「ねぇ、」
「……」
「ってば」
「……」
学校終わって家への帰宅途中。
友人と寄ったファーストフード店の片隅で。
「ねぇ、いいじゃない、教えてよ」
聞かれるはうんざりと、向かいの友人はわくわくしながら、と対照的な表情で。
「ねえ、誰? の好きな人」
[あの時何かが始まった]
―――んもう、しつこいなあ……。
放課後、学校の帰りに寄り道するのは楽しい事。
小腹も空く頃だし、今日から発売の新ネタバーガーをいち早く味見したかったし。
友人との他愛ないお喋りも楽しかった。
……話題が、これでさえなければ。
どうして皆、こんなに恋愛話が好きなのかねぇ。
否、ヒトの事言えませんけど。
私も、自分に振られるんじゃなきゃ、他のコの恋愛話聞くの好きだもんね……。
この友人の恋愛話は、主に自分の事。
自分と好きな先輩の事、そしてその先輩に告白した事、今はめでたく先輩の彼女になれた事。
そして今では、その先輩とどうしたこうした、そういう話ばかりだった。
だが、今日に限っては。
「いつもいつも私が話してばかりだもんね、今日は私が、の恋バナ聞くよ」
なんて言い出したのだ。
「えー…… ちょっと待ってよ、何で」
「何でって…… だっていつもいつもには、先輩に片想いしてた頃から聞いてもらってた
じゃない。その割にはの恋バナって聞いた覚え、なかったなーって思って。
いつも私だけが一方的に喋って悪かったなって思ったの」
そう言って彼女は切り出してきたのだ。
には誰か、好きな人いないの、と。
そうは言われても、はた、と困った。
そう、実は……。
「えー、いない!? ウソ、何で!?」
「イヤ、何でって言われても……」
いないものはいない。
そうとしか言えないではないか。
「イヤ、おかしいわ。、あんたウソついてるでしょ?」
「は?」
「だって女子高生たるもの、好きな男の一人や二人くらい、普通いるでしょ!?」
否、普通は一人なんじゃないですか。二人ってそれじゃ二股でしょ。
じゃなくて。
「んなこと言われたって、いないものはいない……」
「んもー、隠さなくっていいじゃない。ね、誰? の好きな人」
「……」
―――そりゃあ、私だって恋愛に興味がないってわけじゃないけど。
テレビや本でも恋愛物のドラマや小説も好きだし、友達の恋バナにだって興味あるし。
でも自分自身の事となると……
そうしてだんまりになってしまったに、何とかして聞き出そうとする友人、という今の図に至る。
「ねー、いい加減いいじゃない、教えてよ」
「……」
「ココだけの話にして、内緒にしとくからさ」
「……」
―――いい加減、ホントしつこいなぁ。これは………
「――――」
「え?」
「だから、彼よ。私の好きな人」
「えー!?」
から告げられた人物の名が予想外だったのが、友人が驚いたような声を上げる。
そんな彼女を見ながら、はストローに口を付け、シェイクをすすりつつ。
―――ごめん。貴方の名前、借りました。
あまりにも友人の追及がしつこくて、うんざりして。なんとかこの話題、切り上げたい一心で、
つい、ね……
としては、しつこい友人の追及を退けるために挙げた彼の名前。
よく女子の間でも話題になり、おそらく人気ナンバー1。
だから当たり障りないだろう、そう思って挙げたのだけれど。
「うーん……。でも意外だわ、が彼を、ね……」
そう言いながらナゲットをつまむ友人。
「でも人気あるわよ、彼。クラス違うってのに、ウチのクラスにも彼の事好きって言ってるコ、
いるもん。あと部活の後輩にも」
「そりゃあ、ね。有名人だし」
「何、ってばソコに惹かれたの? 意外とミーハー?」
「あのね、そんなワケないでしょう!? どんな理由よ……」
そりゃ確かに、ホントはそうじゃないのに好きな人、として挙げてしまったから適当な理由で
いいのだろうけど……
それはあんまりにもあんまりじゃない? ミーハーって……
「でもほら、彼にはもうわがクラスで公認の彼女がいるもの、幼馴染の。だから私の出る幕はナシ、
これにて私の恋バナ終わりっ」
「見てるだけでいいってヤツ?」
「そ。その通り」
ミーハー発言には少し、ムッとした。
だいたい、メディアに登場している時の彼は明らかに、それ用にキャラクター作りをしているように、
には見えていた。
日本警察の救世主だか東の名探偵だか、よくわらないけれど、それに合わせたようなキャラクター
作り。
けれどクラスにいる時の彼はそんなのじゃない、もっと自然体で普通で、身近な感じがして。
だから私は、その方が…… って。
あまり長く話してツッコまれると対処が難しくなるから、はここで、この話題を終わらせる事に
した。
「せっかく同じクラスなのにねー」
「同じクラスだからこそよ。余計な波風は立てたくないの。わかった?」
そう。確かにそう思っていた、その時までは。
でも、その日の夜。
「あ、そういえばこのコ、と同じクラスよね」
夕食後、リビングで新聞を読んでいた姉が顔を上げて声をかけてきた。
「うん?」
そのまま通りすがり、自分の部屋に戻ろうとしていただが、姉の傍で紙面を覗く。
新聞では先日、迷宮入りしかけた事件が無事解決したこと、事件のあらましから解決までと、
それに一役買った高校生探偵の写真とインタビューが。
「工藤君……」
すごいわよねー、まだ高校生で次々と事件解決しちゃって、と話す姉の横で、は
その記事を熱心に読んでいた。
「お姉ちゃん」
「ん?」
「これ…… 工藤君の記事、もらっていい?」
「んー… いいんじゃない? たぶんお父さんもお母さんも今日の新聞読んだと思うし」
うん、ありがとう、と言うとは、はさみで丁寧にその記事を切り取ると、自分の部屋に
持って行った。
ていうか、ねぇ、。
その記事、事件の記事であって、別に工藤君の記事じゃないんだけど。工藤君へのインタビューは
その一端でしかないんだけどねぇ……。
部屋に戻る妹の後姿を、そう呟きながらにんまりと、微笑って姉は見送った。
そう、が好きな人、として挙げたその名は「工藤新一」。
そのときはその場しのぎのつもりだったはずなのだけれど。
翌朝、学校に行って。
“よぅ工藤、昨日新聞見たぜー” なんて話している男子たちの中、その中心にいる新一が
目に留まった。
普段ならそれだけ、別に何とも思うこともないけれど。
クラスメイトに囲まれたその自然な笑顔に、ドキっとした。
やがて教師が入ってきて、授業が始まる。
そうすると生徒は皆、自分の席に座るのだが、は、自分の席から教壇に立つ教師を
見ようとすると…… その対角線上に、自然に新一がいることに気がついた。
それからは、授業中が目にするものは、教科書とノートと、黒板と教師と……
自分より前の席の対角線上にいる、新一の後姿。
―――そう。着実に、の中で何かが始まりつつあった。
「……つまり、は暗示にかかりやすいタイプってわけか?」
その後、紆余曲折を経た現在。
は、新一と付き合っている。
「好きなヤツ、としてオレの名前挙げたその時から、ってわけだろ今の話だと。
ってことは “好きなヤツ=工藤新一” って一旦思っちまったらそのまんま……
いわば自己暗示、ってワケだ」
「う…… うるさいな。だいたい新一が知りたいって言うから、話したんじゃない
新一を好きなったきっかけ。
それを聞かれて話したところだった。
「……確かに、きっかけはそうかもしれないけど、でも、今は。今は、ちゃんと、新一のコト……」
かぁぁ、と赤くなったカオを見られたくないのか、下を向きつつも聞こえるか聞こえないかの
小さな声でそう言う。
そんな様子を見ていた新一はその声が聞こえたのか、フッと微笑うと言った。
「でも、だったらオレは運がよかったな」
「え?」
「だってよ。もしそこでが、オレじゃなくて別のヤローの名前挙げてたら、ソイツを
好きになっちまってたかもしれないだろ。そしたらオレ、それで失恋決定じゃねぇか」
「んー、そうかもね、新一がそう言うならそうかもね」
「ところがは、オレの名を挙げた。その時までは何とも思ってなかった、オレの名をな。
それは単なる偶然にすぎない。けどその結果が今なんだぜ?」
そう言って新一は、真向かいからそのソファ、の隣に移る。
「な。とっては偶然、たまたまだっただろうけど、オレにとっては極めて幸運な話だ」
「し…… 新一?」
新一の両手が、の両頬に添えられた。そのまま、新一がじっと、の瞳を見つめて
くる。
「。このままじっと、オレの目を見つめて」
「え?」
「そう、じぃっと…… じぃっと……」
そう言われて、言われたとおり、はじぃっと、新一の瞳を見つめる。
とても深い、吸い込まれそうな深い蒼色の瞳を―――
「“……は、工藤新一にキスしたくなる”」
徐に、新一がそう唱え始めた。
「“キスしたくなる。キスしたくなる。工藤新一に、キスしたくなる……”」
「………」
「……なーんてな」
ぱっ、とを放して新一が言った。
「こんなんで上手くいくなら、苦労はしねー……」
「新一」
やけに、落ち着いた声でが新一の名を呼ぶ。
あ? と振り返ったその彼の肩に。
徐に手をかけて、ぐぐっと身を乗り出してきた彼女は。
―――ウソだろ?
自分で仕掛けておいて何なのだが、新一はそう思ってしまった。
そう思いつつも、自分の唇に感じる、この柔らかで甘美な感覚は、まさに。
「はっ! 私今何を!?」
その唇が離れた後、が弾かれたようにそう言い。
ここが自分の家のリビングで本当によかった、と思う新一だった。
……さて、もう一回くらいしてもらおうかな?
<FIN.>
何か長いですねー、でも2つに分けるようなモノでもないかと思いこのままラストまで。
ご精読、ありがとうございました!
初新一夢、いかがでしたでしょうか。もしよろしければご感想などを。
……ところでさん、後でちゃんと暗示、解いてもらえたんでしょうかねー。ふふ。
「ち、違うもん!新一があんな事言ってからかってくるから、それに乗ったフリしただけ
だもん!」
新一「ほー、お前はノリだけであんな熱いキスができるのか? へーえ……」
「っ、そ、それは…… な、何、新一、その顔は? 何か企んでるでしょ、絶対!」
新一「いーや? 別に何も?」
「嘘だー! 絶対嘘!」