“サ、サンジさん”
“何? ちゃん”
“あの… 明日の予定、空いてますか?”
“明日? うん、特には… 空いてるよ、大丈夫”
“じゃああの、明日付き合ってもらえませんか? 一緒に… 行きたいとこ、あるんです”
“OK、いいよ。じゃ、明日はちゃんとデートだ”
そう言ってサンジさんは、笑ってくれた。私の大好きな、その笑顔で。
<white rose>
「うわあ… 結構混んでますね…」
今日は昨日の約束どおり、サンジとデート。
“お迎えに上がりました、レディ・”
約束の時間はPM1:30 。
その丁度の時間に、女部屋のハッチが、コンコン、と音を立て、外からサンジの声が聞こえた。
“はいっ、今行きます”
はそう答えて、外へ通ずる階段を上がった。
“” 途中、ナミが外からは聞こえないであろう、小さめの声でを呼ぶ。
“がんばってね” ぐっ、と親指を立て、ぱちん、と右目をウインクするナミ。その向こうでロビンも微笑んでいた。
それには、かぁっと少し赤くなったけれど、こくん、と頷いた。
ハッチを開けると、そこにはサンジが。
にっこり笑い、差し出される手に、はそっと自分の手を重ねる。
その手を握られ、最後はサンジに導かれて階段を上りきる。
“ありがとうございます”
が礼を言うと、これくらい当然さ、と微笑むサンジ。
“それにしても嬉しいな、わざわざ”
“え?”
“似合ってるよ。その服。さっきまでのワンピースもかわいかったけどね”
少し早めの昼食の後、約束の時間に備えて。
普段着のワンピースは脱いで、そのかわりに。
昨日のナミとのショッピングで買った、白いサマーセーターに落ち着いた朱色のロングスカート。
口紅も、スカートにあわせて、オレンジ系のを買ってみた。その上にグロスを重ねて。
そして髪も。
さっきまではそのまま、何もしていなかったけれど、今は左に寄せ、さっくりと三つ編みにして、
赤の細いリボンで留めた。
“うん… 綺麗だ。光栄だなあ、これから今日一日、こんなに素敵なちゃんと過ごせるなんて”
“そんな… サンジさんだって。私にはもったいないくらいです。忙しかったでしょうに、わざわざ…”
そう、が言うとおり。
サンジも、さっきまではシャツ一枚だったのが、今は、きちんとスーツを着て、ネクタイも締めている。
しかも、シャツの色は、さっきまでのと違う。
どうやら、お互いさま、ということで。
サンジと、くすっ、と顔を見合わせて微笑うと、“行こっか”とゴーイングメリー号を後にした。
そして着いたのは、この島一番の繁華街のストリート。
また、今日は休日。
それだけに、にぎやかな人出で、かなり混んでいた。
「いい?」
ストリートの入り口で、サンジがそっと、の手を握ってきた。
「これだけの人出だからね、はぐれたらいけないから。だめかい?」
もっとも、どれだけの人出だろうと、俺は、ちゃんだけは見失わないけど。
見失っても見つけられる自信あるし、な。
そう言ってサンジはまっすぐ、を見る。
―――わ…。
そんなふうに見つめられたら。そんなこと言われたら。
どきん、と胸が高鳴る。握られた手も、かあっと熱い。つられて頬も赤くなってるんじゃないかしら、
と思う。
けれど振りほどくなんて、もちろんできない。
「…いいです。このままで」
がそう言うと、よかった、なんて言ってにっこり笑ったサンジが。
「行こうか」と言い、ストリートに入っていく。
――今更だけど。夢みたい…
目的地はストリートの奥にある、ティールーム。昨日、ナミとショッピングに来たときに見つけた。
“あら、いい感じの店じゃない。残念、さっきお茶したばっかだもんねー”
外から覗いた感じでは、カントリー調のかわいい感じ。
外に出ているメニューも、紅茶の種類もけっこうあったし、ケーキも美味しそうだった。
“いいなぁ。明日また来ようかな…” がメニューを見ながら呟いた。
“そうねえ… “でもどうせなら、ナミとじゃなくサンジさんと来たいわ”” 横から呟かれた声にぎょっとすると、
そこにはナミが。
“ナ、ナミ、何言って…” かあっ、と赤くなったににん、と微笑ったナミが。
でも図星でしょう、なんて言っている。
“さ、そうと決まったら明日のサンジ君とのデートに着てく服、探さないとねー”
“デ、デートなんてそんな… まだサンジさんに何も言ってないし、第一来てくれるかもわからないのに”
“なーに言ってんの。他ならぬが誘うのよ、サンジ君がOKしないはずないじゃない。
そうと決まったら、さ、服選びよー”
何故か張り切るナミに、引っ張られるように、昨日はその店をあとにした。
そして今。
ここは一昨日から停泊している島の繁華街。
ログが溜まるのに一週間はかかるらしいから、まだ慌てて出発準備をする必要もない。
ならば大丈夫かな、と思って、昨日の夕飯の後、思い切って聞いてみたら。
“じゃあ、明日はちゃんとデートだ” 満面の笑みで、サンジがそう言った。
――私… 今サンジさんと、デートしてるんだよね…
しっかりと繋がれている手。
隣で、自分の歩調に合わせて歩いてくれる男は、まぎれもなくサンジその人で。
「ちゃん」
呼びかけてくれる声も、微笑みかけてくれる顔も。
「サンジさん」
そう。サンジなのだ。
ずっとずっと、サンジが好きで、好きでたまらないにとっては、夢みたいな今の状況だけど。
夢じゃない。
だって… サンジさんは、ここにいるもの。ちゃんと。
「……あれ?」
でも、やっぱりには夢見心地だったようで。
「ね… サンジさん、さっきここ通ったよね…?」
目的の店は、実はメインのストリートにあるわけではなくて。
メインストリートから、横に入って1、2回曲がったような場所だった。
この島へは一昨日着いたばかりで、このストリートだって、そりゃ少しは裏通りも通ったが、
昨日ナミと一度、来ただけだ。
しかも目的の店は偶然見つけたようなものだから……
でも行けば何とかなると思って来てみたのが甘かったのか。
まあ急いで行く必要もないし、と道々、ウィンドーショッピングしながら、気になる店があったら
寄りながら行った。
同じものを見て、話して、笑いあって。それはそれで、すごく楽しかったけれども。
なかなか、目的のティールームに辿り着かないのだ。
―――もしかして、迷った…?
さっきから何度か、同じ横道通ってる気がする。
それに気づいたのは、今見えてきた花屋。先程サンジと共に綺麗、なんて言いながら立ち寄った
花屋だった。
「おっかしいなあ…」
そう呟きながら、なんとなく三つ編みの髪に触れて。
「あ…」
「どした、ちゃん?」
「サンジさん… リボン、落としちゃったみたい」
三つ編みの髪は、一度ゴムで留めてから、上にリボンを結んでいた。
なので三つ編みが解けたわけではないし、鎖骨の少し下くらいの長さだったので、いつのまにか
リボンが解けてしまっていても気がつかなかったのだろう。
「……」
何だか。
別にお気に入りのリボン、とかではないけれど。
ずっとしまってあって忘れてたのが、昨日、買ってきたアクセサリーをしまおうとしたとき、偶然出てきた。
“あら、そのリボン、さっき買ったスカートに合うんじゃない?” ナミにそう言われて、試しに着替えて
結んでみたら本当、よく合っていたので、今日、結わえてきたのだけれど…。
―――どうしよう……
そのリボンはとれちゃうし、お店は見つからないで、さっきからただ、サンジさんを引っ張りまわしてる
だけになっちゃってるし…
「ちゃん」
下を向いたに、サンジが呼びかけた。
「ちょっとこっち、来てくれないか?」
「え?」
「すぐそこだよ。ね」
サンジはそう言ってにっこり笑って、を連れて行く。
「ここだ」
そこは、さっきの見えてきた花屋の角から入った横道のアクセサリー店。
やはりここも、先程サンジと一緒に立ち寄って、ウィンドーショッピングをした店だ。
「ちゃん、ちょっとこっちに…」
サンジが呼んだのは、しかし店内ではなくて。入り口横の、ワゴンの方だった。
「うん… やっぱりな。うん」
そのワゴンの中に並んでいた一つの、花。
それをの三つ編みにあわせ、一人納得したサンジが、“ちょっと待っててね”とそれを手に、
店に入っていく。
少したって、出てきたサンジが“ちょっと失礼”との三つ編みを手にとって…
「さ、できた。見てごらん」
そ、と優しくの肩に手を添えたサンジが、ワゴンのアクセサリーと共に飾られた鏡に彼女を向かせる。
そこには、なくなったリボンのかわりに、真っ白な花が咲いていた。
「さっきこの店に来たとき、ずっと気になってたんだ。この薔薇、きっとちゃんに似合うだろうと思ってさ。
案の定だ。よく似合う」
サテンとレースで作られた、真っ白の薔薇。茎の代わりに、ゴム紐のついた、ヘアアクセサリー。
「いろいろ色あったけど、やっぱり白が一番いいな。ちゃんの可憐さがよく引立つ。
……リボンはなくなってしまいましたけど、これで笑顔に戻っていただけますか、プリンセス?」
「……はい!」
そう言ったサンジに振り向いたは、にっこり笑って頷いた。
「ありがとうございます。あの、サンジさん…」
がバッグから財布を出したのを見たサンジが。
「ああ、いいよいいよ。ちゃん、俺は貴女の笑顔が見たかっただけだから」
そう言って、笑う。
「お代は、その笑顔ってことで。ちゃんには、いつでも笑っていてほしいから。
せっかく笑顔が似合うんだから、暗い顔しちゃいけねェよ。
その原因を俺で取り除けるなら、何だってしてあげたいんだ」
そう言われて、とくん、との胸が高鳴る。
―――ああ…
自分の胸の中に、じんわり広がる温かい気持ち。
リボンをなくした、どうやら道に迷ったらしい、さっきからずっとサンジを引っ張り回して同じとこ歩いてるだけ……
そんなことで、さっきまで暗くなってきていた気持ちが、跡形もなくどこかに吹き飛んだ。
そう、これよ。これ。
「サンジさん。本当にありがとう。それと、ごめんなさい、お店見つからなくて、引っ張りまわしちゃって…」
「いいさ。気にしないで。俺はちゃんとずっと居れて、楽しいし、嬉しいからな。店はゆっくり、探せばいい。
さ、いこっか」
そう言ったサンジが、す、と腕を出す。
「せっかくのデートだしな。手繋ぐのもいいけど、こういうのもどう?」
そう言うサンジに、素直に頷いたは、その腕に自分の腕を絡ませた。
そうしてまた、二人で歩き出す。
「サンジさん…」
歩き出してみても。
サンジの腕に縋ったには、ふわふわと夢見心地、まるで雲の上を歩いているみたいで。
先程通ったはずのこの道も、全く違って見えるくらいに。
でも、サンジから向けられる優しい視線も、心地よい声も、ずっと変わらなくて。
より身近に感じる、隣の男(ひと)の存在が。
「好き…」
「うん。俺も」
――え?
はっとして、がサンジを振り返る。
「サンジさん」
「ん?」
「私、今何か言いました?」
真剣な目で自分を見上げて問うに。
「……ああ」
俺の名前呼んで、その後、“好き…”って。
嬉しそうに、サンジは言った。
「…やだ、私ったら…… ごめんなさい、サンジさん」
慌てて謝るに。
「どうして謝るんだい?」
「だって、こんな町中で… それに心の中で呟いたつもりだったのに…」
かああ、と真っ赤になる。
くすっ、と微笑ったサンジは彼女がこちらを振り向くときに、思わず解けてしまった腕を再び絡ませる
かわりに。
そっとその肩を抱き寄せて。
「……思わず声に、出ちまったってこと?」
そう囁くように言った。
「……」
そのサンジの言葉を受けて、は、こくん、と。頷いた。
「そっか… ところで、ひとついいかい?」
サンジは肩を抱いた彼女を、す、と目の前の店と店の間の小路地に誘う。
そうして少し行ったところで、彼女の真正面に立ち、まっすぐに彼女を見て。
「そのちゃんの呟きに… 返した俺の言葉。ちゃんと聞いてくれた?」
「え……?」
“好き…”
“うん。俺も”
―――!!
急に見開かれたの瞳に、よし、と確信したサンジは。
「あまりにもあっけなく言っちまったし、謝られた時にゃ聞き流されたか、ってヒヤリとしたけど。
……よかった、ちゃんと聞いてくれてたんだな」
そう言って、安心したような笑顔を見せた。
でも、もう一回。ちゃんと改めて。
「ちゃん」
彼女に、この気持ち。伝えよう。
「笑顔の似合うかわいい貴女も。白い薔薇が似合う可憐な貴女も。俺を引っ張りまわした、って気にする
優しい貴女も。
心の呟きがそのまま声に出てしまう、素直な貴女も。みんなみんな、全部ひっくるめて。
ちゃん、俺は、貴女に夢中なんだ……」
そう言って、サンジはを抱きしめる。
至近距離で見つめた後、その唇に触れた―――。
そして、離れた後。サンジは彼女に、想いを伝えた。
「愛してるよ」
同じ言葉を、が返したのは、言うまでもない。
<fin.>
はい、お疲れさまです。ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。
このお話は、「キミノトナリ。」クミィ様に捧げさせていただきます。
祝・サイトお引越完了、祝・お誕生日、祝・相互リンク、祝・六万打ヒット…。
前半ははっきり言っていつの話よ、てな感じで、延び延びで、今頃になってしまいましたが。
これだけ、クミィ様をお祝いする事柄が続いたので、こりゃあ何か一つ書かねば、と書かせていただきました。
いかがでしょう、こんな感じで。こんなのでもよろしければ、ぜひ貰ってやってください。
これからも、宜しくお付き合いの程を。
親愛なるクミィ様へ。 葉月夕子より、愛を込めて。