うー……。
昨日の今日やし、何となく顔合わせづらいかな……
和葉にも、服部君にも。
[貴方の隣に]
しかしのその思惑は杞憂だった。
“おはよう” と朝の挨拶はむしろ和葉の方からしてきた。
休み時間には “そうそう、昨日のテレビ見た?” といつもの雑談から、 “今日のリーダー、
和訳してきとる?” に始まって、次の時間の宿題や予習を見せあったり。
“一こ、わからんとこあった” なんて言いながら辞書を引いていたら “何や、まだそんな事してるんか?
そんなんで次、間に合うんかー” なんて平次がからかい気味に声かけてきたり。
“そんなん言うんなら服部君教えてよ、得意でしょ英語” “せや平次、今日私当たる番なんよ” と
和葉と二人で食い下がってみたり。
いつもとかわらない、昨日までと変わらずに二人と過ごせた。
―――そりゃあ、意識しとるんは私一人だけなんやろうけどな……
今日は和葉は合気道の日。
なのでは一人で下校。けれど帰るにはまだ充分早い時間、そんな時には良く立ち寄る場所が
あった。
今はそこに一人でいる。
“にとっては他人事やからな。平次の事なんか関係ないし”
いくらなんでも、言い過ぎやないの? 中学ん時からかれこれ、五年間つるんできた…… 友人、やで。
言った本人、含めてやけど。
“そないに、そないに服部君の事、信用しきれへんのやったら、私に譲ってくれない?”
こないな事、言うつもりなかったんやけどな。一生、自分の中になおしとくつもりやったのに……
和葉があんな事言うからや。しかも言った本人、気にもとめてへんのが、また……
……最も、和葉はこれが、私の本心やなんて夢にも思ってへんのやろうけど。おまけに……
“……っ! 何ボーっとしてんねん、死にたいんか!?”
最悪なトコ、服部君に見られてもうた。そりゃ、あそこで服部君に助けてもらわんかったら
死ぬトコやったけど……
―――気まずいのは、イヤなんやけどなぁ……
ふう、とはため息をつく。
最も、どうやら気まずい思いをしているのは一人だけらしいから、が昨日の事を忘れて
しまって今までと同じく振舞えば、それですむ話のようだったが。
……それができひんから、こうやって気まずい思いしてるんやんか……
「……んで? ココはそないな風に、寝るトコやあらへんで? サン?」
「……!」
何となく、隣の椅子が引かれた気配がしたと思ったら。
耳元で囁かれた、こんな声。
「服部君!?」
「んも〜、恥ずかしかったわぁ」
“服部君!?”
がばっ、と挙げた顔、上げた声。
っと、途端に少し痛い周りからの視線、それに気付き慌てて塞ぐ口元。
視線をよこす人達に慌てて、軽く会釈し、目で謝る。
「そんなん言うたら、オレなんて名前叫ばれたんやで?」
隣を歩きながら平次は、そう言って苦笑した。
先程、そんなお約束のような一コマを展開してしまったそこは、通学路から少し外れたところに
ある図書館の閲覧室だった。
まだ帰るのが早いと思った時、はそこに寄る。
宿題やレポートをやることもあり、また棚から取ってきた本を読んでみたり、はたまたそれは単なる
ポーズで、本を広げて読むふりをしながら考え事、なんて日もある。
今日のは三番目。しかも落ち込み気味思考なため、机に伏せってしまったら、いつのまにか
寝ていた模様だ。
ソコを平次に起こされて…… 現在に至る。
平次が話がある、と言ったのとやはり先程の一件でいたたまれなくなったため、図書館は出てきた。
「あー…… 悪かったわ。堪忍な」
「いや、ええて」
バツが悪そうなに、即座に返す平次。
「それより、何か飲むか? おごったるわ」
それで、この先の公園ででも話そうか、と平次が提案してきた。
公園で、には賛成だけど自分の分は出す、と言うに、ええからええから、と平次が押し切る
形ですぐそこの自動販売機からアイスティーを二本購入。
じゃあ次の時は自分が出す、ということにしてありがたく戴いた。
「……しかし、安心したわ」
公園について、適当に歩いて見つけたベンチに座って。
それまで他愛もない話をして、笑って。
喉も乾いたし、早速先程買ったアイスティーを開けた。
「もう、大丈夫なんか?」
「え?」
「……昨日、あんな顔して歩いとったから」
「あっ……」
そう言われて、が顔を伏せる。
学校では、いつもと変わらないように振舞えたけれど、今だって笑って話せていたけれど。
その裏側では、ずっと抱えていた気まずい思い。
昨日のあの時程ではないが、やはりずっと引きずっている…… そう、今でも。
「ホンマに…… 何かあったんか? オレでよかったら、相談のるで」
そう言って、平次がアイスティーを煽る。
「ホンマに、あんな今にも泣きそうな、思いつめた顔して。そのまま道路ツッ込んで行きそう
なん見たときは、心臓止まるかて思うたわ」
「……ごめん」
がそう言って唇を噛んだ。
自分がそうなった原因。そうなった出来事。
今まさに、自分が思い悩んでいるそのものだ。
でも。平次には、言えない。
「和葉には言うたんか?」
ふるふる、とそれには首を振って答えた。
言える訳がない。和葉にはもっと、だ。
「そうか…… 和葉にも言えへん事なら、オレにも言えへんのやろうけど。でも、それでも
言うてくれたらな、なんぼでも力になるで?」
それは…… そうなのだ。
もし言えれば、そして万が一、平次が受け入れてくれたら……
……否。アカンな、和葉。ごめん。
でもな、和葉。私、ホンマはもう、全部服部君に言うてしまいたいねん。
苦しいんや、このまま黙ってるの……
平次には、言えないこと。でも、平次にこそ、知ってもらいたい想い……
「オレかて、このままやとホンマに辛いんやで、」
「惚れとる女が、こないに辛そうなカオして黙り込んでるの、ただ見てるだけ、てのはな」
……え?
「服部君?」
……今、何て… 何て、言うた?
「今の、って……」
が顔を上げて、平次を見た。
「昨日言うたやろ。…… に、目の前で死なれてまったら一生立ち直れへん、て」
そう言われて、が頷く。“きっと一生忘れられない言葉になる”と…… 聞いた時に思った。
「オレは、が好きなんや。せやから、こないな風に辛そうな顔してるの、黙って見てられ
へん。何か辛いんなら、力になるで」
平次がそう言って、を見た。
「……ねえ、服部君」
「ん?」
フッ、と肩の力を抜くと、は言った。
「……“にとっては他人事やからな。平次の事なんか関係ないし”」
「……は?」
ようやく話してくれると、平次は思っていた所だろう。ところが、の口から出たのは
こんな言葉。
「何聞いとったんや、オレはが」
「昨日。昨日、和葉にそう言われたんや。私」
ごめん、和葉。私…… アンタを、裏切る事になりそうやわ。
でも、私覚悟決めたんよ。
そう、心の内で少し思って、は続けた。
「そう言われてカァってなって…… その後、ちょっとキレたんやわ、私。でも、その場は何とか
取り繕ったんやけど…… 和葉と分かれて、一人になった後も、ずっと引きずっててん。
何かぐちゃぐちゃに思い詰めながら歩いとったトコだと思うわ、服部君が私を見かけて、助けて
くれたんは」
「そうやったんか…… って、何言うてくれとるんや、和葉のヤツ!」
ようやくから話が聞けた…… そう思った所なのだろう、平次としては。けれどその内容が……
ほっとしたのもつかの間、すぐ表情を変えて平次が声を荒げる。
「服部君。服部君にとって、和葉は何?」
その様子を見ていたが、くすり、と笑って言う。
「何って…… も知っとるとおり、腐れ縁の幼馴染や」
「そう言える位、昔からずっと一緒におったんよね」
「まあ…… そういう事に、なるな。でもそんだけやで? そんだけで、和葉とは何もあらへん。
昔も今も」
心なしか、バツが悪そうなのに力説する平次がそう言うのに、は黙って頷く。
「その和葉に、そう言われたんや。確かにな、幼馴染っていう時間の長さにはかなわへんけど、」
「それでも、五年。中一ん時から五年も、一緒につるんどったら。……好きになるんは、充分やろ?」
が、平次を見上げてそう言った。
「……せやから、言うてるやろ」
そんなを引き寄せて。
「オレは、が好きや、って。なぁ」
の肩を抱くと、平次がゆっくりと噛みしめるように言った。
「……うん。私も」
も頷いて、言った。
「私も、平次が好き」
……ごめん、和葉。とうとう、裏切ってしもうたなァ……
親友を思うと、少し、胸が痛いけれど。
でももう、自分に嘘は、ごまかしは、無理だと。
は思った。
<貴方の隣に/FIN.→next“一緒にいても”comming
soon…>
ってことで平次夢三部作第二話 です。
どうやら両想いv
そして話は、もうちょっと続きます。
ええ、こういう話はもちろん、一緒になるまでの過程も大事だけど、
一緒になった後のほうが知りたくありません?
よくくっついてHAPPY
ENDって多いですけど、その後は? と思うの
私だけでしょうか?