「うわあ…綺麗な月」

      ロビンに借りた本を、机に着いて夜遅くまで読んでいただったが、さすがに。
      ふと気がつくと真夜中もいい時間、ナミもロビンも、もうとっくに眠っている。
      そろそろ自分も…  は、物音を立てないように注意して部屋を出た。
      ちょっと気分転換に外の空気を吸って、部屋に戻ったら、寝るつもりだった。
      キッチンの明かりさえ、ついていなかったら……



      <Bacchus gift>



      「……まだ、起きてるの?サンジくん」
      「さん…… ……どうしました、こんな真夜中に? ひょっとして、眠れませんか?」

      こんこん、と小さくノックして。驚かさないようにそっとドアを開けて、声をかけたつもりだったけど。
      下を向いて、何やら作業していたらしいサンジは、突然ドアが開き声をかけられたのにばっ、
      と勢いよく顔を上げた。
      それを見て、がにこり、と笑う。
      ―――驚かしちゃったかな。私の名前呼ぶとき、声上擦ってた。でもその後、無理矢理いつもの
       声に戻してる。
       そういうトコ、カワイイのよね。サンジくん。
      
      「ちょっとね、ロビンから借りた本読んでたら夢中になっちゃってね。もう真夜中もいい時間だし…… 
       寝る前に外の空気吸ってこよ、て思ったらココの明かりついてるみたいだったから… 来ちゃった」
      
      はそう言って、ラウンジのテーブル、自分の指定席につく。
      キッチンに一番近いところはサンジ、その隣の位置。
      
      「それはそれは、嬉しい事を。わざわざ会いに来ていただけるなんて光栄です。
       もうそろそろ終わるから寝ようか、って思ってた、そんな一日の終わりにさんと過ごせる
       なんてツイてるなァ、俺は」
      「私もね。毎晩遅くまで起きてて、今日の片付けとか明日の仕込とか、してるのは知っていたけれど、
       いつまで起きてるのかは知らなかったから。
       今日はロビンから借りた本が面白かったから、私も起きてたけど…… 大変ね、いつもいつも」
      「いえいえそんな。さんに毎日の食事を美味しく召し上がっていただくためなら。
       大変なことなど、一つもありませんよ。むしろ嬉しいくらいだ」

      サンジはそう言って自分も席に座り、テーブルの上のの手に、自分のそれを重ねる。
      そうしてを見つめて、にこりと笑った。が、

      「あ、すみません、俺としたことが… 読書お疲れさま。今お茶でもお煎れしますよ。ゆっくりして、
       リラックスしてください」

      そう言って席を立つ。その時、きゅ、と1回強く握られてから離されたのに、は気づいていた。
      
      やかんを火にかけ、茶葉やポットを用意するサンジの背中を見つめながら。
      ――そうね…
      とは一つ、思案事。

      ルックスは○。最初はあの眉毛も顎鬚もどうなのよ? と思ったけれど、なかなか似合ってるじゃない?
      あんな眉も、顎鬚も、似合う男はそうそういないわね。しかも、それが整った顔立ちによく映える。
      長い前髪から透かした横顔見れば一目瞭然。鼻先から唇、顎、首筋に至るまでの線が、ほぼ完璧で、
      すごくバランスがいいの。あんな眉毛でも顎鬚でも、似合う美形は、そうそういないわよ。
      スタイルもOK。自分の体型とスタンスをよくわかってる。そうでなきゃスーツを普段着にはしないわよね、
      あの歳で。ちゃんとオーダーメイドだそうだから、身体の動きによくフィットして、あんな蹴り技使う戦闘時
      にも邪魔じゃないみたい。
      煙草を吸う仕草も様になってるわ。
      そしてその腕も、経歴も、実力も。海の一流料理人だ、というのは伊達じゃない。それは毎日、毎食
      味わってるもの。
      その味は食べ慣れたら、他のコックやシェフの料理では物足りなくなるくらい。現に、私はそうだもの。
      ただ、海賊が一人の料理人の料理しか食べられなくなる、ってのはマズいと思うけどね。
      でも、それ位確かな腕と、そしてその腕にふさわしい、誇り―プライドをしっかり持ってる。
      これ、大事よね。
      私だって、海賊だけれど、踊り子としての、ダンサーとしての誇りは、プライドはある。そして自分の踊りは、
      それに相応しいものだと自負してるわ。その点は、彼も同じ。
      彼は、海賊で料理人なのよ。
      それでも、ただの料理人ってわけでもなく。
      社交性、特に異性に対して。
      女の人を、不快にさせない術を心得ている。というか、喜ばす術かな。
      最初はただ軟派なだけ? とも思ったけれど、なかなかどうして。ちょっと耳を傾けて聞いてみれば、
      心地いいじゃない。
      ときどき歯が浮くようなことも言うけれど、結構。言われて気分悪くなるような物じゃないしね。むしろその逆?
      ちゃんと、私みたいな年上の女でも口の利き方も聞く態度もなっていて、飽きさせない、呆れさせない。
      この船に乗る前は、海の上の一流レストランにいたっていうだけあって、マナーも、エスコートも完璧。
      上陸してどこかに行くときも、安心して一緒に行けるのよね。
      カジノで一発稼ぐときの私やナミ、ロビンの護衛・パートナー役にぴったり。
      なんて、時には呆れることもあるけどね。少なからず好みのタイプっているでしょうに、関わった女の人
      ほとんど全員にそんな態度。
      傍にいる女、すれ違った女全員に、呆れる程に同じ態度。
      誰が相手でも、一緒。
      ナミも、ビビも、ロビンも、コニスも。みんな好き、みんな愛してる。
      他の女も、それのついでみたく、私も。
      変わりなく、満遍なく。愛を振りまく、貴方。
      ………貴方、本命っているの?
      
      「お待たせしました。どうぞお召し上がりください」

      ……私にだけの、態度じゃないのよね。これも。
       そう思うと、少し寂しくなるのは、悲しくなるのは、気のせいかしら?

      「あと、もしお腹も減っていたら。この時間まで起きていたら流石に、ね。実は今夜、この時間までここに
       俺がいたのは、コレ作ってたからなんですよ」

      ていうか、そんなことを気にする私って…

      「さん?」
      「…あ、ええ。ありがとう、いただくわ」

      サンジの声に、はっとが顔を上げる。
      目の前には豊かな香りが鼻先をくすぐる、あったかそうなミルクティーとドライフルーツがたくさん入った
      パウンドケーキが一切れ。

      「ホントはそのケーキ、時間置いた方が味が馴染んでより美味くなるから、今晩中に焼いて明日の
       おやつに出すつもりだったんですけど… 味見程度に、食べてもらおうかと。いかがです?」

      フォークでさくっ、と一口大に切り、ケーキを口に運ぶ。続いて、ミルクティーを一口。
      そんなを、サンジも目を細めて、優しく見守る。

      「美味しい」

      ふっ、と顔を綻ばせる

      「美味しいわ、サンジくん。いい香りだし… って、この香り?」
      「えっ、ああ。ラムですよ。ラム酒漬けのドライフルーツのケーキと、ミルクティーにもちょこっと、ね。
       ラム酒入れました。身体、温まりますしリラックス、できますよ」

      サンジはそう言う、のだが…
      ちらっ、とケーキとミルクティーを見たは。

      ……大丈夫、よね。メインはミルクティーとケーキであって、ラム酒じゃないはずだし…… 
       ちょこっと、入ってるくらいなら…… それに私がリラックスできるように、ってせっかく用意して
       くれたんだし…

      「……そう、いい香りね。ありがとう」

      にこっ、と微笑いサンジと目を合わせたは、続きを食べ始めた。




      のラウンジ・テーブルの指定席は、キッチンに一番近いところの、サンジの隣。
      二人、いつもの定位置について、並んで座って。他愛無い話をしながら、ケーキとミルクティーは減っていく。
 
      「……ご馳走様〜。美味しかった〜」

      ふふっ、と上機嫌に微笑しながら、が言う。
      
      「お粗末さまでした」

      サンジがそう言って、皿を下げる。ティーカップには、美味しいからもう一杯飲みたい、と言う
      おかわりのラム・ミルクティーを淹れたのがまだ、残っていた。
      こちらに背を向けて、残りのケーキをしまったり、洗い物をしたり、のサンジの背中を見つめながら、
      は残りのミルクティーを一口ずつ、飲んでいく。

      「……ね、サンジくん」

      しばらくそうしていたけれど。やがて、が声をかける。
      
      「はい。何ですか、さん」
      「……私の席、何でここにしたか、わかる?」
      「はい?」
      「ここ。貴方の隣」

      サンジが振り向く。は丁度、二杯目のラム・ミルクティーを飲み終わったところだった。

      「何でって… 俺がキッチンに一番近いところってのは当然として、あとはクジ引きで決めたって…」
      「あー、あれね。あのクジね……」

      こっちに戻ってきて、元通りに座ったサンジに目線を合わせて、が言った。

      「ホントはね。この席、引き当てたのナミだったの」
      「えっ……」
      「でもね。ナミが、替わってくれるって」
      「……」

      そうが言った後、サンジを見つめる、が……
      当のサンジも黙ったままを見つめていた。

      「……今、がっかりしたでしょう」
      「えっ」
      「ホントはナミさんが隣だったのかー、て。それなのにー、て」

      くすくす、と笑いながらが言った。

      「いや、そんなことないですよ、俺は…」

      慌てた様子で、サンジが否定にかかる。しかし、

      「いーのよ、無理しないで。ごめんねぇ、ナミじゃなくて私みたいなのが隣来ちゃってー……」

      くすくすくすくす、と相変わらず笑いながら。
      テーブルに肘をついて、手で顔を覆いながら、が言う。

      ――何なんださん、どうして急にそんなことを? 喋り方もいつもと何となく違うし……
       ……まさか。

      「……さん。ひょっとして、酔ってます?」
      「べーつーにー。酔ってなんか、ないわよぅ」

      はそう言ったが。でも喋り方なども、何かおかしい。いつものじゃない。
      そういえば……、そういえば、は。
      初めて彼女がこの船に乗ることになったときの歓迎の宴のときから。
      常にこの船の宴の時には、アルコールが苦手だからと最初からジュースやウーロン茶を頼まれて
      いて、サンジは彼女の分は最初から、ソフトドリンクを用意していた。
      それは知ってはいたものの……  一応、香り付け目的。あくまで主役はミルクティー。
      そのつもりでほんの少ししか、ラム酒は入れてなかった。
      ケーキにしたってラム酒付けのドライフルーツを焼きこんではいるものの、そうきついものではないし、
      ほんの味見程度の一切れのみ。普通ならば酔うような量ではないはずなのだが…
      でも目の前のは、明らかに酔ってしまっている。

      「それよりさぁ。明日から、ナミと席替わろうか?」 
      「……さん。ホントに酔ってますね。部屋まで送りますから、しっかりしてください」

      サンジが立ち上がって、そっとの腕を取り、立たせようとする。
      しかしは、座ったままその手を振り解いた。

      「んーん、大丈夫よぅ。 それよりも席、明日からナミと替わるね。その方がサンジくんも嬉しいでしょう? 
       私みたいな年上女よりはぁ。ナミみたいな、若いカワイイコの方が好きだろうし、釣り合う……」
      「……いい加減にしてください、さん! 怒りますよ、いくら俺でも!」

      サンジが言った、ややきつい口調に、がびくり、と肩を竦ませる。

      「すみません。でも聞いてらんなかったんで、つい… 俺の我が儘だとは思いますけど…」

      元のように座ったサンジが、テーブルの上に出しっぱなしだった煙草と灰皿を、手を伸ばして取って。
      箱から一本、取り出すと、火を点けて。
      紫煙が彼女にかからないよう、明後日の方を向いて―――そうすることで、彼女から視線を外して。

      「いくら酔ってるからって、さんからそんな話、聞きたくなかった」
      「だから、酔ってないって。席のことは、ちゃんと…」
      「酔ってるだろ!だからそんなこと言うんだ!」

      再び声を荒げたサンジに。は黙ってサンジを見る。

      「さん」

      サンジは、煙草を灰皿に押し付けると。正面から、彼女を見た。

      「俺が言ってるのは、席のことじゃあない。そりゃ席のこともあるけど、それは置いといて。
       いつもの、普段の貴女は。ちょっとやそっとのことじゃ動じることはなくて、しっかりしていて。
       凛とした、落ち着きがあって。
       自分に対して誇りを持ってる―― いい意味で、プライドの高い女(ひと)だ」

      「普段なら、決して。今の話みてェな形だとしても―― 謙遜することはあっても、自分を貶めるような
       言い方は、決してしねェ女(ひと)だ」

      真正面から、を見据えて、そう言うサンジ。 
      
      「そんなさんが、俺の隣で。俺の料理を、食べてくれて美味しいって言ってくれると、
       俺の料理の腕も上がった気がして。さんが美味しいって言ってくれることで、俺も料理人としての
       誇りをもって、俺の料理はそれにふさわしいものだと思って、毎食作ることができるんだ」

      「だから、さんにはここで。俺の隣で、俺の料理は美味いと…… 言ってもらわなきゃ、困るんだ。
       もちろん、そう言ってもらえるだけの努力はするけど」
      「………」

      その大きな瞳でサンジを見返して、黙って聞いていただったが。

      「……サンジくん。頭、痛い」

      ふら〜、と突然サンジの方に倒れこんできて、そう言った。

      「だ、大丈夫ですか、さん?」
      「んーん、だめ〜。動くと響く、しばらくこうしてて?」

      突然のことだったので受け止める姿勢になかったサンジが、を支えながら体勢を直して
      彼女を抱え込み、痛いと言っていた頭―― の額に手を添える。

      「サンジくんの手…気持ちいいねぇ。冷たくて」

      がうっとりとした表情で言った。

      「そうね。確かに酔ってる。今。昔からアルコール苦手で、最近は全く飲んでなかったけど……
       だから、弱いことは弱い、だめなことはだめだと思ってたけど、まさかここまでだったとは……
       自分でもびっくりよ」

      そう言って、が微笑った。……先程のくすくす笑いとは違う笑顔に、サンジが見惚れる。

      「サンジくん。自信もっていいよ。いつでも。サンジくんの料理は本当に美味しい。私は、好きだな。
       サンジくんの料理。それと、料理人としてのこだわり。料理人としてのプライド。
       それを持ち続けている、サンジくんが」
      「さん…」
      「そのために、私がここに座って。サンジくんを褒めるのが必要なら。やっぱり明日からも、
       私が座ろうかな」
      「ええ、ぜひ。お願いします」
      「それともやっぱり、ナミやロビンがいい?」
      
      なっ、また…… そう思ってサンジが、を見ると。
      ふふっ、と微笑しながら言っているので。
      あーあ、からかわれたな、と思う。

      「またそんないじわる言う。人が悪いですよ、さん」
      「あら、サンジくんが普段、そんな態度だからでしょう。
       女には、誰にも平等。みーんな好き。みーんな愛してる。ナミも、ロビンも、私も。
       だったら誰でもいいんじゃなくて?」
      「そんなことないですよ。さっきの俺の話、聞いてなかったんですか。さんがいいんです。
       さんじゃなきゃだめなんです。いい加減、わかってくださいよ」
      「でもねぇ、普段のサンジくんからじゃ、ぜんぜんわかんないんですけどー」
      「だって…… さんみたいな大人の女は、俺みてェなガキには本気にならないでしょ。
       玉砕したら立ち直れないし。
       だったら現状維持のままで、って思ってたんだけどな。もう今更、ですかねェ…」

      少し拗ねたように、サンジがそう言ってため息をつく。

      「そうそう、今更よ〜」

      ふふっ、と笑ってが言う。

      「……さん。好きです。これからも隣に…… ここに、いてください」

      そう言って、を抱き寄せた腕を、今一度ぎゅっ、と引き寄せる。

      「………」
      「……さん? さんは? 俺のこと…」
      「あら。私はとっくに言ったじゃない。好きだな、って…」
     
      私こそ。
      サンジくんは、私みたいな年上女はリップサービス専門で、本気になんかなってくれないと
      思ってたんだけど…
      同じだったのね、私達。

      「ね、サンジくん。ひとつ、いいこと教えてあげようか」
      「はい?」
      「この席ね…… ナミが引き当てたのはホントなんだけど。ナミが替わってくれるって言ったんじゃないの。
       私が替わってくれって頼んだのよ」

      サンジくんの傍に、いたかったから。

      そう言ったさんは、こんな風に酔ったりなんかしなかったら言わなかったのになー、と言いながら
      目を閉じて眠ってしまった。
      でも、こんな風に酔ったから言えたのかも、ならたまに酔ってみるのもいいかな、この頭痛は勘弁だけど、
      とも言っていたけれど。
      でも、こんな風に酔うのは。俺の隣だけに、してくれよ?
      それと。

      「起きてから。あれは酔ってたから覚えてない、とか。忘れた、とか。そういうのもナシですよ」

      そう囁いてから、サンジは。腕の中で眠るの額に、そっとキスを贈った。


                                                                <Fin.>



      お疲れさまでした!……無駄に長いですね、すみません。
      “バニラの花の砂糖漬け”シャオ様へ捧げます。
      先日(って言えるほど最近じゃないよ・汗)いただいた“darling darling…”がとても素晴らしく、
      感動し、嬉しかったので(誕生日祝い夢だったのですが、今まで貰ったどの誕生日プレゼントよりも
      嬉しかったですv ありがとうございましたv)
      つい、“御礼夢、いる?”と、自分の力量も省みず、メールしてしまったのが始まり。
      結果、こんな駄文を押し付ける破目に(焦) しかもむちゃくちゃ待たせた挙句(汗) さらに無駄長いし(滝汗)
      本当にすみません。
      リクの “お酒に激弱なヒロイン” “相手はサンジ” “介抱されたい” “おでこに手を当ててもらう”は
      そつなくこなし……
      え、介抱?……して…ない…かも…(シ〜ン…)
      
      一応、こんなの出来ましたが、もしよろしかったら、もらってやってくださいな。
      これからも末永く、仲良くしてやってくださると嬉しいです。
      大好き、シャオにゃv(ぎゅっ)