いつか再び出逢える日なんて。
本当に来るの?
<clamshell 〜 engagement ring>
仕事から帰ってきて、家に入る前に郵便受けを覗いて。
今日も空っぽの中身に、はため息をつく。
便りがないのは、元気な証拠。
海賊の航海なんて、普通の航海とはわけが違う。
普通は味方で助けてくれるはずの海軍は敵だし、逃げなければならない相手だし。
他の海賊とやりあうことだってあるかもしれない。それに賞金稼ぎだって……
それになにより、このグランドラインを航海しているのよ?
手紙なんか、書く暇あるわけないじゃない。
彼は今日も、きっとこのグランドラインのどこかで。
夢に向かって、着実に進んでいる。
……もっとも、彼に何かあっても私に連絡がくることがあるだろうか。
―――サンジ……
一人暮らしの静かな部屋。
昼間は賑やかな町で、大勢の客に囲まれて、綺麗な花に囲まれて。
だから余計に、身にしみる静けさ。
その静けさは、落ち着ける自分の部屋でもあったけれど。
彼を思い出してしまった今は、身にしみる静けさで。
出逢いは偶然。
惹かれたのは必然。
でも、偶然などではなかったのかもしれない。
町で評判の、花屋の看板娘の。
海で自由に夢を追う、海賊のサンジ。
普通に考えて、この二人のどこに偶然の出逢いが、惹かれる要素があったのだろう?
その二人が出逢い、惹かれ合ってしまった。
それは、偶然などではなかったのだと… 必然だったのだと、そう、思う。
思いたいだけなのかもしれないけれど……
“ねえ、ちゃん。二枚貝ってさ、互いに対になってる殻としかぴったり組み合わないって、知ってる?”
この島に滞在している間、サンジは夕方、花屋が閉まる頃には外で待っていてくれ、この家まで送って
きてくれた。
最初に送ってもらった夜、“上がっていって”と自然に口を付いて出たの言葉。
このまま別れたくなくて、少しでも一緒にいたくて。
次の日には花屋の後、二人で買い物をしての家で夕飯を作って食べた。
そしてそのまま……
明くる朝、が花屋に行くときに、二人で一緒に家を出て。
夕方、花屋が閉まる頃にはまた、サンジが待っていてくれた。
そんな生活も、そろそろ終わりを迎えようか、という頃に。
その日の夜は、蛤のクラムチャウダーをサンジが作ってくれた。
“そうなの?”
“ああ。試しにそこに残ってる蛤の殻、あわせてみてごらん。違うペアのヤツと”
同じような大きさの殻。イメージだって蛤の形ってこれだけだし、ホントに合わないものなの?
そう思って、二人で食べた後の蛤の殻を、ざっと水で洗って組み合わせてみた。
……あれ? これは? でも…? ホントに? 違う? 合わない???
“な”
いつのまにか真剣になって蛤の殻合わせに夢中になっていたの傍に、サンジが来て言う。
“互いに対の殻でしか、ダメなんだ。他のヤツとは、絶対組み合わない”
サンジはそう言って、一組の蛤を閉じ合わせる。
すると他のとは微妙に大きさや形が違って合わなかったのに、閉じ合わせた一組はぴったり重なった。
……少し考えれば当たり前のことなんだけど。ぴったり組み合わさった二枚を見て、ちょっと感激したんだ、
その時の私……
次の日の朝。
いつもは一緒に起きて支度して出て行くはずのサンジが、まだかなり早い時間に起き出して極力静かに
支度して出て行った。
とても静かに、極力音を立てないように、彼がしていたのがわかったから。
離れていったぬくもりに、本当は気がついていたけれど。目を閉じたまま、寝たふりをした。
彼が去った後、急いで起きたは、テーブルに残された物に気がついた。
『 へ
もう一度面と向かったら、無理にでも連れて行きそうだったから。
君には君の、ここでの生活がある。俺には俺の、行く道がある。
黙って出て行く俺を許してほしい。勝手な言い分だとわかっているけれど…
実は今日、ログが溜まって俺たちは、この島を出る。
だから、今日はもう迎えにいけない。
けれど、またいつか。
俺はもう一度、の所に戻ってくるから。あの花屋に君を迎えに行くから。
昨夜話した蛤の話、憶えてるかい?
蛤は、対になった互いの殻でしか、ぴったりかみ合わないこと。そのことから、蛤は絆のシンボルって
言われているんだ。
一組の蛤を、一枚ずつ。持っていれば、離れていても引き合う蛤の“絆”の力で、きっとまた逢えるから。
だからこれを、持っていてほしい。
いつかもう一度、出逢える日のために……
サンジ』
そんな手紙と、綺麗に洗われた蛤の貝殻の片割れが置いてあった。
ベッドの枕元に置いてある箱。今はその中に、貝殻と手紙は、大切にしまっている。
けれど、こんな夜には。
そっと箱を開けてしまう。
「ねえサンジ」
最後の最後。手紙の中で初めて、“ちゃん”から“”と呼んでくれた貴方。
私も、いなくなってから。初めて、“サンジさん”から“サンジ”って呼んだ。
「怪我してない? 病気してない? 元気でいる?」
箱の中の手紙を握り締め、胸に当てる。
「今でも、夢追ってる? オールブルーの手がかり、あった?」
彼は海賊。知ってしまっても… 好きになってしまった。愛してしまった。けれど……
「もうすぐ…、 私、誕生日よ」
ほろっ、と零れた涙。
一度、溢れたら止められない。
「サンジ……」
それは、気持ちと一緒。
叶わないってわかってるけれど、願わずにはいられない。
「逢いたいよ… 逢いたい… サンジ…」
小さい嗚咽と、切ない声が。
静かな部屋に、響いていた。
「留守番… ですか?」
明くる日、店に行ったら。
店のおかみさんに頼まれた。
何でも所用で、別の島まで出かけなければならない、という。
本当はまともにログを辿ったら四つ五つ、島を越えていかなくてはならない。
それぞれの島でログが溜まるまでの滞在期間もあわせると、五ヵ月はかかる島であるが。
エターナルポースを持つ定期便に乗れば、一週間ほどで着く島だという。
そこで用事を済ませて帰りも一週間……、二週間と二・三日の間、一人で店を切り盛りしていてほしい
ということだった。
明後日から、おかみさんはそれに出発する、という。
―――…明後日から、一週間で… ここから五ヵ月、かかる島につく……
「あの、おかみさん。どうしても頼みがあるんですけれど」
そうして今、は。
店のおかみさんの所用に付いてきて、この島にいた。
“もし。明後日までにお店のお花、全部売り切ることが出来たら。私も、連れてってください。その島に”
あの日から、明後日と一週間後の今日は。
の誕生日だった。
が、あまりに熱心に頼んでくる様子に、おかみさんも全部花を売り切るのを条件で、ついてくるのを
許した。まあ花が売切れてしまえば留守の間くらい店を閉めてもいいわけだし、普段よく店を手伝って
くれて、自分もかわいがってるが、ここまで言うなら、と。
自ら率先して花を売りさばいてくれたおかみさんに感謝しつつ、この島に来た。
おかみさんが自分の用事をすませに行っている間、は―――
『一組の蛤を、一枚ずつ。持っていれば、離れていても引き合う蛤の“絆”の力で、きっとまた逢えるから』
手に握り締めた小さな袋の中には、あの蛤の貝殻。
今日は私の誕生日。
サンジと出逢って、離れて、約半年―――
少し、ずれているけれど。
でも、海賊の航海なんて、何がどうなるかわからない。
もしかしたら。うまくいけば、もしかしたら―――
もし。
もし、蛤の貝殻の片方が、もう片方を呼ぶのなら。
「……?」
私のあの人を―――
「サンジ……!」
連れてきて―――
港へと続く坂道で。
互いの存在を認めた二人は。
「逢いたかった…… !」
どちらからともなく、手を伸ばし。
互いに互いを抱きしめて。
唇を重ねあった。
「どうしたの、ったら。やけに嬉しそうじゃないか」
帰りの船の中、おかみさんがに話しかける。
「おや、綺麗な指輪だねぇ」
嬉しそうなの、右手の薬指に光る、プラチナの指輪。
再会を喜び合い、離れていた間の想いのたけを―――
寂しかったこと、悲しかったこと、辛かったこと、心配だったこと……
そのせいで、眠れない夜も、泣き明かした夜もあったこと。
でも今は、それ以上にほっとして、嬉しくて、満ち足りてて、幸せで―――
そしてそれらは全て、この気持ちの上で成り立っていることを。
『サンジ。好きよ。愛してる―――あの頃から、ずっと。今でも』
『俺もだ。あの頃からずっと、一日たりとも・一瞬たりとも、を忘れたことはねェ―――
なのに、手紙の一通も書けずにすまなかった。
俺の愛しのプリンセス・。―――誕生日、おめでとう』
今日、この日に貴女がこの世に産まれて来てくれた事に。
今日、この日に再び、貴女に逢えたことに―――
多大なる感謝と、喜びを。
サンジが、今も肌身離さず持ってる、と、スーツの懐から出したのは、蛤の貝殻。
も、手に持っていた袋から蛤の貝殻を取り出し―――
今、二枚の貝殻はぴったりと重なった。
今日の日を、生涯忘れない日にするために。
いつか俺がオールブルーを見つけて、幼い頃からの夢を叶えたら。
半年前から見始めた、もう一つの夢を叶えるために―――
「ありがとうございます。この指輪は―――」
私たちの未来へと続く指輪、なんですよ。
この上なく笑顔のは、本当に幸せそうで。
“おや、まあ” と。そんなの言葉と表情に、そして滞在中、本当は同じ宿にも一緒に泊まる
はずだったのを、“すみませんが別のところに”と謝りに来た彼女を少し離れた後ろで待っていたのは、
半年前、彼女の仕事上がりを毎日、店の前で待ってた青年だったことに、何かを察したおかみさんは。
「幸せにおなりなさいよ」
そう言って、の肩をたたいた。
次に貴方が迎えに来てくれるときは。
その時こそ私は、貴方とともに―――
<fin.>
3232hitキリリク、様に捧げます! clamshell 〜 engagement ring 。
「切ない感じ。離れてて・・逢えない辛さを頑張って耐えて・・最後にはハッピーエンドvv」
ということでした。そして過ぎてしまったのですけれど、お誕生日おめでとうございます!
とのことで誕生日も絡めて… みましたが……
なんていうか、こう… 全体的に見て、荒削りのツッコミ所満載な少女マンガみたいで、
すみません!!!
一応、リクに添えるようがんばってみましたが。
その結果がこれでした。お粗末さまです。
おまけにタイトル…… ネーミングセンスのなさとネタバレ感がひしひしと……
リク、ありがとうございました! これからもどうぞ、よろしくです。