俺は元々。
神になんざ、祈ったことなんかねェけど。





    <暁の中で>





ギシッ、ギシッ…
真っ暗な中、響くこの音は、メインマスト上の見張り台への梯子から聞こえる音。
いつもより大きく響くのは、二人一度に登っているため。
正確に言うと… ゾロが、を担いで登っているため。





。起きなさい、
“よく眠ってんなー、ちゃん。起きそうもないな、こりゃ”

ナミがを揺すりながら、彼女の名前を呼ぶ。
けれど彼女は、ピクリとも動かず、眠ったまま。
その様子を、ナミの横から彼女を覗き込んだサンジがそう言った。



今年最後の航海を終えたゴーイングメリー号が、今の島に到着したのはクリスマスの二日後だった。
ログが溜まるまで10日間のこの島で、年を越すことになる。

“それにしても、年越しがこの島でよかったわねェ”

ナミの言うとおり、春島のここは、今の季節は冬だけれどもそんなに厳しいものではなく。
昼間だったら陽だまりの中、厚手のセーターでも着ていれば充分、過ごせそうないわゆる
『小春日和』のような気候だった。
そんな島なので結構栄えているらしく、近くの市場で食料の調達は簡単にできた。
となると、張り切るのはサンジで。
最初はどこかの店で、のつもりだった上陸5日後の新年年越しパーティーは船に全員集合、
皆で今年最後&新年最初の大宴会を開くことになった(それまでは自由行動、外泊でも船戻るでもOK、
ただし船に戻って食事もいる場合は仕込み兼船番のサンジにちゃんとことわること)。
そしてこの島、港からそう離れていないところに神社を見つけたナミの提案で、宴会の後全員で初詣に
行くことになっていた。
(“みんな、来年の航海の安全と、この船の財政が少しでもよくなるように! しっかり祈るのよ”byナミ
 “初詣かぁ。丁度良かった、私もお願い事あったから行きたい(拳ギュッ)”by。)


そういうことで、年忘れ&新年大宴会、開幕。
いつもにも増して豪華で、品数の多い料理に酒、あっという間に盛り上がり、ちょうどピークに達した頃。

““““““““新年、明けましておめでとう!!!!””””””””

ガガン、とカップとカップのぶつかり合う音に、響く八人・クルー全員の声。
それから口々に“今年も宜しく!”と近くにいる者達から、挨拶を交わしていって。

“今年も宜しく。ゾロ”

も、一度は立ち上がって皆のところに一通り挨拶に回り、終わったらくるっと振り返って元の席に。
そして隣のゾロに、カップを掲げて。

“今年も私の指定席は、ここでいいんだよね?”

そう言ってにっこり笑ったに、カチン、とカップを合わせて。

“当然だ。お前以外、誰が座るんだよ”

そう言ってニヤリ、と微笑ったゾロは、カップの中身を煽る。
空になったゾロのカップに、はお代わりの酒を注ぐ。
すると“”とゾロが呼ぶ声がするから、“なぁに?”と振り向くと、“ v ”

……宴会の隙。
向こうで鼻割り箸で踊り始めたルフィとウソップとチョッパー、それを見て大笑いのナミ、微笑むロビン。
踊り始めたことでようやくルフィが離れた料理の大皿を回収、新しい料理の給仕をするのに、
キッチンにサンジが引っ込んだ、

その隙に。

素早く、に唇を重ねたゾロ。

“今年も宜しくな”

そう耳元で囁いて、離れる。

“……” こくん、と頷いたは、桃色に染めた頬を花の様に綻ばせて微笑んだ。


その後、出てきた新しい料理に酒に、また皆ではしゃいで、騒いで。
そうこうしている内に、はしゃぎすぎたのか。

“眠いのか?”

ゾロにそう尋ねられたとき、は口元を隠すようにしてあくびしていた。

“ん… 少し。皆元気だねぇ”
“まあな。眠いなら少し寝るか?”

そう言って、ゾロがの肩を抱いて、ぐいっと引き寄せて自分の方に寄りかからせるようにする。

“ん、でも初詣…”
“この分じゃまだ後、1・2時間くらい後だな。行くんだろ?”
“んー…、じゃあちょっとだけ。ごめんね、ゾロ”

こくん、と頷いてそう言ったはとん、とゾロの肩に頭を預けて、目を閉じる。
やがてすぅすぅと寝息を立てはじめた。

“んだぁ、ゾロ。ちゃん寝ちまったのか?”

その様子をに気付いたサンジが、そう声をかけてきた。

“ん、ああ… 眠そうだったからな”
“んじゃ部屋連れてってちゃんと寝かせた方が…”
“いや。コイツ、この後の初詣行きたがってたからな。それまでの間の仮眠だとよ”
“……じゃあコレ使え。ちゃんに風邪引かせるなよ”
“引かすか。……サンキュ”

サンジから受け取った毛布をに掛けてやり、自分に寄りかからせたまま、空いている方の手で器用に
カップをとろうとした  ……が。
一度は伸ばしたその手を、ひっこめた。
を寄りかからせたままでは手が届きにくかったことと、ここで酒飲んだり何か食べたりで動いたら、
つかの間の眠りの彼女を起こしかねないな、と。

だったら別にいいか、もう酒も食いモンも充分呑んで食ったし… それよか今は、このぬくもりと重みだな。

自分の肩から胸にかかる愛しい重みに。本人も知らず知らずのうちに、いつになく優しい表情のゾロがいた。



が、そのゾロの気遣いは幸か不幸か。愛しい人の傍があまりにも居心地がよかったのだろう。
宴もたけなわ、そろそろお開きに。
そうなっても、いやその頃、はますます深い眠りに落ちていた。
仕方ないので、簡単に片付けている間も寝かせてて(“後でゾロと、ペナルティね”byナミ)いよいよ初詣に
出かける段階になって。

。起きなさい、
“よく眠ってんなー、ちゃん。起きそうもないな、こりゃ”

ナミがを揺すりながら、彼女の名前を呼ぶ。
けれど彼女は、ピクリとも動かず、眠ったまま。
その様子を、ナミの横から彼女を覗き込んだサンジがそう言った。

“もう、あんなに初詣行きたがってたのに”

ナミがそう言って、眠ったままの彼女を呆れ顔で見遣る。

“……なあ”

すると、ゾロが口を開いた。

はこのまま、俺が見てるからよ。お前らだけで、初詣行って来い”
“でも…”
“いいから。もうはきっと、今夜は起きやしねェ。初詣は明日の昼間、連れて行く”

ゾロがの肩を抱いたままそう言うと、じゃあ彼女をちゃんと部屋まで連れてって寝かせなさいね、と言われ。
わかった、と答えたゾロとをそのままメリー号に残して、皆は初詣へと出かけて行った。





そして今。
皆が行ってしまってから、もう一度ゾロが、を起こそうとしたけれど… 

“んん〜…っ……” 小さく呻いて、顔を顰めただけで。
“ゾロぉ…” 聞き取れるかどうかの発音だったが、愛しい彼氏の名を呟くと、そのまままた、寝入ってしまった。

「ったく……」

ふう、と息を吐いて呟くけれど。
その顔はどこか嬉しそうに、腕の中のを見ていた。

そして少しの間、まだこのままでいいか、とを抱いていたゾロだったが。
ふと、思いついたように顔を上げ、メインマストの上を見上げた。
はよく眠っている。
よし、じゃいっそこのままもう少し眠っとけ… ゾロはそう呟くと、を担いで、メインマスト上の見張り台へ
上がっていった。


上がっている途中、が目を覚まさなかったのはよかった。
見張り台につくと、そこに彼女を下ろす。
そして下でしてたのとはちょっと違う、後ろから彼女を抱え込むようにして抱きしめ、一緒に毛布に包まった。





ゾロが彼女の名を呼びながら、彼女を揺する。

。オイ、いい加減起きろ。

今度は、ゾロは。
今までは、があまりにも気持ちよさそうに寝ていたのと、惚れた女がそんな状態で自分の腕の中なのに
あまり強引なことはできねェ、と遠慮がちだったけれど。
今度こそは、彼女を起こそうと思ったので、少し強めに揺すり、声も大きめだった。

。起きろって、オイ。

何度かそうしていると、ん…… とが、ようやく目を開けた。

「なに、ゾロ… おはよ」
「ああ、おはよう」

ようやく起きたか、とゾロ。

「ん… もう初詣行くの?」

それなら起きなきゃ… とあくびを堪えつつ、目をこすってしっかり目覚めようとするに。

「ん、ああ… もうみんな行っちまった。今頃混んでる神社の石段でものろのろ上がってるトコじゃねェのか?」
「そう… えっ!?」

ゾロの言葉に一瞬納得しかけたものの、言葉の次第を理解して、驚いて振り返る。

「やだ、ゾロ… 何で起こしてくれなかったの?」
「起こしたぜ。何度も。俺だけじゃねェ、ナミもサンジもだ。けどお前、気持ちよさそうに寝ちまって
 絶対ェ目ェ、開けなかったし」
「えー… ウソ、やだ… あーあ、行きたかったのにな初詣…… って、ここ?」

ゾロから視線が外れて、は回りの様子に気付く。
そう、さっきまで甲板で宴会だったはずなのに、気付いたらここは見張り台の上。

「ああ。初詣は置いてけぼりだったからよ。変わりに… そろそろじゃねェか?」

ぐい、とゾロが後ろから、を立たせて見張り台の縁へ連れて行く。
そこから開けた港、海への沖合い。
うっすらと色づく、東の空。

「あ…」

空全体がうっすらと… 
気がつけば、ついさっきまで真っ暗で、知っている場所だからこそわかる、という感じでしか見えなかった
辺りの様子が見え始める。
ここは確かに見張り台の上で、自分はそこに立たされてて。
後ろからゾロに抱きしめられ、そのゾロごと毛布に包まってて…
沖合いには。
空がうっすらと、白み始めた正体。
水平線の彼方、空と海を分ける境目に射す光。
眩しくて、瞳を細める。
見る見るうちに、黄金色の光が辺りを照らし出す。それと同時に、海面から。
徐々に姿を現す、丸い光。
一筋の光が、半円になり、真円になる。
それと同時に海面がキラキラと光を反射し、港町がその姿を現し… 世界が暗闇からその姿を現す。

「………」

新年最初の、その光。
その中に照らし出されるものの中に、自分と、ゾロもいるのだろう。

声もなく。
朝日が昇りきるまで、今年最初の朝日が昇りきるまで、は眩しさに目を細めつつも、太陽が昇る様子を見つめ続けた。
ただ… 自分を抱きしめてくれるゾロ腕に、自分も腕を曲げて触れていた、その手に。
知らず知らずの間に、力が入っていたかもしれない。

「……すごい」

太陽が完全に昇りきり、透明な日の光に包まれた頃、ようやくが一言、言った。
今まで、夜半から夜明けの見張り当番のその後に。
海から朝日が昇るところなど、何度も見たことがあったけれど。
新しい年の始まるその日の夜明けは、何とも清々しく、そして神々しく。

「ありがとう、ゾロ」
初詣、置いてけぼりだったけど。今、願っちゃった。初詣で願いたかったこと。少し変えたけどね。

新年最初の、暁の太陽に。清々しくもあり、神々しくもあるその姿に。
これからも、ずっとゾロと一緒に。
年の初めは、今回と同じように。この人が、野望を遂げたその後も、ずっと、毎年。
この人と、ロロノア・ゾロと。
新年最初の、神々しいあなたの姿を毎年拝ませてほしい、と。
自分を抱きしめてくれるゾロの腕をぎゅっと掴みながら、は、暁の太陽に願った。

「ゾロ」

が動こうとしたので、ゾロがその腕を緩めた。

「あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします」

昇りたての太陽を背に受けて。改めて言いたくなったのだと、はゾロに、頭を下げた。

「…こっちこそ。宜しくな」

ゾロがそう言って腕を広げる。
その腕に、その胸に。
が飛び込んだ。



俺は元々。
神になんざ、祈ったことなんかねェけど。

その俺が初詣なんざ笑えるなと思ったが(言っとくがそれでわざと起こさなかったわけじゃねェぜ?)、
新年最初の初日の出を、と見るのくらい、いいと思った。
それで、初詣に出遅れたことを知るだろうコイツの機嫌がよくなれば。
だが、しかし。
神々しいってのは、こういうのを言うのか?
初日の出の光。
いや、正確に言うと、それに照らされた、の横顔。
後ろから抱きしめながらだったから、はっきりとは見えなかったが… 
初日の出に照らされた、コイツの斜め後ろからの横顔が。真っ直ぐに昇る、暁の太陽を見つめるの顔が。
すげェ綺麗で… 神々しいとさえ思えて。
ガラにもなく、毎年年の初めは、のこんな顔を拝みてェと… 願っちまたんだ。



…」

飛び込んできた彼女を受け止めたゾロは。
その腕に、しっかり彼女を抱き、決して離さねェ、と…
毎年の年明けは一緒に過ごす、と。
その唇に、誓いの口づけを贈った。


                      
                                                              <FIN.>


終わりましたぁ。700HITキリリク、りこ様へ。
「サンジかゾロか、どちらかが相手で、甘甘で二人きりで年末年始をすごしたい」
とのリクでしたが。
りこ様は元々ゾロファンとのことで、ゾロで書かせていただきました。が…
甘甘はクリアできたと思います。その結果ロロノア氏、何だか別人に…(涙)
おまけに年始はともかく、年末は二人きりじゃなかった気が(滝汗)
ですが楽しんで書かせて戴きました。りこ様、ありがとうございました。
こんなのでよろしければもらってください。
こんなへタレサイト&管理人ですが、これからも宜しくお願いします。
また遊びに来てくださるとうれしいです。