“好きな人が、います。
誰よりも、誰よりも、好きな人が。”
<Cross Hearts>
髪よし。服よし。メイクよし。
洗面所の鏡の前、自分を写してチェック、チェック。
朝一番のの日課は、まずこれから始まる。
部屋ではまだ眠っているナミとロビン、二人の起床時間はまだ後のこと。
まだ眠りについている二人を邪魔しないように、そっと起きだしたは洗面所で身だしなみを
整え、倉庫を通り抜けて甲板へのドアを開ける。
天気・快晴、波・穏やか。
遮るものが何もない海の上、照らされたモノは皆、キラキラ輝いて見えそうな日の光。
そんな朝の空気を胸いっぱいに吸い込めば、気分もシャンとしてくる気がした。
すっきりした気分に足取りも軽く、階段を上がると目の前にはラウンジのドア。
「おはよう! サンジ君」
朝の挨拶は元気よく。ラウンジの扉を開けて、その向こうにいるであろう人物に声をかけながら
入っていく。
「おはよう、ちゃん。今日も朝一番に元気でキュートな貴女に逢えて、幸せだ」
調理中の手を休めて、にっこりとサンジが微笑みながらそう言ってくれた。
言われたも、嬉しそうににこにこ笑いながら、テーブルの自分の席につく。
“その人は、私が乗り込むこの船、ゴーイングメリー号のコックさんです。
とはいえ、このゴーイングメリー号、とぼけたようなかわいらしい羊の船首をしていますが、
れっきとした海賊船・麦わら一味の船です。
つまり、私も彼も、海賊です。まあ、でもとりあえずそんなことは置いておいて。”
「はい、ちゃん。朝のカフェオレ、入りました」
「うわぁ、ありがとう! ……んー、美味しーい」
目の前にコト、と置かれたのカップ、中には温かそうなカフェオレが。
一口飲んでその感想を素直に伝えると、サンジが“どういたしまして”と恭しく礼をする。
「今日一日が、ちゃんにとっていい一日になりますように。もう少しで朝ご飯だから
それ飲んで待っててね」
そうしてキッチンスペースに戻ると、調理の続きを始めた。
はというと、両手で包み込むようにカップを飲んで、一口ずつ、味わいながらカフェオレを
飲み……
その視線は、キッチンスペースに立つサンジの背中に。向けていた。
“彼は、海賊でもこの船ではコックさんだから。
朝早くから起きて、皆の分の朝食を作っています。
私が朝早く、皆より先に起きるのもこのため。
ココで朝食を作っている彼…… サンジ君に逢いたいため。
サンジ君と…… 二人きりで過ごす時間を、作りたいため。”
「ねぇ、サンジ君」
「ん、何だい?」
「今朝のゴハン、何?」
「あァ、今朝は――――」
“私が来ると、サンジ君はその手を一旦休めて、飲み物を淹れてくれます。
今朝はカフェオレ、昨日はカフェラテ、一昨日はミルクティー。それがまた、美味しいの。
優しいんだよね。朝、忙しいのに。
そんなサンジ君と過ごす、朝の時間。愛しいくらいに美味しいドリンク、今日はカフェオレ。
リズミカルに調理をこなす背中。何気なく交わされる会話。
そんな、サンジ君と過ごす優しい朝の時間は、私の一日のスタートには欠かせない、
かけがえのないものなのです。”
「んー……」
オープンカフェの二階のテラス席に座っていたは、外の通りを見ながら、伸びをした。
この島には、一昨日の夕方着いた。
上陸した島のレストランで夕食をとり、そのレストランで聞いたホテルで宿をとって三日目の今日。
着いたその日は本当に食事だけ、昨日はナミとショッピング。
……彼の前では、同じ服を繰り返し着たくない。少なくとも同じ印象を与える着回しは避けたい、
と思っているのと、おまけに先日の戦闘でお気に入りのジャケットを破ってしまったこともあって、
結構お金を遣ってしまった。
なので今日はナミのお誘い・ショッピング2日目はお断りして、ここでお茶を。
くいっと一口、カフェオレの入ったカップの中身を煽る。
色…… だけは、一緒なんだけどな、なんて。
両手で挟むようにしてカップを持って、遠くを見遣る。
T字路の丁度行き止まりにあるこのカフェからは、目の前から伸びる通りがよく見渡せた。
“島へ上陸…… 確かに、あの広い広いグランドラインを航海していると
それはこの上ない楽しみ、のはずでした。イヤ、今もそれは変わりません
けど。
でも今は……”
「何…… してるのかなあ……」
ぽそり、と聞こえたそれは、自分の声。
それに気付いて、ははっと辺りを見回す。っ、よかった。今思わず、心の中で
思っていたことが口を突いて出てしまったけれど。
辺りにその呟きが聞こえたか何かで、不審気に自分を見ている視線がないことを
確認して、はほっとした。
そして改めて、思う。
今、何してるのかな。サンジ君。
“そう、島に上陸してしまうと基本的に自由行動だから。
前回上陸で船番になった人を抜きにしてくじ引きで決めた船番以外は
自由行動。
てことは…… サンジ君も、いつもの時間にメリー号のキッチンで朝食を
作っているわけじゃないから。
サンジ君との、優しい朝の時間が過ごせなくなるのです。
それが…… 島へ上陸というこの上ない楽しみのはずの出来事が、
少し憂鬱になる理由でしょうか、ね……”
それどころか。
今回の上陸、皆でとった上陸日の夕飯以来。
はサンジに会えていない。
それを思うと、ため息すら出てくる。
いつも賑やかなゴーイングメリー号、麦わら一味の面々。その中にいる、サンジと自分。
一味の皆はもちろん大好きだし、皆の中にいるのも悪くはないけれど、二人で過ごす
朝の時間はまた特別なものだった。
それを過ごして、また日中は日中で、サンジを想って、見遣って。
ちょっとした仕草や表情にもドキドキしたり、そうやって見つめていたらふと、
たまに視線があったりして慌てて目をそらしたり。
うわっ、今ちょっと意識した、顔赤かったかな、なんて思いつつも、の顔は
幸せそうにふわり、と密かな笑みを漏らしたり。
“……いつからだったか、とかどうしてサンジ君なのか、なんて。
もうそんなの忘れました。
何がどうしてこうなった、なんていちいち覚えている暇も考えている暇も
惜しむくらい。
サンジ君が好きなんです。今の私は。”
……ガタッ。
不意には、弾かれたように椅子から立ち上がった。
サンジ君!?
そう。目の前に伸びる通り、その向こうに見つけた。
ならば見間違えるはずのない、その人影を。
そもそもお茶できるカフェを探した時ここにしたのは、こんな期待を寄せていたため。
非常に確率の低い、淡い期待だけれど、もし、この通りにサンジが来てくれれば。
どんなに人影があろうと、はサンジを見つけ出す自信があった。
“恋する女の単なる幻想、と笑います? でも本当のこと。私にとっては。
最初はね。明るい太陽の光の下だから、だと思ってたんです。あるいは、
思ったより強い、満月の月明かりの下だから、だと。
その光を受けて、あの蜂蜜色のサンジ君の髪が、キラキラと輝いている。
そう思っていたのですが。
どうやら違うみたいだと気がついたのは、サンジ君が日陰に入ったとしても、
建物の中に入ったとしても。
彼の回りが、キラキラと輝いて見えるのです。
幻想? 幻覚? まあ、グランドライン航海中の身ですから。
ウチの船長風に言えば、不思議光ってことで。
彼の… サンジ君の周りだけ、まるで光が爆ぜているみたいに。
例えばこれだけの人ごみの向こうにチラッとだけしか見えなくても、
それがサンジ君だと、一目でわかるくらいには、ね。”
前会計のセルフサービスのカフェ、という点はありがたかったが、それ故に、客は
自分が飲んだカップを下げ口まで持っていかなくてはならない。
だけどは、そのままカップを置き去りにしてしまったことに、通りに出てから
気がついた。
けれどまあいいわ、最悪の無銭飲食じゃないもの、とそのまま通りを目指すことに。
そう、上から見かけたサンジはこの辺りにいた―――
人ごみを縫うように進み、その場所へ。
その場所につき、また辺りを見回し―――
「サンジ君!!!」
「……さっきはごめんなさい。いきなり大声で」
向こう側の角を曲がろうとしていた背中に、慌ててかけた声。
やっと見つけたのにまた見失うことになるのかと焦ったのか、かなり大声に
なってしまったのを、が謝った。
「いいや。 会えて嬉しかったし、それに……」
通りから外れた、入り江に向かう路地。メリー号を停泊させているそこに
向かう二人、先程見つけたサンジは買出しの帰りだったようだ。
左右の手にいくつもの袋を提げ、さらにその手で紙袋を抱えている。
“手伝いましょうか?”と申し出たに、“とんでもない”とサンジ。
両手で丁度バランス良く持てているから大丈夫だと、笑っていた。
「あんな大声で、さ、俺のコト呼んでくれて。結構必死に俺のコト捜してくれてた
のかな、なんて」
……っ。
「もしそうだったら、すげェ嬉しいな。今はまだ買出し途中だけど、この荷物メリーに
置いたら、ちゃんのコト捜しに行こうかな、なんて思ってた」
そう言って、サンジは笑った。
“……もしかして。
これはひょっとして、チャンスですか?
私がサンジ君を捜してたとしたら、すごく嬉しいって。
それどころか、買出し終わったら私のこと捜しに行こうとしてたって。
それって、私と同じじゃない? ってことはつまり…… そういうこと、
なんですか……?”
「今回の上陸中は、何でかさっぱり会えなかったかろ? そしたら、無性に
寂しくなっちまった。航海中は、毎日会えてたのにさ。
朝一番にいつも、ちゃんは来てくれてた。ちゃんと過ごす朝の時間……
アレ、ものすごく貴重だったんだなって、今回の上陸で思い知ったよ」
―――…………
「私も、よ…」
ドクン、ドクン……。
ちょっと声も、震えていたかもしれない。
「私も、あの朝の時間。あれがないと、一日が始まらないの。朝一番にサンジ君に会う。
そこから、私のいい一日が始まってたのね……」
サンジの隣で、同じように並んで歩きながら。
最初の第一声は震えていたような気がした声も、今は少し落ち着いてきた。
「サンジ君、いつも朝の時間に一杯、飲み物淹れてくれるでしょう。そのときに“今日一日が
ちゃんにとっていい一日になりますように”って言ってくれるよね。
……サンジ君に、そう言ってもらえたら。それだけでその日がいい一日になるの」
「私…… サンジ君が、好き」
言うなら、今。
きっと今を逃したら、もう言えなくなるに違いない。そしたら次のチャンスはいつ、
巡ってくるの。
最初にそう決めた時は、飛び出そうだった心臓も話しているうちに落ち着いてきたし、
声の震えも止まった。
だから今が、一番のチャンス。
「……ちゃん」
そのチャンスを逃さずに想いを伝えた。
何か比喩の効いた、気の利いた言い回しなんか知らない。
ただただ率直に、その想いを伝えた。
「俺が毎朝、ちゃんに言っていた例の言葉。それはもちろん、ちゃんにそうなって
ほしいから言ってたんだけど」
そうしたらサンジが。徐に、話しだした。
「言えなかった昨日今日。俺はその言葉を、自分に向かって言ってみていた。
“今日一日が俺にとっていい一日でありますように”ってね。
……効果の程は、ちゃんが知ってるとおり。イヤ、それ以上かも知れねェな」
……え?
ぱっ、とがサンジの方を振り向いた。
そうしたら、丁度こちらを見ていたサンジと、目が合った。
にっこり、優しく微笑んだサンジが言う。
「今のちゃんの告白で。今日一日は、俺にとって本当にいい一日になったよ。
ありがとう、ちゃん、」
俺も、同じ気持ちで貴女を想っている。 と、そう言ってくれた。
「強いて言えば。……この手が荷物で塞がっていなかったら、今すぐにでも
貴女を抱きしめてあげられるのになぁ。そしたらもっともっと、最高な日になった
のによ、そこだけは残念だ」
おどけた調子でそうぼやくサンジと、そのサンジの言葉と様子に、くすくす笑うと。
「ね、メリー号に戻ったらカフェオレ、淹れてくれない? この二日間、色だけしか一緒
じゃないカフェオレばっかりだったのよ」
「それはそれは。それじゃあ早く戻って極上のカフェオレ、お淹れしましょう」
足取り軽く、二人はゴーイングメリー号へ、戻っていった。
“好きな人が、います。
誰よりも、誰よりも、好きな人が。
その人は、私と同じく海賊・麦わら一味の一員で、料理人で、
……私の、恋人です。”
<fin.>
クミィちゃん! えらくお待たせして、ごめんなさい。
古(震 に貰っていたキリリク…
4422HIT「サンジに告りたい!サンジに片想いしつつ…やっと告白しちゃいました!
そしてサンジ受け入れてくれました! 最後にはハッピーエンド。」 ようやくあがりました!
イヤ、もう、ホントにいつだろ……。
永い事(もう「長い」どころの騒ぎじゃない)お待たせしてしまった挙句、何だか妙に長いし(汗
遅いわ短くまとめられないわで、ホント申し訳ありません。
でもリク内容には沿うように、結構がんばってみた痕跡は汲み取ってくださると嬉しいです。
これからも末永くお付き合いの程を。あ、呆れないでー!どうぞよろしくお願いします。