彼女に差し出すカフェオレの上に、たっぷり乗せたミルクの泡。
コイツとココアパウダーが、俺の気持ちを彼女に伝える、重要な役割を果たすことになる。
さァ、上手いこと彼女に、俺の気持ちを届けてくれよ? 相棒。
<Cafe Au Lait>
「お待たせ、……ん? どうした?」
今日の買出しは食料に非ず。
食事を供するのに必要なのは、何も食料だけじゃない。
食料の管理並に気をつけてはいるけれども、不注意や大騒ぎやハメ外したり、とか。
最悪なのはこっちは食事中だってのにそんなのお構いナシで仕掛けられる敵襲や天候不順。
そんな中で少なからず、皿やコップや茶碗など、気がついたらいろいろ破損し、足りなくなって
きている食器の補充を、なんてことでを伴って買出しに出かけた。
“わあ、かわいいv”
なんてのはほんの些細な名目で。
まあ、確かに食器がいろいろ足りないのは事実だし。
だから一応、ちゃんと買ってくるつもりはあったけれど、それよりも。
“へェ、いろいろあるのね…”
青空の下、気候もよい春島のマーケットで、の手を引いて一緒に歩きたかったり。
途中、見つけたカフェでお茶をして、そこでのメニューにが嬉しそうな顔をすれば、それを
覚えておいて、後のおやつの参考にしたり(味の再現は、自分も一緒に食べておけば完璧か、
それ以上の物を作り出す自信アリ、だ)。
目的の店でも一緒に品物を見ているとき、ふと気がついたら隣のが興味津々、と言った具合に
目を輝かせて見ていたり。
知らない食材・あまり見たことない食材だったりするといろいろ聞いてくるから、それに答えてやって
調理法とかも簡単に説明して、“食いてェ?”と聞くと満面の笑みで頷くから、ついその食材を
買い込んでしまったり。
そんなを見てみたかったり、してあげたかったり。
そんな諸々が満たされる、買出しという名のデート。
海の上での生活もまんざらじゃないけれど、たまに陸の上に降りて二人だけの時間を過ごすのも
また…。
嬉しそうに、笑顔が増えるを見るのは、こっちも嬉しくなるし、暖かい想いに満たされるから。
だから、買出しは一緒に行こうな? 。
そうして訪れた、雑貨店の食器売り場。
一口に食器といっても、業務用の無機質なものから、例えば素敵なお嬢さんが家で自分用に
使っているような可愛らしいものや、お客様向きの洒落たものまで。
いろとりどり、形も用途もさまざまな食器をいろいろ見て回りながら。
“ね、サンジ、昨日の夕飯で食べたお肉の料理、こんなお皿に合いそうじゃない?” とか。
“スープなんかはみんなでこのスープカップ、8個おそろいで揃えたらかわいいよね” とか。
“んー、このガラスの小皿に、一昨日のいちごのムースなんか、ぴったりじゃない?” とか。
そんなことを言って振り返ってくるに答えながら、買い足し分の皿やコップなどを選びつつ。
“ああ、そうだな。料理は見た目、盛り付けには食器とのバランスも必要だ。ソコいくと、
なかなかセンスいいぜ? 流石だな。明日のブランチはぜひ、のセンスで作ってみようか”
なんて言ったら。
照れたように笑うがかわいくて、よくまあ、店の中だからって人前だからって、思わず
抱きしめたくなった手を伸ばさずに堪えられたもんだ俺、とサンジは思う。
さて、浮かれるのもいいけれど(抑えてはいらんねェな、あんなの笑顔見せられちゃ)当初の
目的、食器の買い足し。
これとこれとこれとこれ…… あ、あとこれもだな、と選んで会計を済ましてくる間、売り場を適当に
見ながら待ってるようにに言って。
戻ってきたサンジは、がとある棚の前でじーっ… とあるものを熱心に見ているのに、声をかけた。
「あ、サンジ」
振り返っておかえりなさい、と言ったが。
「これ… なあに? どんぶりにしては、小さめだしかわいいし… お茶碗にしてはちょっと大きいし。
小鉢って雰囲気じゃあぜんぜんないし、何に使うのかなぁ、って…」
一つ手にとってが首をかしげる。
「ん、ああ… そっか、確かに今までメリー号にはなかったなァ、それは。なきゃなくても事足りるモン
だが…
気になるか? 何だか」
そう言ったら、が頷くから。
「じゃあ買っていこうか、一つ。そのピンクのヤツでいいかい?」
「え、いいの?」
「あァ。そのかわり内緒、な? さっきも言った通り、なきゃなくても事足りるモンだからな。
だけ特別、俺からプレゼントだ」
が手に取っていたそれを、サンジが受け取り。それをレジに持って行こうとしたが。
“待って”とが呼び止める声。
「ねぇ。これ、ゴーイングメリー号には今までなかったんでしょ? だったらもう一つ、これも
買わない?」
そう言ってが見せたのは、サンジが手に持っていたピンクとお揃いのブルーの物。
「これはね、サンジの分。サンジが私にそれ買ってくれるなら、私からこれをサンジにプレゼントするわ。
そしたら、一緒に使えるものね。お揃いで」
―――っは、、貴女って人はー……
もちろん、そんな嬉しい申し出をサンジが断るはずもなく。
ただし彼女に金を出させるような真似はさせず、両方とも自分が払う条件で。
二つ重ねたそれを、二人で一緒にレジに持っていった。
ああ悪ィ、、向こうの調理器具売り場にもちょっと寄らしてくれねェ? ちょっと必要なものが
あってさ。
あと… 今日はこのまま、メリー号へ。
今日のお茶は、俺が用意するから。
ココに来るときに見つけたティールームは、明日にでも行こう。
……ん? あァ、そうさ。
明日のデートのお誘い。
明日のも、今から予約な?
……明日だけじゃなくって、この先ずっと……
独り占めして、いてェけどな……
メリー号に戻った後、買出しの食器を仕舞ったら。
え〜と、じゃ今日はお菓子は簡単に、対湿気と対ルフィ用に冷凍庫で冷凍保存してあった
ナッツ入りクッキーの生地(いくらルフィでも、鍵付き冷凍庫の中に冷凍保存してある
クッキー生地を食ったりはしないだろう、ってな。案の定無事)を切り分けて焼いてる間に。
まず熱湯を沸かしてコーヒーを淹れて。
その傍らで、小鍋にミルクを入れ、弱火にかけながら泡立て器でミルクを泡立てる。
このとき、泡立て器は横にサッサッと動かすようにするのがコツ。
それからミルクは決して沸騰させないのも大事だ、沸騰しちまったら泡立たなくなっちまう。
……よし、いい感じに出来上がった。
さて、それじゃあ。
サーバーに入ったコーヒーと、泡だったミルク。
これをなるべく高い位置から、同時に器に注ぎ入れ……
「カフェオレ、ね」
そのサンジの一連の行動を見ていたが言った。
「あァ、その通り。ご名答、プリンセス。けどこれは俺が、のためだけに淹れる特別製だ―――」
そう言うとサンジは、小鍋に残った泡の部分を含むミルクを注ぎ口のついた入れ物に入れ、
その入れ物の蓋を閉めた。
そして、その蓋についているレバーを上下に、細かく早く動かし始める。
「あ、それさっき調理器具売り場で買ってきた器具―――」
「あァ。コイツはミルクフォーマっつって、コイツを使うと―――」
っし、もういいか。さっき泡立て器で半分泡立ってたし。
「ホラ」
サンジに促され、蓋を取ったミルクフォーマの中を覗くと。
さっきの鍋の中より、光沢があってずっと木目細やかに泡だったミルクが。
“わぁ…”と小さなため息を漏らして、はそれを見た。
「いいかい、よく見てて。これを―――」
サンジがまず自分のもとに引き寄せたのは、先程買ってきたブルーとピンクの器に注いだ
カフェオレのうち、ブルーの器の方。
そこにミルクフォーマの注ぎ口から、泡だったミルクを……
まず少し注ぎ入れ、それから注ぎ口を左右に揺らしながら。その幅をだんだん細くしていきながら
奥から手前にミルクを注ぎ入れる。
手前の縁に到達する頃には一番細く、ミルクは注ぎ入れられ、その後。
一気に、今までミルクで描いて来た模様の真ん中を突っ切るように向こう側に細い線を描き入れれば。
「わあ……」
カフェオレの上にひらりと舞い降りたのは、ミルクで出来た葉っぱ。
「すごーい、何、何? 今の。カフェオレの上にこんなの描けるの、サンジってば」
うわー、すごーい、今の言われたとおりちゃんと見てたけど。ただ注いでただけじゃないのね、
こんなになるんだぁ、へーえ……
「ああ。久しぶりだったからうまくいくか心配だったけど… ラテアートとかデザインカプチーノって
呼ばれるヤツさ。カプチーノやカフェラテやカフェモカなんかの表面に、そうやって模様を描く技法
のこと。
だったら別に、カフェオレの表面にだって描けるってワケだ。……で、わかったかい?」
「え、何?」
今まで、先程サンジが描いた葉っぱに夢中になっていたが顔を上げる。
「さっき店で気にしてた、その器。そいつはカフェオレボウルっつって、そうやってカフェオレを楽しむ
取っ手のない器のこと、そして」
がブルーのカフェオレボウルに夢中になっている間に。
どうやらサンジは、ピンクのカフェオレボウルにも、ラテアートを施していたらしい。
「これが、俺の気持ち」
に差し出すカフェオレの上に、たっぷり乗せたミルクの泡。
コイツとココアパウダーが、俺の気持ちをに伝える、重要な役割を果たすことになる。
さァ、上手いことに、俺の気持ちを届けてくれよ? 相棒。
の前に置かれた、ピンクのカフェオレボウル、その表面には。
カフェオレボウルの真ん中に浮かぶのは、大きなミルクのハート。
その表面には“”と、彼女の名前入り。
そしてその周りを、細かいハートが取り囲んでいる。
カフェオレの表面に、ココアパウダーを振って。その後、真ん中にハート型にミルクを流し込み、
ピックの先端にココアパウダーをつけ、の名前を入れる。
そのハートの周りにスプーンで小さめに丸く、取り囲むようにミルクを落とし。
ミルクの真ん中を割るようにピックで線を引けば、を取り囲む小さなハート達の出来上がり。
要は、気持ちを込めて。
俺が、を目一杯、好きなんだと、愛している、と―――
愛しい君を思い浮かべて。
ミルクとココアパウダーとカフェオレにその想いを、託して詰め込んで―――
「さァ、どうぞ。ちょうどクッキーも焼けた頃、出来立てだ」
さくさくに焼けたクッキーと共に、の前に置く。
「! サンジ、これ…」
自分の前に置かれた、ピンクのカフェオレボウル、その表面の模様を見たが。
ぱっ、とサンジを見上げる。
「今までいつも紅茶ばかりだったけれど。こうして、たまにはカフェオレとかも悪くねェだろ?」
気持ちが伝わるんなら。
そう、ミルクもココアパウダーもカフェオレも。
自分達を仕立ててくれた料理人の気持ちをしっかり汲み取って、お目当ての方に伝えられたようで。
その証拠に、サンジを見上げたの顔は真っ赤だった。
「もう―――」
恥ずかしいじゃない。こんなデザイン、淹れてもらいたくても人前じゃ絶対無理ね―――
特にナミなんかに見つかったら、何言われるかわかったもんじゃないわ―――
ね、サンジ?
このデザインで、カフェオレ淹れるの。
私にだけに、してよね……?
「もちろん。言っただろ、のためだけに淹れる特別製だって」
真っ赤な顔をしながらも、照れ隠しのためか無意識に引き寄せたいのか。
目の前のサンジのスーツの裾を握りながら、彼を見上げてそう言うに。
サンジは笑顔でそう答え、スーツの裾を握るの手を取り、その隣に座った。
そのまま彼女を引き寄せ、触れるだけのキスをして。
「さ、それじゃ本日のおやつ。焼きたてさくさくクッキーと、サンジからに愛を込めて・とっておきの
恋のラテアート。召し上がれ」
<fin.>
omake☆
「……ん? どうした、?」
ピンクのカフェオレボウル、その表面には恋のラテアート。
クッキーと共にちびりちびりと、飲んできたが、気がついたら途中から飲むのをやめて、
その手にカフェオレボウルを持ったまま。
そうっ、と傾けてみては慌てて止めたり、そうっ、と揺すってみたり、じいっ、と器の中を
覗き込んだり。
“……どうしよっかなー” とか、小声で言っているのも、サンジの耳に聞こえてきた。
「ひょっとして、口に合わねェ? 美味くねェ?」
その割には、そうしているの顔は、楽しそうで。
そうしながら、ふふっ、と微笑っているみたいに目を細めてたり。
してるように見えたのは、俺の気のせいか?
「! あ、ううん、違うの、そうじゃなくて… サンジのカフェオレ、すごく美味しいよ?
ミルクがよく撹拌されてて、空気含んでるから口当たりまろやかだし…
だから全部飲みたいんだけど」
そう言ってそうっと、カフェオレボウルをそっと揺すって“やっぱだめだわ”と止める。
「これ以上飲んだら、せっかく淹れてもらって描いてもらったのに、崩れちゃうなー、って…」
表面の恋のラテアート・小さなかわいいハートたちと、大きなハート。
「せっかく描いてもらったのに、崩れちゃったらもったいないなー、ってね」
そう言ってがにこ、と笑う。
「あ、でもちゃんと飲むよ? カフェオレ美味しいし、粗末にしちゃいけないし。
それにこのカフェオレで貰ったサンジの気持ち、この小さなハート一個一個まで、
まるごともう私のものだもの。
サンジの気持ちごと、飲み干せるのに不味いわけないじゃない? ね、……」
まだ、この言葉は続くようだったけれど。
途中で、の唇が塞がれた。
「……っとに、、貴女って人は…」
俺は今日、人前だったから抱きしめてしまわないように、これからおやつ食べるから触れるだけの
キスにしておいたのに。
「今日はさんざん、そうやって我慢してきたのに。そんなコト言われてそんなカオ見せられたら、
いくら俺でももう我慢も限界だ―――」
責任、とってくれよ?
その言葉を、サンジの腕の中で聞いていたが、くすっと微笑する。
「ええ、お気に召すまま、お好きなように」
そういうの唇を、さっきと同じく、自分の唇で塞ぐサンジ。
もちろん、触れるだけではなくてしっかり合わせて。
そういうコトなら、そのラテアートよりも確実に。より明確に、俺の気持ちを貴女に伝えるさ。
もちろん、受け取ってくれるよな?
Happy Birthday Dear ラムちゃんv
遅くなってゴメンナサイ、ようやく書けました、誕生日プレゼント。
しかも何だか長…っ おまけに葉月サンジ、調子のりすぎだ! 何かノリ良過ぎだぞ…。
いろいろ、申し訳ありません。
お台場であの日、言っていたお話は、こんな形になりました☆
新しい一年も、ラムちゃんにとって素敵な一年でありますように。
これからもよろしくですv