って、“ちょっとよそ行き”風の。
                ピンクと緑のねりきりで作られた、今が盛りと咲き誇る桜の花とこれから訪れる
                新緑の季節の緑の葉。
               
                「夜のお花見は、そのダージリンと桜のねりきりを。紅茶と和菓子、ってのもなかなか
                 イケるぜ?」
                「すごーい…… 本当にサンジくん、何でもできるのね。普通にコックさんってだけで
                 なくって、こういうのも作れちゃう菓子職人でもあるわけね。 ホントにきれい…… 
                 っていうか、かわいいわ、このお花。
                 食べちゃうのもったいないかも」

                そう言って綻ぶように笑うこそ、まさに花のようだ、と思ったサンジは、

                「いやいやそれは。この花は、きれい・かわいい、だけじゃなくて。美味い、ってのが
                 最大の特徴なんだぜ? しかもさんにだけ、食べてもらえるように咲いた花さ。
                 さらに今ならこの花には」

                ねりきりの皿を傍らに置くと。
                
                「もれなく、この俺・サンジが付いてきます」

                胸に手を当ててすっ、と頭を下げて一礼すると、サンジがそう言った。

                「いかがでしょう、姫。桜とともに、このサンジも味見してみては?」

                顔を上げたサンジは、じっとを見つめる。
                その真っ直ぐな、熱を帯びたような、真摯な、それでいて優しい海のような色の瞳は。
                出逢ってから今までのサンジで、見たことがなかった。
                否、違う。違う……  見たことが、ある。 知っている。
                ふと気付くと、自分に向けられていた瞳。
                今までは気付いて見返すと同時に逸らされ、あるいは “さ〜んv” と
                崩れんばかりの笑顔、もしくはカシスピンクのハートに隠された、あの瞳だ。
                今、その瞳に見つめられている。
                そう思ったらひどく優しく、温かい想いが、を支配した。
                
                「……ええ、いいわね。味見、してみようかしら」
                「さ…」
                「ただし」

                歓喜の色が広がりかけたサンジの顔が、その後続いた接続詞にぴたり、と止まった。

                「その桜、結構な付加価値があるみたいね。それを確かめてからにしたいんだけれど」
                「……どうぞ、なんなりと。何かご質問でも?」
                「そうね。さっきの言葉について」
                「さっきの言葉?」
                「ええ」

                “―――いや、違うな。カンじゃねェ。確信、だ”

                「―――ああ。言葉のまんま、だな」
                「言葉のまま?」
                「そ。昼間、さんがこの桜の木の下で、 “夜桜もさぞかし見事だろう” って
                 ため息ついてたから。
                 だから、こんな夜更けに外出なんて、絶対此処だって思った」
                「もし違ってたら?」
                「イヤ? そんなことはないって思うけどな。だって俺は、出逢った日からずっと
                 さんを見てきたから。って言っても、そりゃさんが生まれた時から
                 今までに比べたら何分の一かなんだろうけど……
                 でも、その『何分の一』かの時間は、俺は貴女を見つめてきたんだ」
                
                それでももし違ってたら、貴女を見つけるまで一晩中でもこの島中でも、捜し続けただろうな。
                そう言ってサンジは微笑った。

                「それでももし…… 例えばすれ違いとかで、逢えなかったら?」
                「いや」

                微笑うのをやめた瞳が真剣な眼差しに変わって、を見つめた。

                「それはねェよ。貴女が何処にいても、何をしていても、俺は絶対に貴女を探し出して、
                 貴女の元に辿り着いてみせるから、さ」
                「凄い自信ね―――その根拠はどこから来るの?」
                「そりゃもちろん―――愛故に」



                「―――桜。いただこうかしら。サンジくん」



                それを聞いて、にこり、と笑ったが言った。

                「もちろん、それを作ってくれた菓子職人さんごと、ね」 
                「ええ、お忘れなく。むしろそっちのが重要です」

                かわいい桜の皿を差し出すのと、目の前のかわいい唇にkissを捧げるのと。
                あまい桜の皿を受け取るのと、それに負けないくらいあまいkissを受けるのと。

                どっちが先?

                答えは、今年も其処に堂々と咲き誇る桜が知っている。

                                                              <fin.>




                  ようやく上がりました! 「バニラの花の砂糖漬け」シャオ様に捧げます。
                  捧げる名目… あったんだけどもう言えな……(震・泣)
                  そう! 日頃から遊んでもらってるから、そのお礼!
                  『和菓子!』 『サンたまに世話焼かれるのがスキです』 『サンたまには
                   世話焼いて甘やかしてほすーーーーーっ』 というのがリクでしたが。
                  ちゃんとクリアしてますでしょうか。 世話……焼いたかなあ、葉月サンジ(汗)。
                  こんなのでよろしければ、どうぞ持っていってください。

                  これからもサンジ狂同盟・同盟志士として。大いに萌えてゆきましょう。
                  宜しくお願いします。
                  あと最後に。タイトルのネーミングセンスがオヤビン並なあちしをゆるちてください……