「おめでとうございますー、一等ですー!」
盛大な拍手と歓声、そして鐘の音。
その中に佇む、サンジと。
「一等・豪華温泉旅行、一泊二日二名様ご招待です!」
グランドラインの、とある島に滞在中のゴーイングメリー号。
ログが溜まるまではあと5日、なのでまだ慌てて出港準備する必要もなく。
サンジとは、出発の前日になる4日後にメリー号に食料を運んでもらう手筈を街の市場で
整えた。
そして島に滞在中、外出・外泊の予定の都合で帰ってくるクルーはいたけれど、サンジとは
基本的に残って船番。
今夜はウソップとチョッパーがいるからだからダメだけれど、明日は全員いなくなるので、明日こそは
二人で、甘い夜をすごそうねv なんて約束もしつつ、滞在中の食事の分の食料は別に買ったらば。
丁度今、福引をやってるとかで券をもらい、がそれを引いたところ、見事、温泉旅行を引き当てた、
というわけだった。
「…当然のことながら、この島の温泉地だよな? で、一泊二日。ログが溜まるのは5日後、メリー号に
食材が届くのは4日後。今回、治安よさそうな島だし、故に海軍もそんなに見回りには来ないらしい
から、特に気合入れての船番は必要なし、まあ一応いるだけでいいってナミさん言ってたし」
帆は畳んで、海賊旗も下ろして一目でメリーが海賊船だってわかんねェようにしてあるし。
今夜は船番は、ウソップとチョッパーがいるけど、明日は誰もいねェから俺たちがいなきゃ
なんねェし……
「……行くか? これから」
一泊二日二名様だから。もちろん、俺と。二人だけの秘密で、な?
にっ、と微笑って招待券を指差すサンジに、が笑顔で頷いた。
<ある山間の温泉地、二人きりで>
「ふう……」
広々とした大浴場の湯船で、は手足を伸ばして浸かって、息をつく。
“ご予約のサンジ様とお連れ様ですね。ようこそお越しくださいました”
あの後二人がやってきたのは港からは離れた山間の温泉地の、老舗旅館ともいえる
立派な佇まいの温泉宿。
通された部屋は六畳の畳の部屋が二間、仕切られた襖を開け放った形の広い上品な部屋。
手前の間には重厚な雰囲気の広い机にお茶のセット。
奥の間には床の間、旅館の上品な雰囲気を表しているような生花と掛け軸。
障子と襖の窓の外にはちょっとした日本庭園を模した中庭、あまり広いとは言いがたいが、
隣の部屋とも外とも、仕切られて独立した空間を保っている。
“へえ、結構いいトコだな”
窓際まで行って中庭を見ていたら、サンジが隣にきた。
“そうね。お部屋も広くて、いい感じだし”
“ああ。おまけに、アレ”
サンジがの肩を抱いて、右端の奥を見るように促す。
“え、アレ…”
“ああ。そこからこの部屋の中庭に出られるみてェだが。そこ伝って行けるみてェだな”
そこに見えるアレ、とは。
玉砂利が敷き詰められた中庭に渡された木の廊下、その先には湯気の上がっている露天の岩風呂。
一応部屋からは手前に唐松が植わっていてはっきりとは見えないようにしてあるが、それでもわかる。
手前には仕切りに囲まれた空間、どうやらそこが脱衣所でここからはよく見えないけれど、洗い場も
あるようだ。
“……ここが隣や外と、しっかり区切られてるのって、そういうわけね……”
“じゃねェの。で、どうする?”
“え?”
“入る? 早速vv”
―――もう、サンジったら。
ぱしゃん、と湯をすくって顔にかけて。
振り返ったらカシスピンクのハートの目に、煙草の煙もハート型で迫ってくるサンジをかわすのは、
ちょっと大変だった。
“っ、あたしやっぱり先に大浴場の方に行くね。大きいお風呂で手足伸ばして入るの久しぶりで
すごい楽しみー”
“あっ、”
“な、何!?”
“レディ用はこっちだぜ? それじゃ大きいだろ?”
多分赤くなった顔を伏せつつ、サンジの腕から抜け出して、目に付いた浴衣とタオルをぱっと取って
部屋を出ようとしたら。
サンジに呼び止められ、浴衣を渡された。見てみたら、確かにそれは自分がとった方より一回り小さな
サイズ。
渡してくれたサンジは “どうぞごゆっくり。でもなるべく早く戻って来てねv” とこめかみにキスしてくれた。
―――って、どっちよ…
そういえばサンジはどうしたのか。
そう言って自分の帰りを部屋で待っているのか、それとも隣の大浴場にいるのだろうか。
……でも、いずれにしても。夜になってご飯も終わったらやっぱり…
「入るの、かなあ……」
小さく呟いたの脳裏を掠めたのは、先程見た露天風呂だった。
―――……そりゃあ、ね。さっき部屋で見た露天風呂も素敵だった。別に入りたくないわけじゃないけど……
ううん、むしろ…… ねぇ、本当は一緒に……
―――……こんな感じかな?
知らないわけじゃないけれど、滅多に着る機会のない浴衣にちょっと戸惑いつつ、袖を通して前を合わせ、
帯を締めてみる。
鏡の前に立ち、全身を写してみたけれど、別におかしくはなさそう。
「お待たせ。ごめんなさい、遅くなっちゃって…… いいお湯だったv」
部屋に戻る途中の廊下の窓から見たら、もう外は真っ暗で、とっくに夜になっていた。
思ったより時間かけちゃったな… と思いながら戻った部屋には夕飯の支度が。
「わ、美味しそうv」
机に並べられた料理の数々を見て、そう言う。
“お帰りv” というサンジの声を聞きながら、タオルを干そうと、手前の夕飯の用意がしてある部屋から、
今は襖で仕切られた奥の部屋に……
―――あっ。
明かりの消えている奥の部屋には、すでに床の用意がされていた。
布団が二つ、くっつけて並べて敷いてあるその部屋に、何となくかあっとなりつつも奥の隅の方にある
タオル掛けにタオルをかけて戻ってきた。
「どした、? 顔赤いぜ? 風呂、のぼせたか?」
戻ってきたの顔を覗き込むようにしてサンジが問う。
そのサンジも、と同じくこの旅館の浴衣姿。
やっぱりサンジも、大浴場で汗を流してきたのだろう。
「え、ううん、平気…… そりゃ上がってきたばかりだから暑いけど。それよりお腹すいたわ」
「だな。じゃ食うか」
「ん。ありがと」
ご飯がよそわれた茶碗をサンジから受け取るのはいつもの風景。
そしてサンジも自分の分をよそい。
二人で声を合わせて “いただきます” と箸をつけた。
「美味しかったね、ご飯」
ついさっき、食べ終わった食器を、旅館の仲居が下げにきて。
先程まで、いろいろ賑やかだった机の上は、すっかり片付いて、今はお茶の入った湯呑みが二つ。
「ああ。さすが老舗旅館、見事な和食だった。珍しかっただろ、船じゃあんまり作らねェタイプの料理
だからな」
「うん。でも私は結構好きだな。素材の味が生きた感じで」
「そっか。じゃあ今度、良い食材が手に入ったら作ってみるか」
サンジがそう言いながら灰皿を引き寄せ、傍らにおいてあったタバコの箱から一本取り出し、
火をつける。
「ん。皆も気に入ると思うよ、きっと。それにサンジが作ったならきっと美味しいもの」
「ああ。滅多に作らねェけど基本はジジィに叩き込まれてるからな。きっとご満足いただけるものを
お作りしますよ、お姫様」
一度吸って紫煙を流したタバコを銜え直して身体の向きも直し、恭しく手を添えて一礼しながら言うサンジ。
はそんな彼に、 “ふふっ” と微笑んだ。微笑んで、サンジと角を挟んで90度の位置で座っていたのを
隣に移動する。
「ん? どした、」
そう言いつつも、サンジはまだ吸い始めたばかりだったタバコを惜しげもなく灰皿に押し付け、隣に来た
彼女を抱き寄せる。
「んー、何か… 甘えたい気分。甘えさせて」
抱き寄せたはそう言って、サンジに身を寄せた。
「それはそれは… この上なく嬉しいことを言ってくれる、今宵の姫は」
サンジはそう言って、ひょいと彼女を抱き上げると自分の膝の上に座らせた。
その至近距離から一度、はサンジを見上げると、ふふっ、と微笑んで彼の肩口に頭を預ける。
いつもはスーツの、シャツの上からのその感触だけど、今日は薄い浴衣一枚で。
彼を間近に感じることが出来る、その心地よい感覚に酔うように目を閉じた。
それはサンジも一緒だったりするようで。
食事の間にすっかり乾いて、ふわりと清涼感ある香りのする彼女の髪に鼻先を埋めた。
きゅっと、心なしか彼女を抱きしめる腕が動いて。
彼女を間近に感じることが出来る、その心地よい感覚を噛み締めるかのように目を閉じた。
……しばらく、そうして互いが互いに酔っていたらば。
「ねえ」
不意に、が口を開いた。
「ん?」
「今…… 本当に二人きりなんだね」
ゆっくりと、かみしめるように言う。
「今までも夜の甲板とかラウンジとかで二人きりになったりしたことあるけど。
でもメリー号だったら、ドア開けたその向こう、同じ船内にみんないるでしょう。
どこかの島に停泊だって、二人でメリー号に残ってもいつ、誰が戻ってくるかわかんないし。
宿取ることになっても、そりゃ皆、気利かせて私とサンジ、同じ部屋にしてれるけどやっぱり、
隣の部屋にはいたりするわけだし」
「………」
「でも今は違う…… ここは皆のいる町から離れた、山の中の温泉宿で。
周りに私たちを知ってる人が誰もいない、本当の意味で二人きりなんだって、そう思ったの」
あ、もちろんメリー号や皆も好きだし、一緒にいたい。いたいけど、たまには……
「っ」
まだ続くところだったの囁くような声が不意に止んだ。
“サンジと二人で、二人きりになりたかったの―――”
こう続くはずだった声は、言葉は、そのまま。伝えたかった彼の唇に飲み込まれた。
「……。俺のお姫様」
……きつく甘い束縛で抱きしめられていた腕が楽に緩められ、唇が解放されその顔が認識できる
距離まで離されて見た、その深い藍い瞳に。
吸い込まれそうなその色に、言葉にして耳から伝えるよりも。唇から吸い上げられた想いは、
より一層伝わった気がした。
「俺も。俺も、貴女を独り占めしたかった―――
貴女と二人きりになりたかった。貴女と同じ意味で。だから今俺は……この上なく至福を感じてる」
「サンジ…」
「だからここの宿泊券が当たったときには願いが叶ったと思った。滞在中に絶対、貴女と一緒に
行こうと思った。そしたら、ただでさえ嬉しいのに」
ふ、とサンジの瞳が柔らかく微笑んで。
そ、とサンジの手が柔らかくの髪にさし込まれた。
「こんなに甘えてくれるなんてな。もう至福以外、何でもねェ」
「………」
かあああーーー
目に見えて、見る見るうちに。真っ赤になるに。
サンジは愛おしそうに、その髪を撫でる。
そうしてそのこめかみに、ちゅ、とキスを贈ると、囁いた。
「…さっき。メシ食う前に。タオル、干しに行ったときに隣の部屋、見たろ?」
かあっ、と今みたく真っ赤になって戻ってきたのを、それを見たサンジも赤くなった本人も、
まだ覚えている。
こくん、とが頷いた。
「そろそろ、行かねェ? 隣の部屋」
ゆっくりと、耳元で甘く囁いかれて。
その声に再びは頷く…… かと思いきや。
「それもいいけど…… お風呂、入りたいな……」
「…風呂?」
「…さっきは、まだ明るかったし“二人きり”に慣れてなくて…… だったけど、今なら……
もしそこまで…甘えても、い…」
―――………
もちろん。そこは、レディのに皆まで言わせることなく―――
「了解。お姫様」
そっと、塞いだ唇を離すと。
サンジはを抱き上げて、部屋の外へ。
月明かりが差し込む下、玉砂利が敷き詰められた中庭に渡された木の廊下を、
大事な大事な恋人を抱えて渡っていった。
それからそれから。
“二人きり”で過ごす時間の甘さと満ち足りた至福を余すことなく、一晩中感じていた二人の。
月明かりの下のの美しさも、いつにも増して丁寧で優しく与えられたサンジの愛も。
それはサンジと、二人だけの秘密の一夜。
「なあに、サンジ君もも。やけにゴキゲンじゃない? 島に滞在中に何かあったの?」
に始まったナミさんのあの手この手の追及にも、ただ二人で笑顔を見せるだけで、
答えなかったという。
ただ、立ち寄った島で滞在中、状況が許されるなら。
二人きりで宿を取ることが多くなったという……
<fin.>
お、終わりました〜、ようやく……
3000HITキリリク、りこ様に捧げます。ようやく、捧げることができます。お待たせしました。
申し訳ない程にお待たせしてしまいました。
「サンジと温泉にいく。ほのぼので」とのことでしたが。ほのぼの…… してますでしょうか。
さらにタイトル。相変わらずネーミングセンスのなさったら……
本当に済みません。
こんなモノしか書けませんでしたが、どうぞ、もらってやってくださいませ。
これに呆れませんでしたら、また、当サイトと葉月を、よろしくお願いします〜。
3000HIT並びにキリ番リクエスト、ありがとうございました。